第326話 白スク水の効果が凄過ぎる件について。

 

 タロウの報告からエナの過去、ダークエルフの存在を知った次の日、俺は昼休みを利用してインメアン学園長に会いに行った。

 通常なら教師を通して書類の手続きが必要だとセルーアが教えてくれたので、『カスミ』を発動して気配を消し、忍び込む事にする。


 ガルベストン先生とハブラン王子はお仕置き以降めっきり大人しくなったのだが、俺を見る目つきが真女神教の信者達と似ていたので、今度は俺の方が避ける様になってしまった。


 正体はバレていない筈なのに何故だろう? もしかしてチビリーと同じ類の変態さんなのかもしれないね。


「そんな訳で会いに来ましたよ」

「どんな訳だよ⁉︎ 儂にも分かる様に説明して⁉︎」

 学園長室に侵入した時点で俺の気配には気付いていたみたいだ。一応流石はSSランク冒険者といった所だろう。


 俺はツッコミを入れる学園長を無視すると『霞』を解除してソファーに座り、『次元魔術ワールドポケット』から紅茶の入ったティーポットとカップを取り出した。

「最高級の茶葉を手に入れました!」とメイド長が自慢するだけあって、とても香り高い。砂糖は一つだけ入れる。

 二杯目は小瓶に入ったミルクポーションを注いで、ミルクティーにするのが最近のお気に入りだ。


 一息ついた後に、俺は優雅な微笑みを浮かべて学園長に告げた。


「学園長の知っている情報を全て教えて下さいな? ちなみに隠し事をすると、肉体言語で語る事になりますけれど」

「ーー脅迫⁉︎ やっと喋り出したと思ったら、一言目からとんでもないな⁉︎」

 俺が自分の正体を知っているからって、爺の姿で若者口調だと若干キモいな。まぁ、可哀想だから言わないけどね。


「漏れてるよ……今考えてた事が口から漏れてるよロリカ君……」

「学園長って心眼のスキルが使えるんですねぇ。凄いです〜!」

「使えないよ……君が勝手に口を滑らしただけだ」

 キモいのは事実だからしょうがないだろう。こっちは演技の練習も兼ねてるんだから、学園長なら相手としては丁度いいし。


「あっ! 私としたことが失礼しました。何について教えて欲しいのか伝えておりませんでしたね」

「気付くの遅くない⁉︎ 普通最初にそこから会話って始まるよ⁉︎」

「学園長って、ちょっとうるさいです」

「あの……もう帰ってくれないかな? 儂、これでも忙しい立場なんだけど」

 何となく面倒くさそうな気配を学園長が漂わせてきたので、俺は本題に入る事にした。変に勘ぐられないように気を使ったつもりなのだが、裏目に出たか。


「月華族の少女エナの事件と、ダークエルフについて知っている事を全て話して下さい」

 俺が目的を告げた途端に学園長の眉根が狭まり、視認できる程の魔力が部屋全体を包み込んだ。どうやら地雷を踏んだかな?


 ーーだが、関係ない。俺が関わると決めたのだから。


「ロリカ君。そろそろ腹を割って話そうか? ダークエルフの存在はこの国の者達には御伽噺として隠匿されている。それを知る君が、一体何者なのか俄然興味が湧いた」

「私はただのGランク冒険者ですよ。それ以下でも、それ以上でも無いです」

「嘘吐きが舌を抜かれるってことわざを知っているかい? 何なら実践して見せても良いんだよ……」

「あら怖い。学園長はか弱い生徒に向かってそんな真似しませんよね? 全部話してくれるなら、白スク水ーー」

「ーー話します! 何でも聞いて⁉︎ その代わりに着ている間しか情報は喋らないからね!! いいね⁉︎」

 俺の話を遮ると、一瞬で学園長はスキル『変幻』を解いて少年の姿に戻った。タロウと見た目的には変わらないが、話しやすくなっただけましか。


 演技にも疲れてきたし、さっさと終わらせようかな。


「んじゃあ、着てやっからさっさと寄越せエロ餓鬼」

「ん? 儂の聞き間違いかなぁ? いきなり口調が汚くなった気がするんだけど」

 インメアンは文句を言いながらも本棚の本を一つ引き、現れた隠し部屋から『ロリカ』と胸に刺繍の入った白スク水を持ってくる。ぶれねぇなこの野郎。


「着替えてくるから、ちょっと待ってて」

「イエッサー!!」

 鼻息を荒くしながらも、見事な敬礼を決めるあたり相当な変態だ。欲望に忠実と言えば聞こえは良いけど。


 ーーシュルッ。パサッ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、あはぁ、はあああぁ、はああああああああぁ〜〜!!」

「……はぁ。エナの為とはいえ、俺も甘くなったなぁ」

 変態の息遣いが激しくなる。俺は窓際のロングカーテンの布の裏で着替えているのだが、まるで視線が突き刺さるようだ。たまにアリアがあんな目をしてくる事があるけど、別物だと思いたい。


 俺はローブを脱ぎ去って下着も含めた衣類を次元魔術へ仕舞うと、ベストサイズに調整された白スク水を着た。

 ふむ。悪くない着心地だけど、やっぱり股が締め付けられるみたいで落ち着かないな。


 女物のパンツはまだ我慢できるけど、ぴっちりしてるのは好きくない。とりあえず我慢だと思ってカーテンを開いた瞬間、信じられないものを見た。いや、見てしまった。


「母を超えし慈愛の女神よ。儂は貴女の為なら死ねる。この魂が召されるその時には、是非貴女様の小さな胸元で死にたい」

「……何やってんの?」

 インメアンは何故か俺を崇拝するかの様に地面に正座し、胸元で両手を組んで涙を流している。一瞬天使の輪っかが見えて昇天してしまいそうだったので、何となく押し込めておいた。


「ずびばせん……ずい、感動じて、じまっで……」

「泣くか、鼻血を止めるか、鼻水を止めるか、滝のような汗を拭くか、まずはどれか一つに絞れ」

「ぶりです……わじ、こんなにずばらじい、スク水、びたごとない」

「……跪け、豚野郎」

 この調子なら何でも言うこと聞くんじゃね? っと思って遊び心で魔王みたいな命令を出してみたんだけど、インメアンはコンマ何秒の世界で額を地面に擦りつけた。


 ーーやばい。俺の白スク水ってロリコンにどんな効果があんだよ。


「学園長のプライドとか、SSランク冒険者の矜持とか……ないの?」

「無いです!! 何なら貴女様のお好きな時に甚振れる豚であるために、辞めます学園長!!」

 チビリー、俺が悪かったよ。お前だけが特別な訳じゃなくて、この世界には変態が溢れているんだね。


「じゃあ、とりあえず条件通り知ってる事全て話して貰うよ。あと、この事を他言したら二度とこの姿は拝めないと知れ」

「ははあぁぁぁぁぁぁぁ〜〜!!」

 その後、俺はダークエルフについて思いもよらぬ情報を得た。


「ダークエルフの一番厄介な特性は、殺したエルフの皮を被ればその人物に成り変われる能力です。この学園にも一体何人のダークエルフが潜んでいるのか、我々も把握出来ておりません」

「まじかよ……鑑定や真贋のスキルで見破れないのか?」

「エルフに成り代わったダークエルフは、普段深層意識へ沈むことで自分ですら、ダークエルフである事を忘れているのです。だからステータスをいくら見ても、元々のエルフとして表示されてしまいます」

 つまり、入れ替わった本体は死んでいるにも関わらず、周囲の者からして見れば全く違いに気づけないって事か。やべぇなその力。


 ーー俺自身が『女神の眼』でダークエルフを見てみないと、弱点が掴めそうにない。


「エナの事件は、本当にダークエルフの仕業なのか?」

「はい。剣神ランガイ様と、エナ本人の報告によりそれは間違いないと思います。そういえば最近一部のエルフで噂になっているのですが、どうやら獣人の国のGSランク冒険者のザンシロウという男が、ダークエルフの捕縛に成功したらしいのです」

「ザンシロウが⁉︎ あいつ最近大人しいと思ってたら、ちゃんと生きてやがったか」

「お知り合いで?」

「ん。まぁ、知り合いっちゃ知り合いだな」

 まだ聞きたいことはあったが、ザンシロウが関わってるとなればエナの事を聞くのも含めて獣人の国アミテアに行く方が手っ取り早いだろう。


「直接ダークエルフを見たほうが、色々とわかるしね」

「ぜ、是非! 儂もお供に連れていって下さい!! 転移魔石も沢山ストックしてあります!!」

「……スク水は脱ぐぞ?」

「じゃあ、行かない」


 ーーヒュンッ!!


 欲望に素直過ぎるインメアンにイラッとして、学園長室のテーブルを音を立てることもなく手刀で真っ二つにした。

 俺は『女神の微笑み』を浮かべながらもう一度問う。


「転移魔石で一緒に行こうか?」

「はい! お供させて頂きます!!」

「タロウ、出てきて良いよ」

「はい」

「ーーーーッ⁉︎」

 俺の許しを得て本棚の陰から姿を現したタロウを見て、インメアンは愕然としていた。一体いつから⁉︎ っと警戒心を露わにするが、正解は最初からずっとだ。


「こいつは俺の部下だ。余計な真似をすれば、全て俺に伝わると思っておいた方がいい。寧ろタロウの存在に気づいていない時点で、お前は俺からすれば『失格』だぞ?」

「本当に、ロリカ君は一体何者なんですか?」

 若干の怯えを含めた言い回しでインメアンは苦笑いする。


「ただのGランク冒険者ですよ。さぁ、行きましょうか学園長様」

 無言のまま冷や汗を流す学園長とタロウをお供にして、俺は獣人の国アミテアへ向かった。


 ーーザンシロウとの再会が、血で血を洗う様な激闘になるとこの時は知らぬままに。

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