第59話 それはそれは優しい盗賊に出会ったそうな。

 

「ナナ、念の為戦闘になるかも知れないからステータス更新しておく。この前打ち合わせた様に上がったレベル分のSTポイント3900を力900他500ずつで割り振っちゃって?」

「了解しましたマスター」


 __________


【名前】

 紅姫 レイア

【年齢】

 17歳

【職業】

 女神

【レベル】

 70

【ステータス】

 HP 5249

 MP 3867(4067)

 力 8879(17758)

 体力 3346

 知力 3236(3536)

 精神力 2095

 器用さ 3049

 運 75/100


 残りSTポイント0


【スキル】

 女神の眼Lv10

 女神の腕Lv4

 女神の翼Lv7

 女神の天倫Lv2

 ナナLv10

 狩人の鼻Lv5

 身体強化Lv10

 念話Lv3

 霞Lv3


【リミットスキル】

 限界突破

 女神の微笑み

 セーブセーフ

 天使召喚

 闇夜一世(現在使用不可)

 女神の騎士

 ゾーン

 剣王の覇気

 黒炎球

 心眼

 幸運と不幸の天秤

 一部身体変化

 聖絶

 エアショット


【魔術】

 フレイム、フレイムウォール、シンフレイム

 アクア

 ヒール、ヒールアス

 ワールドポケット


【称号補正】

「騙されたボール」知力-10

「1人ツッコミ」精神力+5

「泣き虫」精神力+10体力-5

「失った相棒」HP-50

「耐え忍ぶと書いて忍耐」体力+15精神力+10

「食いしん坊」力+10体力+10

「欲望の敗北者」精神力-20

「狙われた幼女」知力-10精神力-20

「慈愛の女神」全ステータス+50

「剣術のライバル」力、体力+20

「竜を喰らいし者」HP+500 力、体力+100

「奪われ続けた唇」知力、精神−50

「力を極める者」力+100 知力-50

「悪魔の所業」運−5

「断罪者」運−10 力+50 体力+50 器用さ+50 精神力−50

「犯された女神」精神−200

「Sランク魔獣討伐者」全ステータス+300 運+10


【装備】

「深淵の魔剣」ランクS 覚醒時全ステータス1.2倍

「朱雀の神剣」ランクS

「深淵の女王のネックレス」ランクB

「名も無き剣豪のガントレット」ランクA 力2倍

「フェンリルの胸当て」ランクS

「ヴァルキリースカート」ランクB

「生命の指輪」ランクS

「黒炎の髪飾り」ランクB MP+200 知力+300


 __________


 スキルイーターを倒した成果でレベルは7上がり、補正の高い称号も得て俺の力は更に増していた。


『女神の眼』でコピーしたスキルは、どれも相手を弱らせたり苦しめるモノが多くて破棄したのだが、『エアショット』は俺と相性が良過ぎた為、今後必要になると判断して習得した。


 MP異存の魔術ではないから制限は無いし、何より己の拳で全力で殴った際の攻撃力と、同等の『空気塊』を飛ばすその効果は、力特化の俺が放てば風の高等魔術を凌駕する破壊力を生むからだ。

 単発でしか放てないが、流石はリミットスキルと呼ぶに相応しいスキルだった。


「主様よ? 殲滅して飯を奪うのかぇ?」

「我は捕縛をお勧めするな。腕のいい奴を捕らえて飯を作らせ続けよう?」

「皆さん落ちついてください?  とりあえずご飯を奪いましょう」

「待って? なんで君達って奪うか捕縛するか殲滅するかになってんの? 俺ら盗賊? 普通に交渉で済む様に話をするよ。だけど断られたらコヒナタ案を採用! 飯を奪い全力で逃げる! いいかい?」


「「「ラジャー!!」」」


 __________



 馬車で野営先へ近付いていくと、二十名位の様々な種族が入り混じった集団が飯を食べていた。魔人、獣人族、人族が焚き火の側で酒を飲み、飯を食べている。


「「「「ゴクリッ」」」」

 俺達は香ってくる飯の匂いで一斉に溢れる唾を飲み込んだ。警戒心を抱かれない様にゆっくり近付くと、あちらから筋肉ムキムキの、髭を生やしたデカイおっさんが近付いてくる。


 右手にショートランスを持ち、左手に小楯を、身体にはレザーアーマーを装備していた。

 角がある事から魔人だろうと予想し、俺は一人馬車を降りて近寄る。


「よぉ、お前さん達旅人かぁ? 悪い事は言わねぇから引き返しな。今なら見なかった事にしてやるよ」

「見ての通り旅をしているのですが、食料が尽きて困っているのです。お金は払いますから、人数分分けて頂けませんか?」

「その雰囲気……お前ら貴族か?」

 おっさんが周囲の空気を巻き込んで威圧を放ち始める。俺は作戦失敗かと諦めかけたが、念の為違うのだと冒険者プレートを見せた。


「私達は冒険者です。恥ずかしながらまだ日が浅く、旅も不慣れなものでして」

「ん? なんだ冒険者かよ! 早く言えや! Dランク? そりゃあ旅も不慣れだわな! わりぃわりぃ! 飯だろうが酒だろうが好きなだけ食っていけや!」

 突然男の態度がコロっと変わった事に疑念を抱いたが、『心眼』に嘘はつけない。善意を示していた。


「おぉーいみんなぁ!! 旅をしている冒険者が俺らに飯を分けて欲しいそうだ。筋肉と溢れるパワーに誓ってもてなしてやれ!」

「おうよ! 好きなだけ食えやぁ! 美しい筋肉の為に!!」


(な、何なんだこの集団は……)

 俺は困惑しつつも、おっさんの後に続いて鍋の前に座る。


「ありがとう御座います。皆さんなんか凄いですね? 特に髭と筋肉が……」

「おう、自己紹介がまだだったな。俺は盗賊団マッスルインパクトの副団長ガジーだ!」

「私達はDランクパーティー『紅姫』のレイア、ディーナ、コヒナタ、ビナスです。少々人見知りで私だけが話す無礼をお許し下さい」

「旅をしてりゃあ色々辛い事もあるわな。深くは聞かねーよ! ほら、飯にしよう!」

 ガジーは鍋のスープと、固めの乾燥パンを分けてくれる。


「ーーいただきます!」

 腹が減っていたので、切った野菜を粗雑に放り込んだ男料理でも、感動する程美味かった。空腹は最大の調味料とはよく言ったものだ。


『美味しいのじゃあ〜!』

 念話でディーナが喜んでいるのが伝わる。俺達は出来るだけ騒ぎにならない様に、フードを深く被って顔を隠していた為、念話でやり取りしていた。

 みんなに喋らせないのは、素が出ると色々拙いと判断したからだ。


「本当にありがとうございます! 途方に暮れていたので助かりましたよ」

「なぁに旅は助け合いだろう? 今日お前さんがされて嬉しかった事を、またいつか新米の冒険者にお前さんらがしてやりゃいいのさ! ガッハッハ!」

 ガジーは豪快に笑いながら俺の肩を叩いた。ついでに気になっていた事柄を問う。


「失礼ですが、なんで皆さんみたいな良い方が盗賊団なんてやってるんですか?」

「あ? 盗賊っても俺らの標的は奴隷達だからな? 無理矢理村や街から攫われた奴隷達は沢山居るんだ。地方の阿保貴族共に好き勝手に弄ばれる為だけにな。そんなの許せるわきゃねぇだろ!」


(これも本当に思ってるし、嘘じゃ無い。この人本当に善人だ……)


「まぁ、腐れ奴隷商からはたんまり金を強奪してやるから、盗賊にはちげぇねぇだろうがな! プハァー!」

 ガジーはグイグイ酒を飲みながらご機嫌だった。次第に俺達も注がれた酒を飲み始める。


「クゥ〜っ! きくぅ!」

「なんだお前さんイケる口かい? ほら飲め飲め!」

「はい!」

 俺は久しぶりの酒を飲んでテンションがどんどん上がっていく。女性陣は何故チビチビと控えめに飲んでいた。遠慮しているのだろうか。


 __________


「そろそろマッスルパワーを始めるぞぉ? みんな賭け金を出せやぁ!」

「うおおおおおおおおおお!!」

「おっ? 何だもうそんな時間か! ほら、金貨一枚だ!」

「マッスルパワー? これから何が始まるんですか?」


「レイアよ。俺ら盗賊団において大事な信念は筋肉とパワーだ! これが凄い奴に悪い奴はいない! だから副団長までの幹部はこのマッスルパワーで決まるのさ。勝てば一気にのし上がれる! 一番は俺だがな! ガッハッハ!」

「成る程パワーか。素晴らしいじゃないか! 俺もやろう! ほら金貨十枚だ!」

「馬鹿野朗! 止めとけ! 確かに相手に勝てば金貨は倍になって返ってくるが、負けたら失うんだぞ? お前さん女だろう? 無理に決まってらぁ!」


「ふふふ……ようやく、ようやく来たんだ。我が力の一端を見せてやろう」

「なんかお前さん雰囲気が、ーー飲ませ過ぎたか? どうなっても知らねぇからな?」


『ああなっては、もう止められんのう?』

『我は旦那様のカッコイイ所が見たいから止めないぞ?』

『カッコイイだけで済めばいいんですけどねぇ……祭り上げられて団長やるとか言い出しそうです。その時は連れ出して逃げましょう?』

 念話で秘密の相談を交わす三人は、さすが恋人だけあってレイアの顔付きから考えている事をほぼ理解していた。

 しかし、時に酒の力は予想を超える事をまだ知らない。


 __________


 太鼓の音が場に鳴り響くと、筋肉ムキムキの男二人が特殊な金属棒を持ち、中央に並び立つ。


 その両サイドに別の男が立ち、手に持った四角形の黒い光沢を放つグラビ鉱石を嵌め込むと、金属の棒と反応し合って途端に片方三十キロの重量へと変化した。


 ーー重さ六十キロのバーベルの完成だ。


 時間が経つにつれて重量が増すという特性を持つグラビ鉱石は、一分毎に片方五kg。両端で計十kgずつ負担を増していくのだ。

 マッスルパワーのルールは単純。


『己の力のみで、どれだけの時間グラビ鉱石を地面に落とさず立っていられるか』


 これはずるいとレイアは『名も無き剣豪のガントレット』を外してコヒナタに預けた後、ひたすら酒を飲みながら出番を待っていた。


「第八回戦、幹部ナンバー2ボレット対Dランク冒険者レイアー!」

「ボレットおおおお! 叩き潰せぇぇ!」

「余所者なんかに負けんじゃねぇそ!」

「ちっちぇえのも頑張れや! 応援してやんぞぉ!」

 レイアはヒラヒラと手を振るとボレットと握手した。相手は二メートル以上の大男だ。腕周りの太さは己の両腕を合わせても余裕で足りない。


 ーーよく鍛えられているのが掌から伝わった。


「嬢ちゃん。握手してわかった。悪い事は言わねぇ止めとけ? 俺の力はステータス800を優に超えてるんだぞ?」

「ふふふっ。なら俺はその十倍以上さ」

「ん? なんか言ったか? とりあえず始まったら直ぐに棒を投げるんだ。約束だぞ」

 レイアとボレットは向かい合い中央で金属棒を持つ。ローブ越しでも分かる身体の線の細さに、男達の誰もが呆れた表情を浮かべた。なんて馬鹿な奴だ、と。


「レイアよぉ。残念だがパワーはそんな甘いもんじゃねぇんだよ」

 ガジーは憐憫の視線を向け、ボソッと呟きつつ酒をまた飲み始めた。


「勝負開始!」

「ふんぬぅぅ!!」

 ボレットは早々に腕を伸ばし、頭の上部へグラビ鉱石を持ち上げた。両足を広げ、そのまま重さに耐える作戦だ。


 ーー?

 ーー??

 ーー????


「はっ?」

「はぁっ?」

「へっ?」

「う、そ、だろ?」

「ば、ばかな……」


「「「「なんじゃそりゃぁぁぁぁあああああああああああああああ⁉︎」」」」

 驚愕しつつ絶叫をする男達の視線の先には、右手の小指に金属棒を乗せて、振り子の様にバランスを調整しながら遊んでいるレイアの姿があった。


「よっ! はっ! 落とさないようにするのが中々難しいねっ!」

「「「「いやいやいやいやいやいやいやいや!!」」」」

 男達は同時に右手をブンブン振って、そこじゃねぇだろとツッコミをいれる。


 ボレットは目の前の事実が信じられない。だが、自分にのしかかってくる重さは本物で、一体何を信じていいか分からず泣き出していた。


「な、何なんだよお前は⁉︎」

「只のしがないDランク冒険者さ。それよりどうしたんだいボレット君? 泣き出したりなんかして! 怖いものでも見たのかなぁ? あれ? 膝が震え始めているよ! ほらっ、しっかり耐えて! あと三十分位は小指だけのつもりだからね。先は長いぞぉ?」

 語りかけてくるレイアの口元を見たボレットは、背筋を這う悪寒に膝が更に震えだし、力無く崩れ落ちた。


「あらあら。ざ〜んねん。お疲れ様?」

 レイアは鉱石を小指からすっと落とすと、ーー『ズドォンッ!』とグラビ鉱石が地面に食い込んだ。破壊された大地を見て、その場にいた全員が今の出来事が真実なのだと理解する。


 そのままお立ち台に上がると、レイアはローブを脱ぎ捨て、『女神の翼』と『女神の天倫』を発動しながら高々に宣言した。


「お前達の筋肉と力を誇りとするその心に私は感動した! だがしかし、それはまだ雛鳥の囀りと変わらん程に弱い! もっと力を強く欲してはいないか? 求めるならば私が力をくれてやろう! 信じよ! この力の女神レイアを!」

 金色の神気を天へ巻き上げ、頭上の聖なる輪から後光が射し込む。マッスルインパクトの面々は跪いて祈りを捧げ始めた。


「力の女神様……だと」

 酒を注いでいた陶器を落とし、呆然と奇跡の光景を眺めていたガジーまでもが号泣し始める。


『わあああああい! これでご飯の心配は無くなったね? 後で褒めて! あと酒頂戴よ酒! ルルリラァ〜』

 念話で三人に褒めてとアピールする女神の姿に、流石のディーナも引いていた。


(やり過ぎ。後始末どうするのじゃあ……)

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