第249話

 サラサラな金髪を長く伸ばし、軽薄な笑顔で剣を抜くイケメン。

 先程ナイフを投げてきた事から、純粋な剣士ではないのかも知れないけれど、それより何より……。


「俺、ああいうロン毛のイケメン男ってすげー嫌いなんだよな。やけに自信ある感じが特に。バリカンで坊主刈りにしてやりたい」

「私もああいうタイプはちょっと……。というか、今のところ大試さん以外で許容範囲の男性自体いませんけれど」

(これもう反撃で殺しても正当防衛じゃよな?ワシがやろうかの?)

「いや、できれば何で俺に攻撃してきたのか聞き出したいので、生かして捕らえましょう。腕の1本や2本は構いませんけど」

「うわぁ……大試さんってやっぱり蛮族ですよねぇ……」

(エルフも昔は、敵の首の塩漬けを送りつけたりしとったぞ?)

「私達も蛮族でしたねぇ……」


 エルフ的には、闘争の毎日は過去の出来事らしい。

 戦闘用に作られた人造人間だったはずだけど、魔石を取る事すらできなくなっていただけはある。

 やはり、食と恋とギャンブルにまみれて腑抜けていたんだなぁ……。

 エルフの集落にある競馬場でソリ引いてる輓馬のほうが理性的なんじゃないか?

 開拓村の荒くれ者共の中に混ぜたら、Ⅰ日で根を上げて泣き出しそうだ。


「それでは……行きますよ!」

「来ないでくれたら良いのになぁ!」


 相手の細身の剣と俺の木刀がぶつかる。

 そこから始まる連撃。

 中々の速さだけれど、うーん……。


「なぁ、お前何者?何の目的があって襲ってきたんだ?」

「戦闘中に話とは余裕だね?その余裕がどこまで続くか……な!」


 更に剣速が上がった。

 最早一般人には、剣の壁のように見えているかも知れない。

 だけど、だけどだ。


「大道芸だな」

「私の剣を見てよく吠える!」

「数打ち当たるもんでもないだろうに、無駄な動きが多すぎる!」


 はっきり言って、100レベルを超えた上に、神剣などで身体能力が飛躍的に上がっている俺からすると、コイツの剣技は、何かの見世物程度にしか思えない。

 剣なんて本来、そんなヒュンヒュン振り回すような武器ではない。

 相手の隙をついたり、守りを崩して斬りつけるだけで決着がつくはずだ。

 俺だって神剣っていう破壊がほぼ不可能な代物を使っているから相手の攻撃を剣で受けることもするけれど、普通の剣で攻撃を受けたら、その時点で刃こぼれが起きて禄に切れなくなっちゃうぞ?

 このロン毛の剣も、本人が気がついているかはわからないけれど、かなりボロボロだ。

 確かに軽くて振りが速いって利点はあるんだろうけれど、だからって振り回しまくって、それを俺に連続で防がれたらこうもなるだろうに……。

 こいつの戦い方からは、自分より速い相手と戦ったことがない傲慢さというか、油断のようなものを感じる。

 今だって、剣が壊れそうな状態だというのに、こちらが反撃しないせいで自分が押していると勘違いしているようだしなぁ……。


「女神リスティの名のもとに!聖女様を貶める貴様を討伐する!」

「勝手に人の名を語るなよ」


 聖騎士っぽいなとは思ってたけど、やっぱろそうなのかな?

 でも、教会の聖騎士って殆どこの前の一件で死んじゃったから、今生き残ってるのは聖羅の護衛になっている女性たちくらいだったはずだけど、こんなやついなかったよな?

 教会の隠し玉とか?

 いやぁ……だとしたらこの間の一件で出しとけよって話になるし……。


「食らえ!我が神速の突き!セイクリッドレクイエム!」


 相手の握る剣が、俺の胸に突き立てられる。

 勝利を確信し、そのイケメンフェイスでキメ顔を作るロン毛。


「いや、もう刃無いからなその剣。取っ手だけだぞ?」

「……は?」


 速く動かし過ぎで、自分の剣の刃が無くなっていることにすら気がついていなかったらしいその男。

 もう少し重い剣ならわかりやすかったのかも知れないけれど、細身の剣を自分の限界速度で振ってたらそりゃあなぁ……。


「な!?貴様、一体何を!?」

「話は後だ。まずは俺の命を狙った償いからだろ?」

「ちょっへぶっ!?」


 守る武器を失ったイケメンの顔面に、木刀を叩き込む。

 手加減はしているけれど、怪我をしないようにとかではなく、死なない程度にといったところだ。

 気絶したのか、その場に崩れ去るロン毛。

 抵抗の意思さえなくなれば良いなと思っていたけれど、気絶しているのなら好都合なので、そのまま奴のその白い聖騎士の制服を脱がし、ロープ代わりにして縛り付ける。

 イケメンロン毛は、パンツとシャツだけの格好になってしまったけれど、手錠やロープの持ち合わせなんて無いので仕方がない。


 因みに、ロン毛のパンツは、黒いTバックだった。


「やっぱり男なんて大試さん以外ゴミなのでは?」

「いや、コイツを男の基準にしないでくれ」

(それでどうするんじゃ?殺すつもりは無いんじゃろ?)

「そうだなぁ……」


 町中で襲われ、そのまま戦っていたせいで、かなり注目を集めてしまっている。

 このままコイツに尋問するのもちょっとまずいか。

 パンツだし。


「どこか人目の少ない所に移動しよう」

「わかりました!」

(森の中なら楽じゃったのに、なぜこんな皆が憩う場所で襲うなどという無粋な真似をするのかのう……)


 俺達は、顔面の右半分が紫色に変色し、時折歯を吐き出しながら鼻血を流すイケメンのロン毛を掴んでひっぱり移動する事にした。




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