第5話

 俺は、今年で15歳になる。


 やっと前世の体格に戻って来たぞ。


 むしろ、前世よりマッスルな感じになっている気がする。




 この辺境の地でやれることなんて、はっきり言って筋肉がモリモリ増えるような事ばかりだ。


 明るいうちは、打刀で木を斬って枝を落とし丸太を1か所に集めてから、残った切り株を倶利伽羅剣で焼き払う。


 暗くなったら、木刀で素振りを限界までし続ける。


 毎日これの繰り返し。


 雨が降っても風が吹いても雪で埋まっても、ずっとほぼ木こりのような生き方をしている。




 あれ?一応この世界にも文明はあるはずだけど、ここに転生してから文字を見た事すら無いな?


 まあいいが。




 母さん曰く、この辺りで木材として伐採される木は、ほぼ全てがトレントらしい。


 しかも、この地域の固有種で、まだ正式な名前が付けられてないんだとか。


 ただ、屋久杉以上の強度と柔軟性を持っているために建材としてとても人気らしく、特に神社仏閣を作るのにここのトレントは欠かせなくなっているそうだ。


 この世界にも、神社仏閣があるという事をこの時初めて知った。




 木を斬っていると、たまに魔物のクマとかシカが突っかかってくるので、それも倒してからお肉にしている。


 これはこれでレベル上げにはなるけれど、効率で言えば明らかにこのトレントの方が上だ。


 クマよりも木の方が強いらしい。




 そんなこんなで、伐採しているだけで経験値?が溜まり、レベルも上がっている訳だ。


 現在レベル50丁度!有栖に上げちゃったエクスカリバーを除いて、剣を49本所持している計算だな!




 現在の手持ちは次のようになっとります。




 SSR:倶利伽羅剣、雷切、


 SR:疱瘡正宗、


 R:打刀、木剣、残り全部木刀、




 以上。




 このクソガチャ、中身殆ど木刀らしいです。


 因みに疱瘡正宗は、聖羅による2回目のガチャによって産出。


 木剣は、父さんが回したら出た。


 母さんが回した時には、俺と同じように木刀ばっかりだったので、俺は母さん似なんだろう。




 疱瘡正宗(SR):単純に切れ味が良い!持ってると毒や感染症を治せる!装備時に身体能力を50%増加!




 木剣(R):世界樹から削りだした木剣!凄く硬い!凄く軽い!装備時に身体能力を20%増加!




 これ、説明考えてるのって女神様なんだろうか?


 毎回『!』使い過ぎじゃね?




 木剣は、ぶっちゃけ木刀との違いが形状くらいしかなくていらない子状態だけど、疱瘡正宗は便利。


 超便利!


 特にこの僻地では有用だ。


 なにせ、ここには医者がいない。


 普段は、病気になったら聖羅が治すか、母さんが魔法を唱えているけれど、毒や感染症であれば疱瘡正宗で治せてしまう。


 疱瘡って名前が中々アレだけど、疱瘡が治ったお祝いに送られたからこんなんらしいよ。


 もちろん、女神製レプリカなんだけども。




 そしてこの刀なんだけど、なんとアルコールや二日酔いにも効く!


 ウゼェ酔っぱらいどもを無理やり素面にできるため、最近では疱瘡正宗を一部の大人たちから恐怖の対象と見做されているらしい。




 あとは、この剣魔法の仕様も多少は分かってきた。


 同時に具現化しておける剣の本数は10本。


 作り出した剣は、仮に折れたり破損したとしても、消してから呼び出し直せば元に戻っている。


 装備時の特殊効果については、基本的には装備者にしか適用されない。


 癒しの術など、装備者に特殊な能力を使う力を授けるタイプの場合は、ちゃんと能力側の効果を他者に付与することは可能なようだ。




 そして、剣自体を持ち主が他者に譲渡しようとした場合、装備時の特殊効果は譲渡先の者にのみ適用されるようになる。


 例を上げると、エクスカリバーの健康パワーは、今現在有栖にしか適用されていない。




 ただし、剣を譲渡したとしても、具現化しておける剣の本数にはカウントされてしまうらしく、俺が今具現化できる剣は、常に1本消費されてる状態で残り9本だ。


 これにも例外があって、全ての特殊効果を破棄すれば、ただの硬い剣として譲渡することも可能なようだけど、そこまでして譲渡する必要もないので、今の所実験に使った木刀以外で試していない。


 その能力を破棄して譲渡した木刀も、再び俺に返却してもらったら元の能力を取り戻したため、剣の具現化本数というより、能力の適用数って事なのかもしれない。




 正直、木刀が多すぎるために破棄したいんだけれど、こんなんでも神剣らしいのでおいそれと処分できずに困っている。


 1回薪にでもしてやろうかと焚火にくべたけど、丸1日経っても燃えなかったのであきらめた。


 世界樹って凄い。




 そんなこんなで、ここ10年でこの辺りも非常に切り開かれたわけだ。


 俺の剣は、林業にぴったりだったらしい。


 これだけ切り開けたのだから、そろそろ入植が始まってもいいんじゃないかと思ってるんだけど、そもそもこんな所に住みたがる奴いるんだろうか?


 1年の半分近くが冬で、魔獣だらけなんだが……。




「大試、準備出来ちゃった」


「ん?おー、その高級そうなローブ着ると、一気に聖女っぽくなるな!」




 教会から渡された神官ローブとかいうのを着て、俺にポーズを決める聖羅。


 そう、とうとう今日、聖羅が王都へと旅立つ日だ。


 これから3年間、王都学園で仲間たちと切磋琢磨し、魔王だかなんだかを倒してハッピーエンドを目指すのが、この世界のモデルになったゲームの内容だったはず。


 学園と行っても、貴族や裕福な平民のみが通う場所であり、こんな辺境出身の聖羅が通うのは非常に場違い感があるけれど、貴族と聖女は強制的に入学させられてしまうらしい。




 そして、その護衛として選ばれたのは、俺と聖羅と共にこの村で生まれ育った桜井風雅さくらいふうがだ。


 元のゲームだと、好青年でイケメンになるらしいとリンゼからは聞いてるけど、少なくとも俺が見る限り不良というかチャラついてるというか、あまり近寄りたいキャラではなくなってしまっている。


 多少脱色したその頭髪は、己が不良であることを無駄にアピールしようとしている感がすごい。


 でもあれ、家畜である牛の尿でやってるから、それを知ってる村人たちはどう反応していいのか困惑しているんだけど、本人だけは得意げだ。




「よぉ大試!俺たちの見送りかー?」


「まあな。聖羅から絶対に来いって言われてたし。」


「はっ!王都にも呼ばれない雑魚に何を気を使ってんだか!」




 風雅くん、今日も絶好調に喧嘩を売ってくる。


 牛尿ヘアが朝日に眩しい。




 風雅は、狩猟王というギフトを受け取っている。


 魔物を含めた生き物を狩るのにとても有用な能力を得られるギフトらしくって、そこを評価されて教会から聖女の護衛として雇われたんだとか。




 昔から、ギフトをネタにして俺をこき下ろしてきたけれど、聖女の護衛に選ばれてからは更に酷くなってしまっている。


 村の中でも、かなり白い目で見られているけれど、本人は反省するつもりはないらしい。


 まあ、この村の中での評判はかなり悪くなってしまっているため、王都へ行くには良い機会なんじゃないだろうか?


 俺としても、魔王とやらに攻めてこられても困るので、聖羅と風雅には頑張ってもらいたい!


 って素直に思ってるんだけど、それを言うと風雅は「バカにしてんのか!?」ってキレるため、最近は言わないようにしている。




 何故嫌われているのかは、今の所俺にはわからない。


 非常に困っている。




「今、私が大試と話している。貴方は出発までどこかに行って死んでてほしい」


「俺に護衛される分際で偉そ……死んでろって……?」




 俺の言葉を聞くと大抵キレるようになった風雅だけど、聖羅の毒舌に晒されると魂が抜けたようになることが多い。


 昔は、3人仲が良かったのになぁ……。




 動かなくなった風雅を無視し、聖羅が話す。




「大試、木刀1本ちょうだい?」


「木刀?いいけど、そんなもん何に使うんだ?」


「魔法の杖替わり。世界樹製らしいから、そこらの杖より多分強力だと思う。それに、普通の剣と違って打撃武器に近いから、練習してない私でも使いやすそう」




 確かに、メイスとかみたいに、叩きつけるだけなら使いやすいのかもしれない。


 俺が手元で具現化できる剣の本数は8本になってしまうけど、効果を維持したまま譲渡すれば身体能力も20%アップしてくれるわけだし、丁度いいか。




 俺は、頼まれた通り木刀を作り出し、聖羅に譲渡した。




「頑張れよ!応援してるからな!」


「うん!本当は、一緒に行きたかったけれど、国と教会の人にダメだって言われちゃったし、さっさと終わらせて帰ってくるね!1年くらいで!」


「1年は無理じゃないか……?3年くらいはかかるらしいけど……」




 リンゼの教えてくれたゲームのルートなら、3年かかるはず。


 この世界では必ずしもそうとは限らないかもしれないけど、無理に急いでけがをしたり、最悪死んだりされたくない。




「何をさせられるのか詳しくは知らないけど、自分の身の安全を第一に考えて行動しろよ?聖羅は、王族でも貴族でもないんだから、人々のために命を差し出す必要なんて無いんだからな?」


「うん、絶対に大試の所に帰ってくる!」


「いや、別に俺の所じゃなくても元気でいてくれたらそれでいいんだけど……。まあ、いいか。またな!」


「またね!」




 聖羅は、笑顔を残して旅立っていった。


 100人を超す聖騎士たちに守られながら。


 これ、風雅必要だったのか?ってくらいの戦力に見えるけど、わざわざこんな辺境の地までヘッドハンティングしに来るって事は、あの聖騎士たちは戦力として不十分って事なんだろうな。


 こわいなー魔王。




 聖羅たち一行は、これから1か月かけて王都まで行くらしい。


 木材運搬用の道を通り、川を木材運搬用の船で下って海まで出て、そこからもっとスピードの出る船に乗り換えて、王都の港を目指すんだとか。




 船かぁ……、俺苦手なんだよなぁ……。


 船酔いするし、沈没するんじゃないかって怖いし……。


 一緒に行きたがった聖羅には悪いけど、俺が護衛に選ばれなくてよかった。




 聖羅たちがいなくなったことで、この開拓村の子供は俺だけになってしまった。


 新規の住人は、未だに一人も来ていないし、今いる住民たちの間に新しく子供が生まれる気配はない。


 このまま行くと、俺は永遠の若手だ。


 農協の青年部みたいなもんだな。




 土地は拓けたんだから、国主導で住民寄越してくれてもいいだろうになぁ。


 木材が十分にあるから、頑丈な家だって作ってあげられるし、若くてやる気がある男女がバランスよく来てくれたら嬉しいなぁ……。


 産めよ増やせよ!まじ切実!








 2人が王都へ発ってから早1週間。


 俺の生活に変化はあまりない。


 以前は、聖羅が食事の時間にたまに来ていたくらいで、働く場所からして俺も聖羅も風雅も別々だったから、いなくなったとしても、多少寂しさを感じるくらいで問題は無かった。


 強いて言うなら、ケガを治せる奴がうちの母親だけになってしまったのがちょっと怖い所だろうか。




 今日も元気に木を切り倒しては、切り株を焼き払っていると、木材運搬用の道を通って村の方に誰かがやってくるのが見えた。


 それも、ゆっくり歩いてではなく、馬に乗って全力疾走と言った風に。


 こんな辺鄙な所に、何の用だろう……?


 わからないけれど、村人たちはまだしばらく帰ってこない。


 しかたなく仕事を中断して、俺は村の入り口まで向かった。




「何か用でしょうか?」




 村の入り口で待っていた客人に声をかける。


 格好から察するに、国の騎士といった感じだけど、馬が泡を吹く位必死に走らせてきたようだ。




「おお!この村の住人だな!?私は、第1騎士団のサウルスだ!国王陛下の命により、この村の長に指示書を届けにきた!急いで確認してもらいたい!」


「急ぎ……夕方になるまで長は帰ってきませんよ?」


「致し方ない……、だが、可能であれば明日の朝には出発して頂かないと間に合わないのだ!」




 指示書とやらの内容が分からず気になるけれど、張本人に直接伝えないといけないの一点張りで、俺にはまだ教えてくれないらしい。


 仕方なく、サウルスと名乗った騎士を家に連れて行き、馬も休ませる。


 余程疲れていたのか、家に入った瞬間倒れるように寝てしまったサウルスを囲炉裏の傍に連れて行き転がしておく。


 その後、全く起きる気配のないまま、夕方になって両親が帰って来た。




 サウルスを叩き起こし、指示書を見せてもらう父さん。


 ざっと目を通すと、顔をかなり歪ませて唸り始めた。




「うーん……」


「何が書いてあったんだ?」


「この前、聖羅ちゃんたちを迎えに来た連中が、通信魔術で国王にこの地が十分切り開かれた事を伝えたらしい。それによって、ここを切り開いた責任者である俺を貴族にするそうだ」


「えぇ……?そう言うの嫌でこんな所にいる父さん相手にそれ……?」


「それで、貴族位の授与とこの土地の代官の叙任式を行いたいから、可及的速やかに王都に来いってよ」




 へぇ……。


 貴族かぁ……。


 いきなり貴族にされて、すぐさま王都に呼び出されるとか大変だなぁ……。




「他人事みたいな顔しているが、大試も行くんだぞ?」


「は?なんで?」




 絶望の言葉に俺は固まってしまう。


 なんで俺があの1カ月とか掛かる場所まで行かないといけないのか?


 船酔いとか嫌なんだが?


 そりゃ、いつか来いと有栖にも言われているし、何か必要があれば行ってみたいとは思っていたけど、こうもいきなり命令されるとはなぁ……。




「俺が貴族になるなら、お前はその跡取りということになる。だから、国王への挨拶が必要なんだとさ」


「挨拶だけでそんな距離移動なんてめんどくさいなぁ……」




 だが、どうやらまだ父さんの言い難い内容は終わりではないらしい。


 顔をゆがめたまま、話は続いた。


 続いてしまった。




「しかも、大試は15歳だから、強制的に王都の学園に入れられてしまう」


「……は?つまりいきなり呼び出されて、3年間帰ってこれないって事?」


「そう言う事だな……。長期休暇はあるが、ここまで帰ってくるだけで夏休みも冬休みも終わるから。しかも、明日出発したとしても入学式に間に合うか微妙な所でな……」


「強行軍しないといけないって事?うわぁ……」




 聞けば聞くほど行きたくなくなる。


 大体俺は、この世界来てから学校行ったことも無ければ、勉強したことも無いんだけど、その学園と言うのは、そんな未開の地の人間でもちゃんとやって行けるんだろうか?




 それに、何よりの問題がある。




「カッコいい台詞で感動の別れをした幼馴染と、1か月かそこらで再会させられるのがすごい恥ずかしいんだけど……?」


「そこはまぁ、帰って来てから話の種にしてもらうしかないな」


「既に笑いものにされる未来が見える……」










 そして1か月後、俺は王都にいた。


 うん、王都らしいんだ。


 でも、この見た目って……。




「東京じゃねええか!!!!!」




 剣と魔法のファンタジー世界だと思ってたら、割と前世そのままのコンクリートジャングルだった。






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