第250話

「……んっ……ここは……」


「あ、起きたか?」


「……貴様!私に何をした!?」


「ん?流石にその反応は想定外だったな」




いきなり攻撃してきたロン毛を引きずって来たわけだが、ちょうどいい廃墟を見つけたので勝手に入らせてもらった。


緊急事態ゆえお許し願いたい。




「私の秘剣を受けて無事だった者など存在しない!どのような卑怯な手を使った!」


「魔力で強化した身体能力と刀身で攻撃してただけだろ?何が秘剣だよ」


「神速の我が刃を見切ることなど不可能!やはり、何かトリックがあるのだろう!?」


「種も仕掛けもないぞ。あんなのが神速とか神様バカにしすぎじゃね?」




いちいち神だの何だの言ってる割に、敬いの心は足りない気がする。


もしかしたら、自分のことをずいぶん高く見積もっているのかも知れない。




「それよりさ、お前、自分の今の状況わかってるか?」


「状況?……なんだ!?うごけない!?」


「いや、気がついてなかったのかよ……」




ロン毛は、今更自分が置かれた状況を少し理解したようだ。


どこかで見たような椅子に、手足を縛り付けられている事に。


ガシガシ動こうとしてはいるけれど、この手の椅子って頑丈なんだよなぁ。


とはいえ、ファンタジーなパワーなら壊せないこともないかも知れないけれど、ソフィアさんが魔術で強化しているから、流石にロン毛には壊せないようだ。




「くそ!どうしてここまで硬いんだ!?」


「聖なる力で強化されてるんだよ」




大精霊のちからだもん。


嘘じゃないだろ?




「ほざけ!女神様の加護を持つ我ら聖騎士が、聖なる力で拘束されるわけがないだろう!」


「拘束されてるだろうよ。むしろ聖なる力じゃないもので拘束されてるほうが、聖騎士としてはまずいんじゃないか?」


「……」




ロン毛が黙った。




「あのぉ、もうさっさと用事済ませて帰りませんか?」


「ワシもそうしたいのう。こう……ぷちっとするのはどうかのう?」


「せっかく理想的な状態で拘束できているんですから、尋問してからにしましょう」




エルフ2人は、既に状況に飽きているようだ。


俺だってこんな事したくて出かけたわけじゃない。


早く終わらせられるならそれに越したことはないけれど、なかなかそうもいかないようだ。




「尋問だと?貴様のような不信心者が私に?そんなの、神が許さないぞ!」


「許されてるからこうして拘束して、尋問できる状況になってるんだろうけどな……。さて、もう一回聞くぞ?お前、何が目的で俺達を襲った?」


「はっ!答えるわけがないだろう!」


「そっかぁ……よし、じゃあ始めるか!」


「ふん!拷問でもなんでもやってみるがいい!私には神がついている!絶対に口は割らないぞ!」




なんの根拠があるのか分からないけれど、ロン毛は尋問に対して耐える自信があるらしい。


確かに聞いたことに関して答えを得られればラッキーだなとは思う。


でも、今の一番の目的はそこじゃない。




「お前が答えても答えなくてもどうでも良いんだ。こっちはさぁ、忙しい中用事があって出かけてたんだよ。それを邪魔して、命まで狙われたんだ。普通腹が立つよな?これはただの憂さ晴らしだと思ってくれていい。だから、別に質問に答えてくれなくても構わないぞ。お前が苦しむ時間が増えるだけだ。命狙って来た奴相手に容赦する必要もないし、俺のストレス発散の道具になってくれ」


「本性を表したな!蛮族め!」




命を狙って来た相手がどうなろうと知ったことではないのはその通りだけど、実のところコイツを痛めつけたところで俺のストレスは溜まるだけなんだよなぁ。


でも、甘い顔をしたところでつけ上がるだけだろうし、最悪神が自分を助けてくれたとか都合のいい発想で脳内補完されそう。


それに、こいつの服装からして、何処かの組織に所属している気がするし、そいつら相手に「容赦しないぞ」ってメッセージを送らないと、ポンポン襲いにくる奴が増えるだけだろう。


「割に合わない仕事だ」と思わせて、諦めさせられたら嬉しいな。


と言うわけで、痛めつけます。




ヴイイイイイイイイン。




俺は、これまた何処かで見たような機械を手にする。


エネルギーをケーブルから取るタイプだったら使えなかったけど、魔石で動くタイプが放置されていて助かった。


椅子に拘束されたままのロン毛を回転させ、後ろを向かせる。


そこには、大きな鏡があった。




「鏡……?」


「ここは床屋の跡地らしいぞ。道具も多少残ってた。まあ錆びてるのが多いけど、ちょっと肌をズタボロにする程度だろうし、平気平気!バリカンのストッパーないから、ほぼ髪の長さ0に出来るぞ!」


「お……おい貴様!まさか!?」


「ロン毛が目障りだからさぁ。大事に手入れして来たんだろうし、お別れ言っとけ」


「や!やめっ!ああああああああああああ」




バリリリリ




そんな音を立てて、イケメンロン毛のサラサラ金髪は地に落ちた。


現在、逆モヒカン状態だ。


うん、やっぱり男の髪切っても何にも楽しくない。


小さい頃の聖羅の髪型を弄るとどんどん可愛くなって面白かったのになぁ……。








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