第109話 レイアVSピステア軍 1

 

「ごめんなさい! ほんっとぉぉに、ごめんなさいぃ!」

 私は土下座しながら、大穴から這い出て来たみんなに謝りました。まさか自分にこんな力があるなんて思っても見なかったのです。


 ーー異世界だと認めた後でも、まだ信じられません。


「私達も熱くなってしまい、申し訳御座いませんでした。どうか頭をお上げくださいませ」

「旦那様は悪くないよ。全部、この下衆野郎が悪いんだから」


「旦那様? なんかビナスさんの雰囲気が変わったような……」

「ん? もう演技なんて面倒くさくてしてられないよ! メムルの言う通り旦那様を混乱させない様に我慢してたんだけど、もうやだ!」


「なんで旦那様? 演技? ちょっと意味がわからないんですけど……」

「ビナス様、ご主人様が困惑しておられます。ほら、私の申し立て通りでは御座いませんか?」

「煩い、この泥棒メイド! とりあえず、旦那様の記憶を取り戻すのが先だよ。なんでこうなったのかな?」


「私が知りたいですよ……ザンシロウさんは何かを知ってるみたいでしたけど」

 私達は一斉にザンシロウさんを見つめました。頬をポリポリと書きながらキョトンとした顔をしています。


「俺様が知ってることなんか少ないが、しょうがねぇから話してやるよ。まず、戦神に初めてあったのは『大地の試練』ってダンジョンだ。どうやらポーターとして、別のパーティーに紛れていたみたいだな」

「私、本当に冒険者してるんですねぇ」


「おう。そこでシールフィールドの封印を解いてしまった戦神は、悪食メルゼスっていう災厄指定魔獣を超える存在と戦った。その後、俺様に喧嘩を売ってきたのでボコボコにしたんだが、その時に特殊なスキルの封印を解いてたな。多分記憶を無くしたんじゃないぞ。別の封印が、戦神の魂を絡め取ってやがる」


「じゃあ、旦那様の記憶は私と同じ様に封印されてるって事?」

「神々に封印を強化された影響じゃねぇか? 正直、気の質まで変わってる。女っぽいのもその影響だろ。身体に精神が引っ張られてんだ」


「ご主人様を、元に戻すにはどうしたら?」

「そりゃあ、俺に聞かれてもわからねぇよ。何かきっかけさえあれば、封じられた魂は自力で戻るはずだ」

 三人の話は、私にはちんぷんかんぷんでした。封印? どこのゲームの話でしょう? 


「あの〜全然意味がわからないんですけど……」

「ご主人様。魔術は使えますか? スキルの発動は?」

「だ、だから、それ何のゲームの話? 説明してくれなきゃわからないよ!」


「先程の戦いで私が放っていた魔術を見たでしょう? あれはご主人様も放てる筈なのです。唱えてみてくれませんか? アイスランスと」


「あ、アイスランス?」

 言われた通りにしましたが何も起こりませんでした。そりゃあそうだよ、私は普通の可愛い女の子だもん。


 ーーこの大剣が、きっと凄いだけだよ。


「やっぱりスキルや魔術が使えない様になってますね。じゃあ、先程の力は一体……」

「ステータスはそのままなんだろ。だが、神力も封じられてるな。そうだ! 戦神、その大剣どうしたんだ。見せてくれよ。凄い威力だったじゃねーか!」

 ザンシロウさんが、玩具を見つけた子供の様にグイグイ近づいてくる。ちょっ! 近い、近いよ!


「わかりましたから離れてぇ! はい! どうぞ?」

「すぐに返すからよ。それにしてもすげぇ神力を感じる大剣だなぁ。お前さんが前に使ってた双剣も凄まじい力を持っていたが、こいつは力に特化した戦神には丁度いいかもしれねぇな。よっと! お? おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?」


 私がザンシロウさんに大剣を渡した瞬間に、レイグラヴィスはーー

 ーーズドオオオオオオオオオォォォォォン!! 

 破壊音を立てて、手から地面へと落下しました。不思議だなぁ? なんか凄い重い剣みたいに見えるよ。あんなに軽いのになぁ。


「ぎゃあああぁぁぁぁあ! 足、足の上に乗ってる! ーーってかこの剣重すぎるだろうが! 持つことすら出来やしねーぞ⁉︎ どけてくれやぁ! 痛だぁぁあ! どけてくれえぇぇぇぇ!」


「あはははっ! 何遊んでるんですかザンシロウさん? 演技でも面白いですよ!」

「演技じゃねぇぇぇ! 足が千切れかけてるうぅぅぅっ!」


 この人もこんな演技が出来るんだなぁ。なんかお笑い芸人みたいで面白い。しょうがないから演技に乗って上げようと、大剣を持ち上げました。

 ーー次は、どんなリアクションを見せてくれるんだろう?

「あれ? なんか足が陥没してませんか?」

「演技じゃねぇって言ってんだろぉ⁉︎ 何でお前さんそんな重い剣を軽々と持てるんだ? これでさっきの剣技の理由は分かったがよぉ〜」


「えっへん! さっきの技は『アースブレイク』と名付けました! カッコいいでしょう!」

 力強く頷いていると、涙目のザンシロウさんが睨んできます。


「分かった。その大剣は主人の望む様に重さ、重量を変化させるんだ。下手すると重力を操るな。だから認めた者以外には正真正銘持てない武器だ。最初に気づけば良かったぜ……」


 私は鞘にレイグラヴィスを仕舞います。鞘がーーカシャ、カシャンと黒い革の鞘に戻りました。凄いなぁこのギミック。

 ビナスさんとメムルさんが横に並ぶと、背後にはシルバがいつの間にか居ました。やっぱりこの子素早いね。


「それで、私は自分の家に戻るつもりなんですけど、ザンシロウさんはこれからどうするんですか?」

「言っておくが、貴様に食わせる飯はないぞ下衆男! 旦那様が許そうとも私が許さん」

「別にお前らの世話にならなくても問題ねぇっつの! 俺様はGSランク冒険者だぞ? 溜まったポイントだけで、城を建てる事が出来る程の金は持ってんだよ!」


 その発言に、メムルさんが驚きの表情を浮かべていました。どうしたんだろう?

「ま、まさか実在してたのですか? 私はてっきり噂だとばかり……」

「おう。お前さんも冒険者の端くれなら覚えておきやがれ。この世界に七人しかいないGSランク冒険者、ザンシロウとは俺様のことだ! まぁ、その中でも俺様が最強なんだけどな! ガッハッハ!」


「SSランクを超える存在、『測れぬ者』ですか。また落ち着いたら、色々お話を聞かせて頂きたいものです」


「別に構わねぇが、俺はうだうだと説明するのが苦手なんだよ。酒を飲みながら美味いツマミがありゃ、いずれ語ってやるさ。ーーっと、こりゃあ一体どういう事だ? 軍気が迫ってやがるな。六千人位か? お前ら心当たりあるか?」


 突然、刀を抜いて戦闘モードになってます。何を感じたんでしょう? 軍気? 意味がわかりませんね。


「いきなりどうしたんですか? 軍気ってなんです?」

「ご主人様。この方が言う事は本当です。サーチの魔術を使いましたが、五千人を優に超える軍が、こちらを目指して進軍しています」

「私はさっき魔力を解放しちゃったから暫くは何も出来ないんだ。悔しいけど逃げた方がいいよ! シルバもそう言ってる。狙いは自分じゃないかって!」


「なんで軍隊がシルバを狙うの? 意味が分からないんだけど。私達を狙ってるか分からないんでしょう? 記憶を無くす前の私は、狙われる何かをしたのかな」

 ーー正論に、みんなは確かにそうだと首を傾げます。


「ご主人様の言う通り、シルバは私がテイムした魔獣という事で表向きは話が通っていますし、冒険者ギルドマスターのマイルビルにも了承を得ています。私達が狙いではないかもしれませんね」

「いや、俺様の殺気感知能力がビンビン反応してやがる。間違いなく狙いは俺達だ。どうやら、元魔王は魔力を使えねぇし、メイドはせいぜいSランクに届くかどうかの雑魚。んで、肝心の戦神はスキルも魔術も使えないステータスの馬鹿力のみってか……なかなかに負担が大きい戦いになりそうだぜ」


「我が家のペットをもう一人呼びましょう。ビナス様の護衛が必要でしょうしね」

 メムルさんは小さい笛を口に咥えてーー

『ピィィィンッ』

 ーー甲高い音色を鳴らしました。こんな小さい笛で何を呼ぶのでしょうか。


「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーーん! 紅姫家序列五位、ジェーンことチビリー参上っす! ご主人会いたかったっすよ!」

「はぁ……初めましてチビリーさん? でいいのかな」

「な、何すかこの優しい瞳をしたご主人は⁉︎ いつもの見下す様な冷酷な瞳はどこへいったんすか⁉︎ もっと罵っていいんすよ? ご主人のストレス発散用ペット、チビリーっすよ⁉︎ 忘れちゃったんすか?」


 うん。こんな変態の友達が居たんだなぁ。きっと苦労してたんだろうね。ーーよく頑張ったよ私。


「えっ? シルバの念話も届かない? マジっすか⁉︎ ふむふむ。大体事情は分かったっすよ! ようは其処のサムライおじさんと協力して、これから此処に来る軍をぶっ潰せばいいっすね」


 チビリーさんはシルバと見つめあって何かを話している様に見えました。もしかしたら、本当に狼なのに話せるのかな。私だけが聞こえないのは何でだろう?


「ふむ。お前さんSランクってとこか? いないよりマシだな。相手は大体六千人位だ。お前さん何人位いける?」

「大体八百〜千位っすかねぇ? ただ、相手がピステアの正規軍なら相手も最低Bランク冒険者っす。精々五百が良いとこっすよ」

「喜べ。多分だが相手はその正規軍とやらだな。じゃあ俺様が四千人は仕留めてやるから残りは戦神、お前がやれ」


「ふぁっ⁉︎ な、何を言ってるんですか? 言ってらっしゃるんですか? 無理に決まってるでしょう! 私はか弱い女の子ですよ!」


 あれ? みんなが凄い憐憫の目で私を見つめて来るよ。何なの? できるに決まってるでしょみたいな目はやめて〜〜?

「ご主人が唯の女の子で、そんな人が普通な世界なら、この世界は一日で滅びるっすよ……」

「人を核爆弾みたいに言うのはやめてくれるかな。私は逃げる事を全力で勧めます! 世界はラブ&ピースなんですよ」

「仰ってる意味はよくわかりませんが、遅かった見たいですね。来ますよ。ーー『ワールシールド』! 初撃は私が止めます!」

 メムルさんが手を上空に向けて掲げると、無数に降り注ぐ矢が音を立てて弾かれていきます。


「キャアァァァッ! 何⁉︎ 何で矢が降って来るの⁉︎」

「覚悟を決めろ戦神! 今からじゃこの数相手に逃げられん。ぶちかますぞ」

「あの旗、本当にピステア正規軍っすねぇ。やるしかないっすか!」

「旦那様。私が足手まといでごめんね。シルバに頼んで邪魔にならない様にするからね」


「ご主人様の身は私が守ります! 離れないで下さい!」

「逃げられないんだね。何でこんなことに……」

 ガクガクと震える身体を、必死で両手で抑えつけながら前を向きます。


 其処にはピステア正規軍六千人が編隊を組んでいました。

「ゲームじゃないなら、笑うしかない数だなぁ」

 私達は後日知ります。


 人の醜さと汚さとーー

 ーーこの戦を仕組んだ人物の存在を。

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