第186話 白竜王は信じない
『王都シュバン』
「マスター、気付いてますか? 巨大な竜が猛烈な速度でシュバンに向かっています」
「あぁ、『念話』でみんなにも伝えたから大丈夫だ。いよいよ来たか」
レイアはイザヨイを襲う存在と、守る存在がいる事をカムイから聞かされ、対決の時が来たのだと装備を整える。
最初から背にはレイグラヴィスを背負い、三刀流で一気にけりをつける気でいた。
『みんなはイザヨイの護衛を頼む。アズラとコヒナタは俺と一緒に戦ってくれ。ビナスは魔術で臨機応変にサポートして欲しい』
『『『『了解!』』』』
無事に同盟の調印式を終え、仮にも一国の王を危険に巻き込む訳にはいかないと、エルフ組、ピステア組は帰還して貰った。
ミナリス達にも己の無事を連絡して、マリータリーに留まる様に連絡してある。実力的に不足していると判断したからだ。
カムイとヘルデリックだけはイザヨイを連れて来た責任もあると、シュバンに留まり護衛を務める。
『パパ〜! 頑張ってですの〜!』
『任せておきなさい! 全部終わったら、美味しいご飯を食べに行こうね』
『楽しみにしてますの』
『じゃあ、行って来る!』
『念話』を切り、城の窓から『女神の翼』を広げて飛び去った。攻め込まれる位なら、此方から迎え討とうと先手を取るつもりでいたのだが……
「あれ? なんかあの竜、めっちゃディーナに似てるんだけど」
「マスター。あれは邪竜の類ではありませんね。純粋な竜族ですよ」
「でも、滅茶苦茶怒ってらっしゃる?」
「……理由を聞いてから、戦闘の方が良さそうですね」
ナナの呆れた様子から、何やらイザヨイは関係無さそうだと安堵する。翼を折りたたみ大地に降り立つと、駆け出して来た二人と合流した。
「姫よ。あれ、間違いなくディーナの家族とかじゃないか?」
「一緒に旅をした私が思うので間違いありません。もしかしたら、例の先代竜王では?」
「やっぱり二人もそう思うよね〜? 問題は何であんなに怒り狂っていらっしゃるのか、心辺りが無い」
腕を組んで悩んでいると、コヒナタが確信に満ちた、円らな瞳を向けながら宣言した。
「間違いなく、ディーナ様があの白竜に何かを吹き込んだのでしょう。例えば、ビッポ村に寄った際に気配を感じたあの竜と合流したは良いものの、完全に顔を忘れていて他人扱いした。また、自分は奴隷になったとか言葉のニュアンスを考えずに阿保な発言をして、キレさせた。そしてあの竜も血縁な以上、馬鹿で勘違いし易い性格であると判断致します」
「何でだろう。そのまんまな気がして来るね。流石コヒナタだ」
「あの馬鹿竜……また何かやらかしやがったのか」
「因みに、現在一緒にいるのがチビリーですしね」
「そうだ……それを忘れてたよ。ディーナとチビリー。ペアにしちゃいけない組み合わせの最上級だな。帰ったらチビリーはお仕置き決定!」
「喜ぶだけな気もしますが……」
気楽な会話を続けていると、白竜王ゼハードが頭上で人化し眼前へと降り立った。額に青筋を浮かべ、まるでヤンキーの様に眉を顰めながら白髪を逆立てている。
巻き起こった威圧から、ディーナ並みに強者である事が伺えた。成る可く穏便に済ませようと『女神の微笑み』を発動させ、徐々に近付いて行くと……
ーーヒュン!
「あ、あれ?」
「こんの腐れ外道がぁぁぁっ!」
「グハアァァァァァッ!」
レイアの横を通り抜け、ゼハードはアズラの顔面に拳を減り込ませる。完全に気を抜いていた魔王は混乱の坩堝の中、激しく吹き飛ばされた。
「ふうっ、ふうっ、ふうっ! もう大丈夫じゃぞ! 可憐なお嬢ちゃん方」
「……あ、ありがとうございます?」
「……た、助かりましたぁ〜!」
先ずは何が起こったのか把握しようと、女神とドワーフは一瞬でアイコンタクトを交わし、白竜王に話を合わせる。
「儂の可愛い娘だけでは無く、こんな綺麗な女子まで手篭めにしておるとは、けしからん奴じゃ! 消し去ってくれるわ!」
怒りのままに口を大きく開くと、ブレスを収束した気弾を連続して吐き出した。アズラは何で殴られたのかも分からぬまま応戦する。大剣を抜き去り、一刀の元に閃光を両断した。
「ぐぬぬっ! 小癪な奴め! 大人しく死ねぇ」
「血だな……絶対、あの馬鹿竜の血筋だ。少しはこっちの話も聞けぇ!」
「腐れ外道の言葉など聞くに値せぬわ! 可愛いお嬢ちゃん方、危険じゃから下がっておれ!」
火花を散らしながら睨み合う魔王と白竜王は、瞬時に爪と大剣を交差させ、互いに急所を狙いつける。一方は滅殺を目的として、もう一方は昏倒させて落ち着かせる為に……
「なんか、どうでも良くなって来たね。帰ろうかコヒナタ?」
「そうですねぇ。どこと無くゼン様に似てらっしゃる気もしますが」
ーーこの時、神界からその様子を眺めていた鍛治神ゼンは、眼を輝かせていた。一緒に憎き女神を潰す為、協力出来る同士を見つけたと小躍りしている。
__________
以前、コヒナタから提示された条件であるーー『レイアと仲良くしたら、ゼンお爺ちゃんと呼ぶ』という約束に従って、交流を深めようと頑張った。
歩み寄ろうと秘蔵の神酒を送り、友愛の思いを示したのに対して受けた扱いはーー
「何か悪いもんでも食べたのか? あぁ、腹を壊してるのならオムツでも送ってやるよ。美味い酒の礼だ。良かったな、クソ爺」
ーーこの台詞である。本当にナナを通じてオムツが送られて来た時には、血の涙を流して床を叩いた。屈辱からでは無い。この条件を達成不可能なミッションをクリア出来ず、コヒナタから『お爺ちゃん』と呼んで貰えなかった事からだ。
『この恨み……晴らさでおくべきか』
鍛治神は着々と復讐の準備を進めていた……
__________
『二時間後』
「だから、ディーナの恋人は俺じゃ無くて、そっちの話していた銀髪の女神だって! え? いねぇ!」
「まだ抜かしおるか! この嘘吐き小僧がぁ!」
「嘘じゃねぇっつの! 本当に魔王が主人だと、あの馬鹿竜が言ってたのか?」
「いいや。山の竜達が言っておったのじゃ! 娘を連れて行ったのは、黒くて超怖い人だったと! レグルスならば、魔王しかおらんじゃろうが! ん? お主黒く無いのう……さては染めたか!」
ゼハードの言葉から漸く状況を理解した。
(成る程な。暴走した姫の姿を見て恐怖した竜達の言葉を、誤解したんだな。それにあの頃の魔王はビナスだって事すら調べて無いのか。それならば……)
思考しながら風圧を巻き起こす拳打を逸らし、大剣を振るう。刃の腹で頭部を狙い気絶させようとするが、額で受け止め弾き返された。
「まじかよ! この石頭!」
「かははっ! 遊びはそろそろ終わりじゃ! 発動せよ『聖鎖』!」
突如、白竜王の身体から伸びた二本の白銀に輝く鎖がアズラの身体に巻き付くと、高々と勝利を宣言した。
「儂のリミットスキルはな! 邪な気持ちを抱く者を封印するのじゃ! どうじゃ動けまい!」
ーー直後、腰に手を回してカラカラと笑うゼハードの頭部に、全力で大剣が打ち込まれた。先程と違い、油断していた為に意識が遠のく。
「な、何故、じゃ……」
「阿保か! 自分で説明しただろうが、俺に疚しい所が無いからだ!」
「そ、そんな馬鹿なぁ〜」
そのままパタリと意識を失い気絶する。その姿を見つめながら、流石はディーナの父親だとアズラは腕を組んで呆れていた。
因みにレイアとコヒナタはとっくに城に帰っている。その後、気絶したゼハードに肩を貸して嫌々ながら城に連れて帰ると、時間差で今回の事件の元凶が帰って来ていた。
「おぉ〜! まさか父上をアズラが倒すとはのう! 少しはやる様になったではないか〜」
肉を頬張りながら愉快だと笑うディーナへ向けて魔王が斬り掛かった事はともかく、眼を覚ました父親が記憶を飛ばしており、また第二ラウンドが始まった事は予想外だった。
ーーそして一連の騒動は、拳の骨を鳴らす女神にあっさりと収められる。
「ねぇ、お前ら五月蝿い。お昼寝してるイザヨイが起きたらどうすんだ?」
瞬時にディーナは万歳し、アズラは青褪める。そして、邪魔をするなとゼハードが声を荒げた瞬間……
「お義父さんも昼寝しようね?」
一瞬で背後に回り込むと首に右腕を回して締め上げ、即座に昏倒させた。白竜王は泡を吹いて気絶している。
しかし、レイアが最も驚いたのは、起きた直後に三度に渡りアズラに襲い掛かった事だ。
「ディーナ。娘として責任取って次は止めて。そうしないと今日は一緒に寝ない」
「が、頑張るのじゃ……」
愛する人から初めて向けられる類の視線に、白竜姫は滝の様に汗を流していた……
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