第12話 「スキルのお勉強をしよう!」
俺は欠伸をしながら目を覚ます。昨日の様な魔獣からの襲撃は無く、岩がゴツゴツして嫌だったので倒した狼の毛皮を剥ぎ、洗ってから焚き火で燻して簡易布団を作っていた。
裁縫は出来ないから簡易に並べるだけだったが、唯の葉っぱよりはよっぽどましな出来栄えだと自負する。
「しかし、宿のベッドで眠りたい……」
軽く溜息を吐いた後、今日やる事を思い出した。
「ナナ。今日は新しいスキルと、リミットスキルの確認がしたい。最初にスキルの説明をしてくれ」
俺の命令に対し、ナビナナが即答する。主人格のドSナナ様と違い性能が高かった。何故人格を分ける必要があったのか意味が分からない。
「了解しましたマスター。まずはスキルですが、使用する頻度、またそのスキルに連なる経験でスキルレベルが上がり、能力が強くなります。それに対してリミットスキルはもう完成された能力なので、スキルレベルが上がる事はありません。しかし、限られた人にしか得られない『特殊な能力』を秘めています」
「おぉ! なんか格好良いなそれ!」
「リミットスキルは『神の祝福』と呼ばれる程、修得が難しいもので、一個体に一つしか発現しません。魔獣の中には先日のクイーンの様な特殊な個体、いわゆるキング種、クイーン種と呼ばれる例外が複数持っているケースはあります。マスターは身体自体が女神様の祝福を受けているので、特別なのだとご理解下さい」
「なるほどね〜」
説明をしっかり聞きながら勉強する。適当に聞いて後から痛い目を見るのは嫌なのだ。
「つまり普通の人間は、一つしかリミットスキルを持って無いんだな?」
「えぇ、普通の人間はですけどね。何事にも規格外は存在しますから、私の知らない事象は起こり得るかもしれませんが……」
「そこは旅をしながら、おいおい学んでいくとするさ! 気にしなくていい」
「はい、お気遣いありがとうございます。では、次に現在マスターが得ている各スキルの説明に入ります」
__________
【スキル「女神の腕」】
・傷ついた対象一体を両腕で抱擁する事で完全なる治癒をかける。しかし、一度使うと再使用までに長い期間を要する。
再使用までの時間は、スキルレベルが上がる程に縮まる。
【スキル「狩人の鼻」】
・嗅覚の上昇。スキルレベルが上がると、殺気等の気配も嗅ぎとれる。
【リミットスキル「限界突破」】
・HPの最大値の半分を使用して十分間ステータスを二倍まで上昇させる。
・レベルや、ステータス数値上昇の限界を無くす。
【リミットスキル「女神の微笑み」】
・微笑みかけた対象から向けられる感情が、好意であれば
【リミットスキル「セーブセーフ」】
・最大MPの全てを消費して、魔方陣を設置する。そこから二十四時間以内であれば、一度だけあらゆる事象を改変し、陣を設置した時間、場所からやり直す事が出来る。
ただし、死へ直結する致命的な攻撃を受けた際は、強制的に発動する。外部から発動した魔方陣への干渉は不可。
【リミットスキル「天使召喚」】
・天使を召喚し、あらゆる願いを叶えてもらう。願いを叶えた天使は一定期間呼び出す事は出来ない。使用者のレベルによって再召喚時間は縮まる。
【リミットスキル「女王の騎士」】
・対象一名に忠誠を誓わせ、契約を結ぶ。忠誠を誓った対象は契約者を護る時のみ、全てのステータスが二倍となる。
解除は契約の破棄が必要となる。
__________
「現状のスキルの説明は以上となります、結界等理解しているスキルは省かせて頂きました。あと覚えられない箇所は、別途補足していきます」
俺は詰め込まれた知識に目を回しながら「もうお腹一杯です!」と、勢いよく両手でバンザイした。
「いやー、溜め込んじゃダメだなぁ。これからは、こまめに確認していく事にするよ。それにしても、簡単に試そうと思えないとんでもスキルばかりだなぁ……特に『セーブセーフ』なんてチートも良いところだぞ? 女神様チートはくれないとか言っておきながら、とんでもないお土産をくれたもんだね」
少しずつ実践して慣れていくしかないかと頷いていると、気になったスキルの事を問いかけた。
「あれ? そう言えば一個だけ説明が無かったリミットスキルがあるけど、これは何? 塗り潰されててよく読めないんだけどさ」
「…………今は使えないスキルですよ」
ナビナナが珍しく即答しなかった事に驚いたが、レベルが足りなくて使えないのだろうと深く気にしなかった。俺は後々この時の事を酷く後悔する事件に巻き込まれる。
もっとちゃんと聞いておけばよかった、と。
__________
スキルの勉強が終わったら、ご飯だと駆け出していた。今日は鶏肉が食べたくて、鳥型の魔獣や野鳥を探していたのだ。
『女神の眼』を全開にしてナナの索敵範囲内を走り去り、埋め潰して
「明日は何をしようかなぁ〜! 探検でもするかね」
そんな呑気な事を考えていた頃、突然上空から雷光が降り注いだ。
ーーズガガガガガガガガガガガガガガッ!!
激しい音を立てながら、周囲の地面が削られていく。咄嗟に『結界』で防ぐことに成功したが、身体は吹き飛ばされて木に叩き付けられた。
「ガハァッ! な、なんだいきなり⁉︎」
溜まった空気が無理やり吐き出される。
(この世界で、こんなまともなダメージを食らうのは初めてだな)
頭を横に振り、無理矢理朧げな意識を覚醒させた。
「マスター顔を上げて! 多分……かなり厄介な敵!」
慌てているのがハッキリと分かる程にナナが声を荒げる。俺はふらつく身体を起こしつつ顔を上げ、土煙の向こうから歩いてくる人影を見た。
その男は黒い鎧を纏い、身体と同じニメートル近い大剣を片手に持っている。額から一本の小さな角が生えており、赤い短髪、身体は真白い。
何より顔はモジャモジャな髭を生やしたおっさんだ。格好良さげな装備を髭が台無しにしていた。
「おいおい。今ので終わりか、盗人よぉ?」
異世界で初めて魔獣以外に聞く、図太い声が場に響き渡る。
この時、俺は呑気なダンジョン生活の強制的な終わりを感じた。逃げるか、倒すか、どちらかしかない程の敵意。
「魔人」が其処に立っていた。
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