第5話 「装備の大切さがわかる今日この頃と、豚への八つ当たり初戦闘」
俺はとある事に気付き、ステータスをもう一度開いて確認する。
_________
【名前】
紅姫 レイア
【年齢】
10歳
【職業】
女神
【レベル】
1
【ステータス】
HP 320
MP 515
力 46
体力22
知力 122
精神力 95
器用さ 30
運 スキルが発動していない為、数値化できません。
残りSTポイント50
【スキル】
女神の眼Lv1
ナナLv1
【リミットスキル】
限界突破
女神の微笑み
セーブセーフ
天使召喚
闇■■■
【称号補正】
「騙されたボール」知力-10
「1人ツッコミ」精神力+5
「泣き虫」精神力+10体力-5
「失った相棒」HP-50
__________
「ナナ、STポイントって何かなぁ?」
「見りゃわかるじゃない。レベルアップ毎に各ステータスに割り振る数値よ。貯めておくも良し、自分の将来ビジョンが見えてるなら、その思考に向けて振ればいいよ。基本的な数値はレベルアップ時に上がるから、STポイントは、自分のカスタマイズ用だと覚えていてね」
(ふむふむ、あんまりよく分からないけど、なるほどと頷いておこう)
「あっ! あとさ、【装備】って欄がステータスに見えないんだけどなんでかなぁ? アイテムを収容したりとか、なんか初心者用銅の剣みたいなのも見当たらないんですけど」
俺は必死に堪えていた。これからの生活の為にも、確実に最低限の情報は聴き出さねばならない。
たとえドS全開ルンルンナナちゃんになられていらっしゃる天使の罵声にも、堪えるのだ。
「はぁっ……溜息が出ちゃうよ〜。マスターって馬鹿なの? 初期装備? あるわけないじゃない、異世界に生まれたばかりなんだから。アイテム収容は次元魔術の一つに『ワールドポケット』って魔術があるから、それ覚えなきゃ無理だよ。その効果を持ったアイテムも、世界の何処かには在ると思うけどね」
「むぐぅ……」
(まだだ、耐えろ俺!)
「あの〜。一応ミニ紅ドレスを着てるんですが、これは?」
「女神様の裸を世界に晒すなんて出来るわけないでしょ? それは私が視覚化した仮初めのドレスだから、装備というか、裸と変わらないよ」
ーーまじっすか、俺、産まれたての赤ん坊と変わらないんすね。
「はぁっ。とりあえずSTポイントを振っておこう。ナナ、敏捷とか素早さって値がないんだけど、どういう事?」
「この世界において敏捷とかは数値化されず、力、体力、器用さの数値の高さから上下するよ。力があれば早く走れる。体力があれば長く走れる。器用さがあれば疲れず器用に走れるみたいにね。あんまり気にせずに、最初なんだから振りたいのに振ったらどう? 貧乏性なマスターだね」
(こいつは、いちいち人を挑発しなきゃ教えてくれないのか……いずれ来る『お仕置きタイム』を楽しみしていろ)
「わかったよ。とりあえず今回は力に30、体力に20を振る。魔術は使えないのに女神だからか、無駄に知力系数値が高いから、今は身体系を伸ばすよ」
ナナが仕事モードに入ったかのように、機械的な口調に変わった。
「了解しましたマスター。現状のSTポイントの割り振りが完了致しました。調子はいかがですか?」
なんか少し身体が軽くなったような感覚がある。残りの検証は落ち着いた後に回し、とりあえず拠点を探す事に決めて歩き出した。
先程の小川の近くを探索しようとした矢先、毛むくじゃらの二足歩行している、イノシシの様なモンスターが見えた。息を潜めたまま、ナナに問い掛ける。
「あれは何? モンスターとか魔獣とか?」
「あれがこの世界でいう『オーク』ですよ。名前もそのままです。豚というよりイノシシに近いですが、どっちでも豚と変わりませんしね。ちなみに、討伐ランクが上がれば上がるほど、肉は美味いらしいです」
ーーはっ⁉︎
ナナが何かに気づいた様に、焦燥を混じえて言葉を続けてきた。
「ちなみに、絶対捕まらないでください。あれは性欲とかじゃなく、繁殖を義務としている魔獣なので、巣に連れていかれたら本気で性的にアウトです。女神様が陵辱される姿など、見たくはありませんので」
一瞬その光景が頭を過り、俺は身体を震わせながらーー
「まじ、聞いておいてよかった……」
ーー安堵して、胸を撫で下ろす。
「ナナ、俺の今のステータスで、素手で勝てるかなぁ?」
「あんな雑魚、顔面パンチ一発では?」
「ふむっ。この小さい身体にそんな力があるのかはともかく、やってみますか」
いざとなれば逃げようと決意しながら、木陰を移動しつつ、水を飲んでいるオークの側に迫る。
隙を窺っているが、なかなかチャンスが来ない。
思えば何かを殴るなんて、前世の記憶がないから初めてだ。額には汗が湿り、徐々に焦燥と不安が募った。
何か殴れるキッカケが欲しい。そんな時にふと思いついたのが、怒りでプッツンすると戦闘民族はパワーアップするらしいあれだ。何か怒りを覚えるもの、身近な怒れるものといえば何だ。
「これならいける!」
突然思いついた閃きを、実践してみる事にした。
「ねぇ、ナナ。まだ出会ってから少ししか経って無いけどさ、これから俺達は相棒みたいなもんだろ? 俺に対して不満とかがあったら、聞かせてくれないかな? 特に怒ったりしないからさ……」
「本当ですか⁉︎」
仕事モードのナビナナからドSナナに切り替わり、頭の中ではしゃいでいる。既に嫌な予感しかしない。
(よし! 耐えろ俺のグラスハート!)
「まず、称号からして人生がださいよね。それなのに、女神様の身体貰うとか何様⁉︎ 前世はどっかのおっさんでしょ? 十歳の美少女に転生できて喜んでるとか、変態だよね。私だって暇じゃないのに、マスターのサポート天使に任命されちゃってさ! デートにも行けないじゃない! まぁ、彼氏は募集中なんだけどね……天使は寿命が長いから、焦ったりしてないよ? 顔は人間なんかよりよっぽど整ってるし、私を放っておくなんて、男達の目が腐ってるのよ!」
「…………」
「将来は、位の高い天使と甘い恋に落ちながら、結婚して子供を育てるの。最低でも四人は欲しいな〜? でっかい家を買って、庭でフラワーガーデンを作ったり、紅茶を嗜みながら、はしゃぐ子供達を眺めるのよ。夜は旦那様が寝かせてくれなくて大変だけど、私は求められれば答えるいい妻になるの。寿命が尽きるまで、私たちは永遠に愛し合うの! 素敵でしょ~⁉︎ ねぇ、聞いてる? 聞いてるの、変態マスター?」
他にもあれがこーで、これがあーでと、天使は人生設計を語りだした。効果は覿面だ、俺の怒りは限界を超える。
オークに向かって走り出し、咆哮を轟かせながら、右拳を顔面に向けて振り抜いた。
「誰もお前の人生設計まで聞いてねぇんだよおおおおおおおおおおおおお!!」
オークの顔面はあまりにも容易く粉砕し、そのままぐしゃりと崩れ落ちる。
ゲームの世界の様に、遺骸が消え去るなんて現象も起こらなかった。普通にグロくて気持ち悪い。
こんな戦闘でいいのかと木々の隙間から天を仰ぎ見る。虚しさを感じながら、レベルが上がった。
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