第142話

 ガララッ


 気怠そうな表情の担任教師が教室に入ってくる。

 教師が連休明けにその表情ってどうなんだ?


「きりーつ!礼!」


 前世と変わらない掛け声を委員長がする。

 貴族メインの学校でもこれやるんだな?と当初は思ったけれど、貴族だからこそ礼節を叩きこんで、上の者への礼儀を覚えさせるべきとかあるのかも?


「あー……全員、よく無事今日通学してきたな。俺も、まさかこの連休がここまでハチャメチャになるとは思っていなかった。特に犀果……まあいい。委員長、プリント集まってるか?」

「はい、犀果君はやっぱり忘れていたので、新しく書いてもらいました」

「だろうな……よし、全員分あるな」


 やっぱり俺は、問題児扱いらしい。

 実際問題起こしまくりだもんね?

 でもさ、必ずしも俺が悪いわけじゃないと思うんだ。

 寧ろ、俺は悪くない事の方が多いと思うんだ。

 どう思う先生?


「それと、先ほど3年の轟打先輩という奇抜なファッションの方がやってきて、犀果君を……マッスル部?に勧誘していました」


 そんな報告必要?

 って思ったけど、不審人物の来訪となると、報告しておいた方が良いのか?

 学園内、しかも朝のホームルーム直前にあの格好はちょっとな……。


「轟打か……マッスル部は、かなり歴史のある部活でな。数年前にマッスル部なんて名前になるまでは、肉体強化研究部という硬い名前だったんだ。貴族の中でも、昔から魔術を使う事が苦手な者が少なからず存在していた。そんな者たちでも、比較的簡単な肉体強化魔術で活躍できるようにするというのが元々の理念でな。肉体強化は、元の肉体の力を倍加させる。だから、筋力を上げれば、肉体強化も自ずと上がる。それで、肉体強化魔術の練習と筋力トレーニングを主に行っている部活だったんだが、ここ数年はどうもボディビルに傾倒し過ぎな気もするんだよな……。あんな筋肉の繊維が分かるまで皮下脂肪を削っていたら、スタミナも長続きしないだろうに……」


 歴史ある部活だったのかマッスル部。

 ……誰が発端で行ったのか知らないけど、歴史ある部活をマッスル部なんて名前にしちゃったのか……。

 担任としては、今のマッスル部に思う所もあるようだ。

 マッスル部って名前自体あまり好きじゃなさそう……。


「もし犀果がマッスル部に入るなら、部活名を肉体強化研究部に戻すように働きかけてくれると有難い。他校の教師との会話中に、マッスル部なんて言葉を発さないといけない俺の気持ちがわかるか?」


 わからないです。

 あと、んな事俺に頼まないで下さい。

 教師の方がそういうの立場的にやりやすいのでは?


「今の顧問……いや、アイツはここの教員じゃないから、コーチなのか?そいつは、現時点でのトップ層に属する冒険者でな。しかも、俺の元同級生だ。当時からどうにも苦手だったが、最近目を見て話すのも難しくてな……。悪い奴じゃないんだが、アイツと面と向かって話していると、脳内まで筋肉に浸食されてくる気がするんだよ……」


 どんだけだよ?

 そんなクリーチャーに俺をぶつけようってのか?

 クリーチャーには問題児ってか?

 お?


 この世界の冒険者は、民間で魔物を狩ったりなんだりを請け負う人たちだったっけか?

 貴族たちは、基本的に自分の管理地を担当しているだけだから、それとは別に依頼をしたいときに頼る存在だった気がする。

 つっても、大抵は魔力の多い人は貴族だから、冒険者の強さはそこまで平均値が高いわけでも無い気がするけれど。

 その中でトップ層ってどんな感じなんだろう?


「まあいい。犀果もそうだが、そろそろ部活に入っていない奴は、どこかしらに入っておけよ。別に内申点に拘りのない奴も多いだろうけど、学生時代の部活動ってのは、後から掛け替えのない物だったと思えるもんだぞ。将来、やっていればよかったなんて思った所で、やり直しはできないからな?合わないと思ったら辞めればいいしな」


 そう言い残して、担任は出て行った。


 部活かぁ……。

 考えたことも無かったな。

 前世では、高校進学してそこまで生きていられたわけでもないけれど、どっちにしろ部活入る事は無かっただろうからなぁ。

 何でって、それは……いや止そう。

 とにかく、部活動に入るって発想が無かった。

 だから、この学園にどんな部活があるのかも全く知らないな。

 生徒会は、一応部活動に入るのかな?


 そういえば、会長は元気にやっているだろうか?

 また死にかけていたりしないだろうか?

 理衣が自由にネコソフィアになれたら多少はマシになるんだろうか?

 それはそれで、会長にとって依存性がヤバそうだから危険だけど。


「大試、部活どこか入るつもりある?」

「考えてなかった。聖羅は、どこか決まってるのか?」

「私は、『聖女がどこか特定の部活に入ってしまうと、なんだかかんだかのバランスが崩れるため、ご遠慮願います』って言われてるから」

「なんだかかんだかか……。俺は、どうしようかなぁ……」


 聖羅がグイグイ引っ張っていってくれるなら、大して興味なくてもやって行けるかもしれないけれど、そうじゃないならどうかなぁ……。

 昔から、アクセルを最初に踏むのが聖羅で、俺はその勢いに乗りながら動き続けるような生活だったからなぁ。

 部活なぁ……。


「あら?アンタ、マッスルするんじゃないの?」

「半笑いで言うなよ……なんなら、一緒にマッスルするか?」

「嫌よ。アタシは、最上位魔術研究会に属することが決まっているの!学園に入る前からね!」

「へぇ……。おめでとう」

「興味ないでしょ?まあ、アタシもアンタが最上位魔術研究会について何か知っているとも思ってないけれど」


 リンゼは、なんか凄い名前の部活に入るらしい。

 いや、研究会は部活なんだろうか?

 よくわからん。


「私は、聖羅さんと一緒で、なんたらかんたらのバランスがどうこうで入部できないんです」

「王女様だもんな。なんたらかんたらって何なんだろうな……」

「ただし、助っ人として参加するのはギリギリOKだそうですので、大試さんが入るのであれば、そこへ助っ人に行こうかと!」

「助っ人に王女が駆け付けたら、それはもう驚かれるだろうな……」


 しかも、その隣で「その手があったか!」って表情になっている聖羅も来そうだ。


 ただ、理衣は遠い目をしている。


「私は、もう部活は決まってるから……」

「生徒会だろ?」

「うん……。この学園の生徒会に入れるのって、凄く名誉な事なんだよ?生徒会に入ったってだけでも、卒業後の進路は約束されたも同然って言われているくらいに」

「へぇ」


 OBの方々がすごいんだろうか?


 いや、そりゃこの貴族連中が集まる学園の、生徒のトップに立つわけだからな。

 そりゃすごい奴らの集まりだろう。

 貴族なんて偏った考えの奴も多いだろうに、そいつらを従わせる手腕も試されるわけだからな。

 そこで結果を出せたなら、それだけでも周りからの評価は高くなりそうだ。

 問題は……。


「でも、会長見てると、大変だなって感想しかわかないんだよね……」

「四国に行くあたりから会長と会ってないけど、休み中どうだったんだ?」

「休みの間は、学園運営関係のお仕事は少なくて何とかなってたんだけど、四国の件で学生も参加させることになっちゃって、その手配を任されたりで大変だったみたい。私も手伝ったけど、よく会長はあんなにせっせとお仕事できるなって……。ただ、譫言みたいに『これが終わったらソフィアか大試君の匂いを嗅ぐ……絶対嗅ぐ……』って言ってて、そろそろ限界かなって」

「後で様子見に行くか……」


 そういや、魂を呼び出せる剣なんてもってたけど、アレでソフィアの魂を呼び寄せることってできるんだろうか?

 会長は、確か魂的な何かをどうこうできる巫女ってギフト持ちだったはずだし、そこからは自力で何とかできるかもしれん。


「呼んだかの?」

「いえ、呼んでな……その服装気に入ったんですか?」

「うむ!大試の目がマジになるからの!」


 こっちのソフィア(エルフ)は、俺の近くにいないといけないとか言う縛りがあるせいで、学校の時間帯は姿を消してそこらに浮かんでいるらしい。

 だから気がつかなかったけれど、いつの間に入手したのか、女子用学生服を身に着けていた。

 以前、理衣に用意していた時にも一回その姿を見てはいたけれど、やっぱり目を離せない力を感じる。

 魅了チャームでも使ってんのか?

 スカートだと、何がとは言わないけど見えるので、浮かないで下さい。


「ソフィアさんって、肉体強化魔術は得意なんですか?」

「得意といえば得意じゃな。というか、あんなもん基礎じゃから普通は出来る。戦っておれば、結果的に得意になっとるもんじゃ」

「流石は、エルフたちとの戦いで生き残った生粋のバトラー」

「じゃが、自分自身の筋肉はそこまででもないんじゃよ。触ってみるかの?しっとりすべすべで柔らかじゃぞ?」

「周囲の目が気になるのでやめておきます」


 特に聖羅の目がヤバイ。

 まあ、あの目の場合は「触るな」じゃなくて「だったら私のを先に触ってほしい」だから、周りからの評価が更に落ちそうな事態に発展しそうだ。


「どうしようかなぁマッスル部。あの先輩、見学に行かないと、見学に来るまで毎日勧誘に来そうで怖いんだけど」

「だから行けばいいじゃない。マッスルしてきなさいよ」

「その時は、リンゼも引っ張っていくから」

「1人で行きなさいよ!」

「大試、私も引っ張っていって。男性の力に敵わなくて、無理やり連れて行かれただけって言い訳で参加するから」

「俺が社会的に死ぬだろ……」

「私は王女として助っ人に!」

「なんの助っ人するんだよ」

「それは当然筋肉の……筋肉の?」


 連休後最初の日は、朝から混迷を極めた。


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