【第11章 始めましょう! 女神の異世界革命を!】
第198話 女神と天使の異世界革命〜Propose〜1
『デスレアの事件後』
『紅姫』は平和に過ごしていた。シュバンの民には笑顔が溢れており、同盟を結んだお陰で今までとは違い、人族の国ミリアーヌからも物流の交易が進む様になった事から、国は更なる繁栄を見せている。
レグルスへ人族が出入りする様になり活気を増していたのだ。勿論良からぬことを企む存在も増えたが、結果として地力が違い過ぎた。
ミナリスを中心として統制された魔人達は皆優秀なのだ。対応も早く、そしてレベルも人族と比べるまでも無く高い。
また、剣神ランガイの計らいから獣人の国アミテアも同盟に加わる事になった。これには別の意図があったのだが、大きな理由は一つ。
ーーレグルスを敵に回してはならない。
圧倒的な個人戦力を秘めている存在。以前とは全く一線を画した国。ーー女神の国。
はっきりと感じた恐怖。そして同じGSランクとしての腕試しをしたい憧れ。この時ランガイは初めてザンシロウが何故己の元へ来たのか理解したのだ。しかしーー
「わいは、美女に剣を向けられぬ!」
ーー美姫達より模擬戦を挑まれた際、はっきりと宣言した。この漢、女子には滅法弱い。
エルクロスの魔獣達は、『森には帰りたくない』という理由からシュバンの王城を守護する立場に置いた。兵士達から畏怖されぬ様に、『女神のテイムした神獣』という特殊な肩書きを与えたのだ。
トラブルを起こす種にもなり兼ねないと、当初は疑問視する声もあったが、実際蓋を開けてみると驚く程に馴染んでいる。
「ルードさん! 今日も稽古お願いします! 風魔術をもう少しで覚えられそうなんです!」
「イイヨ〜! 飛ブ?」
「はい!」
「フーガ師匠! 今日も稽古をつけて下さい!」
「それは良いが、昨日言った体幹について考えて来たか?」
「勿論です!」
「良し、ならば先ずは確認させて貰うぞ」
ーー元々面倒見が良く、今迄イザヨイを育てて来た根気強い実績を持つエルクロス。特にルードとフーガは教育係として活き活きとしている。
手が足りない時には、庭で寝そべっているリーブイやバウムも手を貸していた。
新しく国が生まれ変わろうとしている最中、当の女王はピステアに飛んでいる。
とある目的の為に……
__________
「なぁ、明日からお前レグルス行きな」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ⁉︎」
いきなり店に訪れる事はもはや慣れた。しかし、今回は意味が分からずに目を見開いて蛙叔母さんこと、マダームは愕然として怯む。
「きょ、拒否権はあるのだわね?」
「ふふふっ……もうわかっているんだろう? あるわけ無いだわね〜!」
「お、恐ろしいだわね……今度は一体どんな無茶振りをさせるつもりだわね……」
青褪めるマダームに対して、椅子に腰掛けて王たる気品を漂わせながら女神は微笑んで答えた。
「あのね蛙婆、ーーいや、間違えたマダーム君。これは決して悪い取り引きでは無いのだよ」
「今、百パーセントわざと間違えたのは置いておくだわね」
「まず最初に鏡で君の姿を見てごらん?」
「…………?」
マダームは鏡の前に立った。そこにはダボダボのドレスを着て、以前より痩せたどころか痩せ細った年齢相応の紫を基調としたメイク、ドレスを着た美人が立っている。
「こ、これは……」
「ふふふっ。やはり忙しすぎて気付いてなかったか……君の蛙みたいなあの身体は、過酷な労働と精神的プレッシャーにより痩せたのだ! これこそが狙ってもいなかった女神の福音さぁ!」
「な、なんですとだわねーー⁉︎」
「どうだい? 最近身体が軽いと思わなかったかい?」
「何処と無く、肩凝りが減ったとばかり思ってただわね……」
「という訳で恩を返せ。作って貰うものもあるし、いちいちピステアに来るのも面倒臭いから俺の国に来い。寧ろ来なきゃ拉致する」
「……漸く分かっただわね。バルカムスは逆らったから、そこに気絶しているのだわね?」
「いや、それは違う。バルのおっちゃんは炉を離れられんと思ったから、会った瞬間気絶させて今に至る」
「よりタチが悪いだわね……」
「んで、返答は?」
マダームは迷う事は無かった。別段この場所に未練など無い。何処に行っても呪われて何も出来なかった頃よりましだ。考えている事は他にある。
(この鬼畜女神について行ったら、確かに充実した仕事は出来そうだけど……多分、過労から死ぬだわね)
「おっほん。大丈夫だよマダーム。俺には『女神の腕』というスキルがあってね? 死にそうになっても生きてさえいれば完全に治癒してやるから」
「もう既に死ぬかも知れないって、飄々と告げるその心……」
「じゃあ、作って貰いたい物を聞いてお前が断るなら良いよ。耳貸せ」
静かに耳元で己の要望を告げると、マダームは絶望した表情を晴れさせ、一気に瞳を輝かせた。
「レグルスに行くだわね! 時間すら惜しいだわね〜!」
「ありがとう。既に場内にお前の部屋は用意してある。俺が勝手に『服飾総長』って役職作って任命しといたからな!」
「ーーーーへっ⁉︎」
「部下もしっかり用意しておいたから、申請があった事柄については精査して取り組めよ。給与面はミナリスに一任してあるから着いたら聞け」
「あ、あの〜〜? さっき言われた依頼を受けるだけなんじゃないだわね?」
ーービクビクと手を翳すその姿に、満面の笑顔で答えた。
「ばっかやろう! そんな訳無いじゃん? お前はこれから俺の国の服革命を起こす重要な存在になるんだ! アイデアは俺が出すから必死に作り続けろよ。サボったら罰な」
「も、最早その話が罰だわね。じ、自由は何処に……?」
「もしかして……断りたい?」
「全身全霊で断りたいだわね!」
顔を近付けて必死な形相を浮かべるマダームを見て、溜息を吐いた。そして、白々しく演技を開始する。
「……そっかぁ〜〜! じゃあ良いよ! また個人的に頼みに来るから宜しくね!」
「あ、あれ? 良いだわね? さっき聞いた例の件は?」
「あぁ、嫌なんだろう? 別に良いよ。国にも優秀な人材はいるしね」
「え、そっちに依頼しちゃうだわね?」
「あぁ、だっていちいち此処まで来るの面倒臭いってさっき言ったじゃん。残念だなぁ〜。せっかくマダームが喜ぶように、ミナリスの暗部部隊から手先の器用な人材を選出して、中々イケメンマッチョの部下達を用意したのに……」
扉を出ようとバルのおっちゃんの首を掴んで手をかけた瞬間。ーー眼前には膝をついて平伏す紫の美人な叔母さんがいた。
「私の心と身体は常にレイア様のモノです。貴女様の思うようにお使い下さい」
「……変わり身はえーな」
「変わり身ではありません。私の心は元々決まっておりました。魂が回帰したいと望んでいるのです。きっとレグルスこそが、私の第二の故郷となりましょう」
「『だわね』はどうした。必死過ぎて、見てて辛いぞ」
「うふふっ。ご冗談を……さぁ、この店の生地を全て納めて下さいまし。いざ行かん! イケメンマッチョの待つ新天地へ!」
拳を天高く掲げて瞳を輝かせるマダームを見つめながら、やれやれと肩を竦める。しかし、準備の第一段階は整った。
「ナナ。次は魔竜の巣穴に行くぞ。情報は仕入れてあるか?」
「勿論です。既にシルバとアズラには告げてあります。チビリーはどうしますか?」
「あいつはまだいいかな……」
「ペットから昇格したらにしましょうか」
「うん。それ以上にもう少し強くならないと、あいつは本気でいつか死にそうだからね……」
女神はその瞳に確固たる意志を灯して動き出した。
今回の目的『プロポーズ』の為に……
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