第162話 貧乏パーティー『紅姫』再び!

 

 アズラは戦慄していた。

 散々リコッタに弄ばれた後、漸くパーティーに戻れたと思ったら、自分が生きてきた人生の中で想像すら出来ない巨人が立っているのだ。


「姫……今度は一体何を作らせたんだ?」

「ふふふっ……良くぞ聞いてくれたねアズラ君。これこそが世界の守護者、『機神ライナフェルド』である!」

「いや、そう言われても何もわからん……俺があのエロエルフに監禁されている間に何があったんだ?」


 アズラは言葉通り監禁されていた。この二週間の間リコッタの性技、ーーもとい実験に付き合わされていたのである。

 最初は乗り気では無かったこの男……プライドと相まって最後には痴女を満足させる程の技術を身に付けていた。

 勿論、麒麟は一切手を貸していない。


「そういえば、アズラなんか窶れてない?」

「こっちも必死に戦っていたんだよ。凄まじい強敵だった。何度折れそうになったか解らない」

「な、何が折れそうになったのかは聞かないでおくよ。良く頑張ったね」

「あぁ、出来ればみんなと離れていた期間の事は、聞かないで置いて貰いたいぞ……」


 ーー漢の頬を一筋の涙が伝う。それはとても綺麗で透き通っていたのだった。

「んで、この巨人は一体なんだ?」

「あぁ、俺の元いた世界の空想上の巨人を、コヒナタとアリアが再現してくれたんだよ」

「以前聞かせてくれたあれか。良く再現出来たな」

「コヒナタだからね! さっき試運転してみたけど、大抵の敵ならこいつで圧倒出来るぞ」


「ほう。それは見てみたいな。ーーってゆーか俺も乗ってみたい」

「慣れたらコクピットに乗せてやるよ。神気が無いと動かないけど、ロックを外せば『麒麟招来』をした状態のなら動かせるかも」

「神気を必要とするのか? それはちょっと厳しいかもな……」

「時間制限ありっていうのも、これまたオツなものだよ?」


「あらまぁ? 凄いものを作ったわねぇ〜」

「でしょう? うちのコヒナタちゃんは天才なんざます!」

「姫、口調がなんか変だぞ?」


「こりゃあ確かにイザークがビビる訳だわ。リコッタお姉さんですら、ちょっとビビるからねぇ」

「うんうん。俺もカーテンの幕が開いた時にはビビったねぇ」

「おい、普通に会話を進めるな。そろそろツッコミを入れろ」

 並んでいた女神と魔王の間には、いつの間にかエロエルフが立っていた。視線の先にはライナフェルドがおり、胸をときめかせている。


「リコッタさんだっけ? 女性なのにこれの良さが分かるの?」

「ん〜なんて言ったら良いのかしら。多分予想だけど、エルフはみんなこういうのが好きなのよ。未知の存在っていうか、フォルムが痺れるって言うか」


「あぁ、確かにこの姿をみたエルフ達は何故か神を讃えていたねぇ……」

「でしょう? 多分これ、きっと純金貨一万枚出してでも欲しいでしょうね」

「そんなにか? 国宝クラスを超えてるな……」


 ーーその言葉を聞いた直後、とある嫌な予感……デジャヴに苛まれた。


「そ、そう言えばさアズラ君。俺まだ、これの制作費を聞いて無いんだ……」

「ふっ。大体想像はついているだろう? だが安心するといい。以前の装備の時とは違い、姫はGSランク冒険者、俺は魔王。資金は潤沢にあるじゃ無いか」


「そ、そうだよね? 宝石類も売れば、純金貨二千枚位なら何とかなるよね!」

「あ、あぁ。俺も国の資金は使えんが、千枚位は余裕があるぞ」

「貴方達が何の話をしているのか良くわからないけど、汗が凄いわよ? 大丈夫?」


「このライナフェルドの制作費の話さ……うちのコヒナタちゃんは金遣いの荒さも天才的なんだよ」

 すると丁度そこへ、満面の笑みを浮かべた話題の張本人が、他のメンバーと共に歩いてきた。

「レイア様! おはようございます」

「うん……おはようみんな……」


「どうかしたのかのう主様? 顔色が優れぬ様じゃが」

「そうね、何だかちょっと蒼褪めてるわね」

「大変! 旦那様の介抱はメイドの務めだよ」


 気遣いと共に近寄って来るみんなを手で制し、聞かなければなら無い事柄に勇気を振り絞る。例え『悟り』の能力で答えがある程度予測出来ていたとしても……


「こ、コヒナタ、アリア。このライナフェルドを造るのに一体いくらかかったのか教えてくれる? 俺達のお金だけで足りたのかなぁ?」

 恐る恐る問い掛けるレイアに対して、コヒナタは柔らかな笑顔を浮かべ、アリアは少し蒼褪めていた。


「あぁ、その事を気に病んでおられたのですね? 安心して下さい。持っていたお金でギリギリでしたが材料費は足りましたから。今回は職人達を含め、借金は御座いませんよ!」

「えっ? まじ? こんな凄いロボを開発したのにその程度で済んだんだ! 凄いね二人共!」


 レイアの晴れやかな喜び様に対して、アリアの顔色は優れない。ーーその原因は直ぐに判明するのだが。


「えぇ、『レイア様とアズラ様の資金全て』で足りました!」

「ふぇっ⁉︎」

「ふぁっ⁉︎」

 二人は同時に間抜けな言葉を発しながら絶望した様相に陥る。一体どうやって自分達の資金を運用したというのか? 何故上限が分かったのか理解出来なかった。


「あの、全てってさ。どうやって俺達の資金の額を理解したのかなぁ」

「えっ? アリア様に聞いたら、ナナ様がここまでなら大丈夫と言ってたと聞きましたが?」

「もしかして、純金貨三千五百枚分を全て使って足りたって事?」

「えぇ、全てと言ったら全てです!」

 その自信満々なロリドワーフの笑顔を見て、『紅姫』のメンバーは戦慄した。確かに天才なのは誰もが認めている。だが同時に、いい作品を作る為なら金遣いの荒さが天元突破するのだ。


「半端ないのう……」

「レグルスの資金は大丈夫かな? 良くミナリスが許可したもんだねぇ」

「私は途中から目を背けたわ。あの子、一切妥協しないから」


「アズラ君。我が国の資金は調達出来るかね?」

「姫よ、それは無理だ。俺が持っていた金が個人的に出せる限界だったのだから、それを使いきってしまっては、これ以上は国がまかりならん」


「うん。分かってた。今回ばかりは一緒に飲もうじゃ無いか」

「あぁ、飲みにいく金も無いけどな」

「ふふっそうだなぁ……ど、どうしよう……」

「さぁ、ギルドに依頼を受けに行こうか!」

 深刻そうな面々の元へ、リコッタがあっけらかんと口を開く。


「あら? お金に困っているなら丁度いいじゃ無い! 今この国はイケメン悪魔に狙われているのよ〜! イザークにお願いすれば、喜んで大金を叩いて依頼をして来るんじゃ無いかしら?」


「へっ? あのギルドの婆さんが言ってた厄介なやつか⁉︎」

「うんうん、受けてやるから金出せやって言ってみなさい? かなりの報酬を用意する筈よ〜?」

「り、リコッタ姉さん! 感謝!」

 感謝と同時にリコッタの胸に飛び込んだ。慈悲の眼差しに見つめられながら銀髪を撫でられる。


「良いのよ〜! 貴方が男になれるって知ってるからねぇ……しかも絶倫なんでしょう? ちょ〜っとお姉さんにと勝負してくれたら良いのよ〜!」

「いや、それはウチの嫁達がキレるんで無理っすけど」

「あらぁ? じゃあ邪魔者は寝かしつけ無いとねぇ」


 指の骨をパキパキと鳴らしながらエロエルフは気合いを入れ始める。直ぐ様アズラへ顎で指図し、念話と共にアイコンタクトを迸らせた。


『いけ! お前の責任だろうが』

『漸く戻ってきた俺に、その仕打ちは流石に非道だぞ⁉︎』

『お前は俺の騎士だろうが! 今現在俺の貞操が危機なんだ。騎士なら守れやこらっ!』

『理屈は合っているのだが、理由が途轍も無く嫌だ』

『うるせー! ライナフェルドぶつけんぞこらぁ⁉︎』

『畜生! 今回は一日で帰って来てやるからな‼︎』


『……君の勇気に敬礼!』

『……逝ってきます!』

 アズラは背後からリコッタを抱き抱えると、涙を迸らせながら駆け出した。レイアはその姿に敬礼している。勇者にーーいや、魔王に祝福あれと……


「あらあら〜? まだそんな元気があったのね坊や〜?」

「うっす! 自分が枯れるまで相手をお願いしまっす!」


『二時間後』


 アズラの健闘虚しく、ツヤツヤした表情で戻ってきたリコッタは、少し真面目な趣で語り掛けてくる。

「イザーク王がお会いになるそうよ。準備が出来たら教えて頂戴」

「あぁ、こっちも『神樹の雫』について聞きたい事があってね。丁度良いよ」


 こうして、エルフの王イザークとの謁見が始まろうとしていた……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る