第160話 理想と現実の狭間で、浪漫を追い求める者達
レイア達は寄り添い合いながら、真っ白な灰になったかの如く燃え尽きていた……
「うん。無理だったな」
「えぇ、無理でしたね」
「作ってる最中は面白かったんじゃがのう」
「旦那様が暴走し出したからね……」
「私はレイアがやりたいと言ったら、止められないもの」
五人が見つめる先にあるのは、合体ロボを作ろうとした慣れの果てだった……
__________
ウーバーを浮かせている『浮遊石』を沢山用意し、各々が形を立案する。そしてコヒナタがレイセンの街に住んでいるドワーフ達と、『エアロバイク』の原型を作り上げた所までは良かったのだ。
エルフの技師も手伝ってくれたお陰で、通常のウーバーの二倍以上の速度が出せる爽快な乗り心地だった。クッションにも拘り、座った時に尻が痛くなら無い様に厳選した羽毛を詰めている。
景観は後々格好良くしていけば良いと、皆がエアロバイクの乗り心地を楽しんでいたその時、女神だけが黙り込んで悩んでいたのだ。
(違う。異世界に来て俺が乗るべき乗り物はこんな普通の乗り物じゃない……そう、浪漫だ。浪漫が足りていないから、心を満たす充足感を味わえないんだ。地球のみんな、俺に知恵と浪漫を分けてくれ……いや、この考えは拙い。やはりロボか、合体ロボしか無いんじゃね? 都合よく五人いるんだ。アズラには後日、サポートメカに乗る係をやって貰えば……イケるか? イケるんじゃね? うん! 行こう! 立ち上がるべき時は、ーー今だ!)
「皆さん注目! 俺は合体ロボを作る‼︎」
突如宣言された合体ロボ発言に、コヒナタ、ディーナ、ビナスは一体何の事だと首を傾げ、異世界知識を持っているナナ、アリアの天使組は猛烈に嫌な予感に苛まれた。
ーー因みにカルミナはみんなのご飯兼世話役として、買い出しなど別行動を取っている。
「一体何の事かな? レグルスでも聞いた事がないよ。ロボって何?」
「良い事を聞いてくれたねビナス君。ロボとはロボット! つまりは浪漫だ!」
「それじゃあ何の説明にもなって無いわよ? ほら、コヒナタでさえ理解出来ていないじゃない」
「うーん。説明が難しいんだけど、簡単に言うとみんなのエアロバイクがくっ付いて、一つの巨人に変形するみたいな?」
「何じゃ、その素晴らしい乗り物……トキメクのう」
「えっ! ディーナ分かってくれるの?」
「何と無く、強い感じがビンビン伝わって来るのじゃあ!」
「そうなんだよ! 合体ロボの何が凄いって戦いで強いんだよ! トドメはどーんって感じなんだよ‼︎」
身振り手振りで凄さを伝えようとするが、ディーナにしか熱意は伝わっていなかった。だが、コヒナタは冷静に話を聞き、レイアが求めるモノを必ず再現して見せると、密かに闘志を燃やしている。
「分かりましたレイア様。取り敢えずアリア様をお借りしますね」
「そう来ると思ったわ。図面を引くから工房に行きましょう」
二人は意志を通じ併せていた。レイアの説明よりも、実際に構図を書いてコヒナタにイメージを伝えた方が早い。
そして、コヒナタはそれを求めた。何故なら、ーーレイアは絵が描けないからだ。一度試して見たが、丸が四角に見える程のセンスの無さから、皆に憐憫の視線を向けられて半泣きだった。
「じゃあ、俺達は足りない材料とか使えそうな鉱石取って来るね! エアロバイクで一っ飛びさ! ビナスは魔力が足りないから俺の背に乗ってね」
「おぉ、楽しそうじゃのう! 競争じゃぁ!」
「昨日寝る時に言ってたドライブだね? 楽しみ〜」
コヒナタとアリアはその光景を見て、選択を誤ったかと一瞬後悔するが、最後に一番愛しい人を感動させるのは自分達だと腕を交差し、タッグを組んだ。
ーー其処からは、試行錯誤の日々が続く。
浮遊石同士が反発し合ってしまい、中々エアロバイク同士をくっ付ける事が出来ない現状を打破する為に、エルフの国随一の機構学の権威を呼び付けた。
更に噂を聞いて駆け付けたエルフの技師や学者達が、会議を開いて意見を出し合う中心に、何故かレイア議長が座っている。
「だから! ここのフォルムをこう曲線に変えれば、スムーズにくっ付けられるだろうが!」
「それは私だって分かっている。しかし、己の心が拒否しているんだ! 求めているのはその形じゃ無いと」
「起動性を重視しなくてどうするんだ!」
「違う……格好良さも必要なんだよ! 議長はいつも俺達に理想を語ってくれたじゃ無いか! 武器は握らせたい!」
「ぐっ……俺だって分かってるんだよ。でも、でも完成させたいじゃ無いか! こんな風に俺達が力を合わせた事なんていつ以来の事か……」
「お前……そんなに大事に思ってくれてたんだな」
「あぁ、キツく言って悪かったよ。そうだな。もう一度最初から見直して行こうぜ! なぁ、みんな!」
「ドワーフ達もどんな要望でも出して来いって言ってくれてる。何としても合体する為の内部機構を俺達が作り上げるんだ!」
「俺達ならやれるさ!」
「あぁ、エルフの寿命舐めんなっての!」
そんな感じで会議が進んでいく中、当の本人は胸元で両腕を組みながら焦っていた。
(一体何故、こんな大仰なプロジェクトが開始されているんだ……まず、さっきから青春しているお前ら誰じゃい! おかしいな。俺は仲間達と楽しく作り上げるつもりが、何故かエルフとドワーフの合同部隊指揮官にもなってるし……エルフ組の会議が行われる際には、自然と迎えが来る立場になってしまっている。拙い、何か嫌な予感しかしない)
「議長! 本日の『合体ロボの魅力について』第四十二話をお願い致します!」
「おっ、もうそんな時間か! じゃあ、今日は剛神合体ガルバムの第四十ニ話『天命』の話をしてやろう。前回の会議で話した新たな機体が、天空から舞い降りる所から始める。復習は出来ているだろうな⁉︎」
「「「「「はい、勿論です!」」」」」
このレイアが読み聞かせた話は、後に一冊の本として新しいジャンルの開拓、革命と認められ、異世界中で売れるのだが……それはまだ先の話。
この物語を聞いている時のエルフ達の眼は、輝きと希望に溢れている。実現させて見せると闘志を燃え上がらせているのは、己自身が完成したガルバムを見てみたいからだった。
その後、エルフとドワーフ、レイア達はエアロバイクの改良に取り掛かり、試作機を完成さえる迄に至る。凄まじいのは、みんな不眠不休で取り掛かりたった為、二週間程しか経っていないという事実。
ーー記念すべき合体ロボの試作機に、胸をときめかせていた。
「じゃあ起動するぞ! エアロバイク一号!」
「任せるのじゃ! エアロバイク二号!」
「いきます! エアロバイク三号!」
「レイア、嫌な予感しかしないわ。エアロバイク四号……」
「封印が解けてる間だけだから急いでね! エアロバイク五号!」
「「「「「合体!」」」」」
其々のエアロバイクが空中を飛ぶと、縦一列に重なり、各々のパーツが一部変形していく。浮遊石を内部に仕舞い込む事で反発力を抑え、魔力伝達を向上させる事で、重さにも耐え得る仕組みを見事作り上げた。エルフ達の歓声が鳴り響いているーー
ーーそして、無事パーツが変形して組み上がっていく姿を見て、ドワーフは涙を流していた。
レイア達の身体を収納する様に外部フレームが閉じていくと、不恰好ではあるが、本当に五つのパーツが合体したのだ。
動かし方はエアロバイクと同じく魔力を流すだけだと聞いていた五人は、徐々に自らの魔力を高めていった。
「いっけぇ! 俺達のガルバム!」
ーー手足を動かそうと魔力を高めた次の瞬間、不測の事態が発生する。
そう、五人の魔力が高過ぎるのだ。特に二人、女神と元魔王の魔力値は計算外過ぎた。
各部位の機体が熱を持ち始める。内部に取り込まれた浮遊石が流し込まれる魔力に耐えきれず、発熱しているのだ。
「なんか暑くない?」
「嫌な予感がするのう……」
「あっ、これ拙いやつですね」
「だから……言ったじゃない……」
「あっ、魔力解放も切れちゃうよ」
「ナナ、これってもしかして……」
「爆発するに決まってじゃん。私は最初から分かってたけどね〜?」
「何故言わない⁉︎」
「……最近構ってくれないからお仕置き?」
「アホかぁぁぁぁあっ!」
「グッバイマスター!」
ーーチュドオオオオオオオオォォォォォーーン!
極大の閃光と共に、ガルバム試作機は大爆発した。夢の破片を撒き散らし、漢達の絶叫が轟く。
咄嗟にレイアはリミットスキル『久遠』の『空間固定』で爆発から皆を守るが、空中から地面に落下する際に見た、ガルバム試作機の沈む姿に涙した。
「さようなら、僕達の浪漫……」
__________
『そして話は冒頭に戻る』
「はぁ……俺達の乗り物はエアロバイクしかないかぁ」
「オッホン! その事でお話があります。ねぇ? アリア様」
「えぇ、私達は元々成功すると信じていなかったから、保険を掛けておいたのよ」
自信満々な二人の表情を見て喜ぶ面々だが、レイアは特に顎が外れそうな程に驚愕する事になる。
アリアの知識を得たコヒナタの実力は、止まる事を知らなかった……
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