第10話 新装備の確認をしよう!!

 

 俺はプライドを捨てたがお腹も一杯になったし、スキル『結界』が手に入った事からとりあえず睡眠をとろうと判断した。

 異世界生活一日目にしては濃すぎる内容だったと考え、これも女神様が街や国に召喚してくれなかったからだと軽く拗ねている。


「もしかして、わざとなんかな?」

 集めた草葉の簡易布団で眠りにつくが、寝心地は最悪だ。ベッドが恋しい。


 ーーギャリッ、ギャリガガガガッ!


(んん〜なんかうるさいなぁ〜? 睡眠の邪魔するなよぉ〜)

 眠い目を擦りながら朧げな意識を覚醒させると、眠気が一瞬で醒める光景が眼前に広がっていた。

 なぜか周囲一帯に、狼の魔獣の群れが集まっている。


「なんの冗談だ、これ?」

 俺は現状が理解出来ず、急ぎナナに問い掛けた。


「ナナ、一体何がどうなってるのか簡潔に説明してくれ」

「はい。四時間前程から狼が集まり始め、マスターを食おうと試みましたが、『結界』が想像以上に強力で破る事が出来ず、個々で駄目なら数で押し切ろうと襲い掛かっているみたいですね」

「なるほどなぁ。そりゃあ獲物が一人でグースカ眠ってれば、そう思うのも無理はないか」

 俺は焦る事なく、『結界』を展開したまま敵のステータスを確認した。


 __________


【種族】

 フォレスウルフ

【レベル】

 12

【ステータス】

 HP 180

 MP 56

 平均値 65

【スキル】

 狩人の鼻


 __________



「オーククイーンに比べれば雑魚だな。STポイントを割り振る前に戦闘はしたくなかったけど、追い払う位は新しい装備の効果で出来るだろ」

 ステータスを確認した所で、敵との力量の差を一瞬で判断した。ナナに主人らしく命令してみる。


「ナナ、全力で追い払うから視覚情報を共有化してくれ。俺が反応出来ていない攻撃があったら、サポートを頼む」

「了解しました。マスター」

 今、この瞬間にも『結界』の外でフォレスウルフが己の爪と牙を使い、四方八方からあらゆる攻撃を繰り広げていた。

 まず、髪飾りの若火の髪飾りの能力、「オートフレイム」を発動すると、周囲を火の塊が浮遊し始めた。

 全四発。所持者のMPが切れない限り敵の攻撃に対して、オートでフレイムによるカウンターを行う効果があった。


 ーー俺はランクCのこの装備を、敢えて選んだのだ。


「やっぱりかっこいい!」

 髪飾りが紅いのも含めて見た目で選んだのだが、効果も悪くないし後悔はない。


 続いて「フェンリルの胸当て」を撫でて、特殊効果を発動する。

 神狼の遠吠えが響くと銀色の光に包まれ、スキル『神速』が所持者に付与された。何より凄いのが、解除するまで制限はない。

 流石ランクSだが、無理をした身体は筋肉痛に苛まれるとナナが言っていた。


 また、「深淵の女王のネックレス」は敵からの状態異常を遮断し、「生命の指輪」は十分毎にHPの二十パーセントを回復し続ける。

 そしてとっておきの装備が、「ヴァルキリースカート」と「名も無き剣豪のガントレット」だ。


 ヴァルキリースカートは『あらゆる武器を使いこなせる』という、戦闘初心者からすれば最高に嬉しい装備である。

 オーク戦のように能力ゴリ押しだと、いつか痛い目に合いそうだと危惧していたからだ。しかもドレスと同じ紅で、銀の胸当てによく映えた。


 名も無き剣豪のガントレットはなんと所持者の力ステータスを二倍にする、しかも常時発動型装備だ。STポイント50を力に丸々振れば、100になるに等しい。


(正直これランクAじゃなくてSだろ。百パーセント名も無き剣豪じゃなくて、英雄的な誰かだろ。後に絶対戦闘フラグ立つわ〜)

 一人ツッコミを入れながら後々訪れるであろう苦労に溜息を吐くが、取り敢えず今は気にしない事にした。


 実は俺は『力大好きっ子』なのだ。今までのレベル上げでも必ず力には振っていた。


(何故かって? その答えは唯一つさ)

 いつかテンプレで大漢がデカイ拳を振り上げ殴られそうになった時、小指でピタッと止めて「その程度か、雑魚め!」って言いたいからである。


 だからこそ力に降る。そして俺には目的があった。


「身体がこんなんじゃ筋肉はつけられないが、俺はやってみせる! 目指せ『力の女神』!」

 そして黒剣こと「常闇の宝剣」だが、斬撃、刺突の際に目視不可の斬刃を飛ばしたり、伸ばしたり出来る。威力は所持者の力と剣速に依存するから相性がいい。


 ーー俺は最早、魔王を倒せるのではないかという位の装備に酔っていた。


「最終装備手に入れちゃったんじゃね?」

 新装備の確認を終えると、フォレスウルフとの戦闘を開始する。居合いのようなポーズで力を溜め、最大の剣速で黒剣を振るった。

 前方の狼は、全て足と胴が真一文字に斬り裂かれ絶命する。


 右側の群れにはフレイムウォールを放ち足止め、左側の群れにスキル『神速』で特攻し、黒剣の斬撃をばら撒いた。

 炎の壁が消えて狼達の眼前に映った光景は、同胞が細切れにされた姿だ。俺は口元を吊り上げて微笑む。


 ーーキャウウウウウゥゥン⁉︎

 絶望的な恐怖から失禁を堪えるが我慢できず、狼達は汚物をまき散らしながら森へ逃げて行く。


「うぇー、ばっちいなぁ! 追うのは止めとこっかな……汚いし」

 そんな道を通りたくなかったから追いかけなかった。それ以上に手に入れた新装備の力を確認出来て満足だったからだ。

 ただ、唯一気になることがあって柔和に微笑みながらナナに問い掛けた。


「ねぇ? あの狼は美味しいかな?」

「…………」

 ナビナナは無言のまま答えない。確実に野生化しつつある女神オレがいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る