第161話 その名は『機神ライナフェルド』

 

 ガルバム試作機が失敗に終わり項垂れる面々を横目に、アリアとコヒナタに工房へ案内される。正直、これだけの労力を結集した機体に対抗できる乗り物があるとは思っていなかった。

 きっと自分を慰める為に、エアロバイクより凄い程度の乗り物を作ってくれたのだろうと……


 ーーその考え自体が、コヒナタを舐めていた事を知る。


 _________


「ここにあるのかい?」

「えぇ、かなりのサイズになったので、工房を丸々一つ借りたのですよ」

「パーツを運ぶのに苦労したわ」


 ディーナとビナスにはガルバムの残骸の処理の手伝いをお願いして、二人に案内された工房を進む。

 眼前には、十三メートル程の高さからカーテンが敷かれていた。


「さぁ、見て下さい! 私とアリア様の傑作を!」

 紐を引くと同時にカーテンが開いていく。最初は温かい目で見ていたが、幕が開けるに連れてその表情は一変した。


「えぇぇーーっ⁉︎ 嘘だろ⁉︎」

「えっへん! アリア様の知識を元に、ルーミアやグラビ鉱石、ミスリル、アダムガイトやフラン鉱石等を組み合わせて作った外殻、ナナ様にゼン様を通じて力を借りた、神気を通す内部機構! 問題があった合体は無理でしたので、最初から完成体を作り上げたのです! その名も『機神ライナフェルド』ーーアリア様と私が胸を張って誇る機体です!」


「どうかしら? 私は元々神界で眠っている間に見たレイアの世界の知識しか無いから、これが正解なのかは自信が無いのだけど……懸命に頑張ったのよ」

 眼前には、美しい細身のロボットのフォルムと共に、紅いモ○ルスーツが立っていたのだ。出るのか分からないが、背に付けられている二丁の加粒子砲。腰に付けられた二本の刀。左手の十字軍を模した盾。色々混ざってはいるが、確かにロボだ。


 ーーそれは、自らが考案したガルバムのクオリティーを遥かに超えた逸品だった。


「ほ、本当に、動くのか……?」

 天使とロリドワーフの不安そうな顔を見て、涙が溢れるじゃ済まない程にちょちょぎれていた。こんなに感動したのはいつ以来だろうと、素直に認めざるを得ない。


「うわあああああああああぁーーーーん!」

 子供の様に泣き叫ぶレイアを、辿々しく二人は抱きしめる。正直答えを聞いていない状態で、嬉しいのか悲しいのか分からなかったからだ。


 嗚咽を吐くほどに泣いた後、言葉を詰まらせながら問い掛けた。

「こ、これは、乗れるの?」

「え、えぇ、レイア様の神気に反応して動く様に出来ていますよ。ザッハールグと同じ『心霊石』に両手を置いて、神気を流し込めば思いのままに動くと思います」


 涙を拭って『女神の翼』を広げると胸部のコクピットを開き、中を見つめた。その構造自体は自分が想像していたものとは違うが、座席の横に備え付けられた心霊石を見て頷く。


「だいたい分かる。コヒナタとアリアが設計した仕組みが、『悟り』のお陰で理解出来た。ナナ、お前も一枚噛んでたのか?」

「えぇ、主人格に頼まれましたからね。二人には計算しきれない、内部機構のコアを私が設計しました。他にもマスター以外が操れない様にロックをかけたり、『機神戦闘モード』という特殊機構を備えつけてあります」


「ナビナナは本当に優秀だな。じゃあ、乗ってみる」

 座席に座ると各パーツを眺めた。元の世界の自分が知ってるアニメとは違って、外を映すパネルの他に八個の心霊石が上下左右に配置されており、座席に備えられた両手を乗せる二個以外は他のアクションを取る為の石だと理解出来た。


 おずおずと両手を心霊石に上に乗せ、神気を込め始める。以前と違い女神の神体へと進化したこの身体は、神気の扱いに長けていた。


 ーーガシャンッ! ガシャンッ! ガシャンッ!

 ゆっくりとライナフェルドが歩き始める。上下に動く感覚さえ心地良かった。視覚センサーを眼下に向けると、コヒナタとアリアが喜びつつも、不安そうに手を握り合っている。


 ーーその姿を見ると目頭が熱くなり再び涙が溢れた。しかしまだだ。もう少し待てと己に言い聞かせる。流し込む神気を増やして、スピードを上げた。

 ライナフェルドはとてつもない速度で駆け出し、工房を抜けると同時に上空へ飛んだ。横部の心霊石に神気を流し込むと、ブーストが発動して空を翔ける。


 その姿を見たエルフとドワーフは感涙し、歓声を轟かせた。レイセンの街からも見える姿に腰を抜かす者、奇跡に涙する者、飛び跳ねる者と多様なリアクションを見せている。

 そして、城からその巨人の姿を見たイザーク王は腰を抜かしていた。両隣にいた白夜、極夜も同じく顎が外れそうな程に驚愕している。


「学者達から話には聞いていたが、あ、あれがGSランクパーティー『紅姫』の力か……」

「あり得ない。なんだあの胸がトキメク乗り物は……」

「白夜よ、賛同しよう。土下座してでも乗せて貰いたい……」


「リコッタだけでは対処できぬ場合、あの者に救援を頼むしかあるまいよ」

「普段なら反対しますが、あのロボと呼ばれるものがどう戦うのか見てみたいので……」

「同じく……超見たい」

「問題は引き受けてくれるかだな」

 イザークは未知の力を見せつけられ、不安に駆られていた。しかし、冒険者ギルドからの報告で決して魔なるものでは無いと『紅姫』を信じる事にしたのだ。


 ___________


「うおおおぉぉぉぉぉ! 巨大だからか自分で飛ぶより早く感じる! 『神体転移』使わなきゃだけど!」

「マスター、乗り心地はどうですか?」

「超楽しい! そういえば、この背中の加粒子砲って撃てるの?」

「えぇ、今のマスターが全力で放つ『滅火』と同等のレーザーが放てますね」


「『滅火』程度か、「滅裂火』までは出せないんだな?」

「あの技はマスター以外には不可能です。撃てば砲身が焼け落ちますよ?」

「大丈夫だよ。撃つ機会も無いだろうし」

「えぇ、マスターは寧ろこの機体に乗った方が、制限が掛かっていいかも知れませんね」


「取り敢えず性能は分かったし、イメージ通り動く事も理解した。戻ろう!」

 元の工房に向けてライナフェルドを戻すと、コクピットから降りた途端、コヒナタとアリアに抱き着いた。


「二人共本当にありがとう……最高だよ!」

「お気に召して頂けたなら良かったです」

「えぇ、頑張った甲斐があったわね」


 ーー突然二人を抱き抱えると『神速』を発動して仮宿へと戻り、ベッドに降ろす。


「ふぇ⁉︎ どうしたんですかレイア様?」

「うふふっ! コヒナタ、私達が勝ったのよ!」

「感謝を行動で示そうと思ってね? 二人共、ーー全力でいくからよろしく!」


 その後、痙攣したコヒナタとアリアを撫でながら微笑んでいた。

「ライナフェルドかぁ。戦闘に使う機会はまだ先にしたいなぁ」

 その心配が杞憂に終わる事は無く、死霊の軍団は既にマリータリー内に入っており、進軍を続けていたのだ。


 エルフと悪魔とレイア達の邂逅は近い。


 一方アグニスはスケルドラゴンの背に乗りながら、月夜を眺めていたーー

「自由か……」

 ーー己の過去を思い出しながら物思いに耽る。制約に縛られている間は、本当の自由では無い。


 悪魔の王は戦闘の決意を固めながらも、その後自らはどうやって生きていくか逡巡していたのだ……

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