バレンタインデーSS 『バレンタインとか興味ない』っていう台詞は実際貰える奴が言うから格好良くて、『俺甘いもの苦手なんだよね』って台詞吐いてる奴が、好きな子からチョコ貰った時に断る率0%。

 

 俺の名は『紅姫レイア』。訳あって、異世界で女神、王様、GSランク冒険者やってます。

 そんな俺は今『神域』というスペシャルな空間の中で、相棒のナナと一緒に下界を眺めているのですね。


「ナナ。チョコ寄越せ」

「ある訳ないじゃん。大体マスターが勝手に酔った勢いで元の世界のイベントなんか話すからこんな事になるんでしょ? 自業自得おつ」

 そう、異世界においてバレンタインなんてものは無縁だと思っていたのだが、あらゆる偶然が重なり合って実現してしまった。


 1、酔った勢いで女神教とマッスルインパクトの団員の前で、こんなイベントがあると口を滑らせてしまった。

 2、クラド君に問われ、チョコの特徴を伝えてしまった。

 3、時間の概念が『日』と『月』しかなかった異世界において、『時計』を生み出してしまった。これについてはマイリティスちゃんを恨みたい。


 以上の3点を以って、まさかの奇跡。バレンタインデーが実現してしまったのだ。はっきり言おう。現時点で俺は嫁達からすら貰えていない。

 だが、それも仕方あるまい。考えてみて欲しい。


 男料理と呼ばれる事があるように、料理は基本的に舌がしっかりしており、味見さえすれば成功するが、デザートの類は違う。あれは一種の科学だ。


 何グラムを間違えただけで生地は膨らまないし、割れたりするし、生クリームはデロデロするし、勘ではなんともならん。

 あくまで初心者の話だが、プリンとかレシピ無しで作れと言われて作れる奴は、下手すると甘い茶碗蒸しを作りだすと思う。寧ろ俺はクラド君との試作段階でプルプルした卵焼き擬きを作った。


 まさか、クラド君が似た材料から『カカオマス』やら『チョコレートドゥ』まで再現するとは思わなかったのだ。リミットスキル『悟り』、ーーここまで来るとは怖いわ。


 話を戻そう。何故俺がこの神域に閉じ篭ってスキルレベルが上がった事で、『神域』を行き来出来るようになったナナといるかというと、俺が女神だからさ。


 俺、『貰う側』じゃなくて『あげる側』なんだよね。男としてこんな切ない事実はないだろうよ。


 だからせめて事情を知ってる嫁達くらいはくれるんじゃないかって期待したんだけど、ディーナ、コヒナタ、アリアのチョコをトリプルで食ったら多分俺は死ぬ。


 ーー『超再生』とか間に合うレベルじゃない気がするからね。故に俺が出した結論はただ一つ。


「俺は女神の力をフルに活用してバレンタインデーだけは魔王と化す!」

「うわぁ〜! だっさ! マスターのその『俺はモテない男の代表です』みたいな発言だっさぁ!!」


 ーーグサグサッ!!


 流石ナナ様。俺の意図を読み取った上で、物凄く的確にグラスハートにアイアンナックルをかましてくれる。割れちゃいそうになるよ。既にヒビ割れてるよ。


「な、なんと言われても構わん。極小で『滅火メッカ』準備。俺のMPが尽きるまでチョコの存在を溶かし尽くす!」

「付き合ってられないからあとはナビに任せるね〜! ププッ! だっさぁ!」

 まだ泣かない。俺、全部終わらせたら泣くって決めてるんだ。


 それから、チョコを手渡そうとしてる場面を索敵しては撃ち抜いてチョコを溶かし尽くした。だが、世界は広い。俺は自分の力を過信していた事実に気付き、項垂れる。


「もう最強だと思っていたけれど、来年のバレンタインまでに『滅火』を世界中に放ってチョコを溶かし尽くすMPを手に入れねば……」

(ナビの私が何かを言うまでもなく、猛烈に泣いてますね……)


 __________


 一方その頃、嫁達は全裸になり、クラドに頼んでいたチョコを身体に塗り合っていた。


「くすぐったいが、主様の為に我慢じゃのう〜!」

「ディーナ様は胸があるから良いですけど、私なんて……」

「大丈夫よコヒナタ。私が保証するわ? きっとレイアは泣いて喜んでくれるわよ」

「良いなぁ〜。私も身重じゃなければ参加したい〜!」

「「「絶対ダメ!!」」」

 頬を膨らますビナスを睨みつけた後、ディーナ、コヒナタ、アリアの三人は穏やかに微笑み合う。だが、その裏には『次は私だ』という企みが渦巻いていた。


 今回の勝負内容は、『誰が最もチョコを舐めて貰えるか』というものだ。


 女神はこの後、喜ぶどころか頭までチョコを被ったチョコレートモンスター三体の襲撃を受ける。


『照れてるんだろう』と勘違いした三名とガチ戦闘になって、恐怖から半泣きになる羽目に陥るのであった。

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