第72話 誰かお願いです。ワンちゃんを止めて。
俺は勝負開始と同時に、先手必勝あるのみと身体系スキルを全て発動させ、双剣を携え妖精擬き達へ翔け出した。
ナナのサポートが無い以上、『
妖精達は本性を現し、蟻に似た醜悪な貌を浮かべ次々とナイフを投擲した。
「遅いし威力も弱い! 雑魚は引っ込んでろ!」
だが、朱雀の神剣は『神炎』を纏い、深淵の魔剣は俺の怒りに呼応して輝きを放ちながら不可視の烈斬を放つ。
続いて双剣を頭上に交差すると、進化させた奥義を叫んだ。
「風神閃華・散!!」
巻き上げられた暴風が分裂して、無慈悲に妖精達を斬り刻む。この時点で俺は既に二十匹以上の妖精を狩っており、余裕を保っている。
思考のリンクからナナがまだ動いていない事は分かってたからだ。
「さらば、忌々しい『
とても静かに落涙した。透明な雫が俺の頬を伝う。すると漸くナナが動き出して、呪文の様に欲望を浴びせ掛けてきた。
「忌々しいとか失礼しちゃうなぁ? 私達は結ばれる運命だし、今日も新しい愛の結晶を紡ぐのよ。子供の名前も考えてあるんだぁ。聞きたい? ねぇ、聞きたい? でもまだダメー! ちゃんとこの勝負に勝ってまぐわいながら教えるからね! 女神様と私の子供だもん。きっと可愛すぎる子が産まれるわぁ? 楽しみだな〜! 家は何処に買おうか? 神界で育てるのもありなんだけど、私はなるべく地上の景色が美しい景色を見せてあげたいの! どう思う? ねぇ? ねぇねぇ? ねぇねぇねぇ〜⁉︎」
(何この子、超こわい……絶対に負けちゃ駄目だ)
俺は断固たる決意をして、一層激しく妖精擬きへ攻撃を再開した。
「なんなんだよお前えぇ!」
「や、や、やめーー⁉︎」
泣き叫ぶ妖精擬き達へ、呆れた顔で宣告する。
「お前らに特別な感情は抱いて無いけどな。さっさと森から出たいし、お前ら人を食うんだろう? っていうかリリナちゃんの事『傀儡』って言ってたよな? 美味かったとも言ってた。んで、ビナスにも手を出した。許せるわけねぇんだよぉ! クソ虫がぁっ!!」
「「「「ヒイイイイイイイイイイイイイイ〜〜⁉︎」」」」
尖った牙をガチガチと震わせながら妖精擬き達は全力で逃げ出した。自分達が手を出していい存在じゃなかった事に漸く気付いたらしい。
「そろそろかなぁ?」
俺が上空を見上げると、ナナは舌舐めずりして唇を濡らし、徐に聖弓を構え始める。
「マスター? 勝負の内容はこの森の化け物の討伐数でいいんだよねぇ?」
双剣を振り上げると、目の前にいる妖精擬きを屠りながら答えた。
「あぁ! ただもう遅いんじゃないかぁ? 俺は七十匹以上討伐したぞ!」
次の獲物を俺が狩ろうとした瞬間、朱雀の神剣が『カァンッ!』っと甲高い音を立てて弾かれる。
「んっ? なんだ? こいつら結界でも張るのか?」
俺の視線の先では、何故か妖精擬きが透明な硝子の様な檻に閉じ込められていた。
「違うよマスター。この森にいる残り三百匹以上の敵をロックして檻に閉じ込めましたぁ! ちょっと時間掛かっちゃったけどね! いくよ? 『インフィニットプリズン』!!」
「な、何それ? そんな技持って無かったじゃん! いきなりどうして⁉︎」
「そりゃ私は奈々様の本来の力を……ゲフンッゲフンッ! あー! えっと〜〜女は日々成長するのよ? 逃げるマスターを閉じ込める為に編み出した技だけど、役に立ったね?」
また聞きたくも無い一言が耳に届いてしまう。正直に言おう。きっと彼女は病気なんだ。
「なにそれ怖い……でも捕まえただけじゃ勝った事にはならないぞ! 討伐数では俺の勝ちだぁぁ!」
「だからこうするのよ? 狭まれ檻よ! 『フルバースト』!」
ナナが指を「パチンッ」と鳴らすと、妖精擬きを閉じ込めた檻が上下左右から狭まり、身体を押し潰しミンチにする。
森中から絶叫と断末魔が響き渡った。阿鼻叫喚とはこういう場面を指すのじゃないかと、俺は生唾を飲み込む。
「ナナさんや……この技を俺に使おうとしてたのかい?」
「いえいえ、閉じ込めるまでに決まってるでしょ? とりあえず賭けは強制的に私の勝ちだよね? 狩る魔獣が居ないんだから。一応クイーンは残してあるよ? 良いリミットスキルを持ってる可能性があるからね!」
「うん……負けは認めるから、どうか手加減して下さいませんか?」
「あはは〜〜! 手加減? 何それ美味しいの? 一時間しか無いんだから、スキル全開で愛の結晶を宿すに決まってるでしょ?」
「い、いやァァァァァぁぁぁぁあああああああ〜〜⁉︎」
俺は恐怖に怯えて後退るが、神界を模した空間に強制的に引きずり込まれる。
ーー賺さずナナがベッドを出現させて、ローブと下着を脱ぎ始めた。
「落ち着いてくれ。後悔するのは自分なんだよ⁉︎ 前回の苦渋の涙を思い出すんだ! ビナスを助ける前にこんな事してる場合じゃないでしょ?」
「大丈夫よ? この空間の中は時間も隔離されてるからねぇ〜! マスターが『聖絶』を以前より使いこなしてくれてるおかげで楽だったなぁ!」
みるみるうちに俺の身体が縄で縛られていく。抵抗していないわけじゃないのに、まるで縄は蛇の様に絡まり、進んで受け入れているかの如く四肢の自由を奪うのだ。
「はぁ、はぁはぁ、はぁはぁっはぁっ、はぁっはぁっ、はぁっ! はぁぁぁっっ!!」
ナナの鼻息と呼吸がが荒くなる。俺は悟りを開いたように遠い情景を思い浮かべた。当然の様に相棒は思考リンクから強制的に目覚めさせられている。
「もう、好きにして……」
その一言を合図に、全裸のナナが俺目掛けて飛び掛かった。
__________
夢を見ている。
今日もワンちゃんは止まってくれないのだ。
ーーペロペロレロレロ。
「あはっ、あははぁー! くすぐったいよぉ〜!」
ーーペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ。
「や、や、ヤバイ、感度百倍はヤバイ!! ワンちゃんとか言ってられないからやめてぇぇぇ! まじ壊れるうぅう! 俺が壊れちゃうぅぅ⁉︎」
ワンちゃんは舌舐めずりをしながら腰を振って涎を垂らしている。俺は快楽の津波から早々に失神して、漏らしちゃいけないものを漏らしながら痙攣していた。
しかし、そんな姿を他所にワンちゃんはまだまだ止まらない。意識が復活した一時間後、朦朧とした意識の中で俺はボンヤリと聞いたのだ。
「赤ちゃんの名前は男の子ならホクト。女の子ならメシリアにしましょうねぇ? パパぁ?」
辛うじて保たれた思考を振り絞り、俺は一言だけ呟いた。
「い、いい名前だね……ごめんビナス。もうちょっと待ってて……」
お腹を撫でるヤンデレナナに膝枕されながら、再び意識を失ったのだ。
ーー
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