第94話 タイトルナンバーズレの関係で、後から追加しました

(くそ……!どうして俺がこんな事に!)




 教会の地下収容室。


 そこに、本来主人公となるべく生まれた男がいた。




 桜井風雅。


 犀果大試や、天野聖羅の幼馴染であり、初代フェアリーファンタジーでは、王道の品行方正で正義感にあふれた主人公として描かれていた彼は、今ここで、どう見ても悪役のような表情で隔離されている。




 彼は思う。


 自分は、常についていない人生だった。


 恵まれたギフトを手にし、美人の幼馴染もいた。


 なのに、いつもいつもアイツに勝てない。




 犀果大試。


 あの木刀を出すことしかできないギフトを得た男。


 小さい時にそれであのデカい熊を追い返したのは凄いとは思うが、俺だったら同じ時期だったとしてもその熊を倒すことが出来たはずだ。




 なのに結果はどうだ?


 俺はその時村の大人たちと狩りに行っていて、獲物を捕まえることに貢献できたとバカみてぇに喜んでいた。


 この肉を持っていけば、聖羅が俺に惚れると思っていた。


 だから帰った時、傷は無いのに血だらけで倒れている大試と、その胸に縋りついて泣いている聖羅を見たあの瞬間は、まるで世界が崩壊していくような気持だった。




 あの時の聖羅の目は、もう既に大試を神か何かみたいに捉えていたのが俺にはわかった。


 ……わかりたくなかった。




 それからは、常に大試に張り合っていた。


 剣を出す以外、魔法もスキルも使えないアイツ相手に戦って、負けたことはあまり無い。


 けれど、それ以外では勝ったことが無い。


 戦って勝った時でも、後からそれを知った聖羅が俺に報復に来る。


 植物を育てるだけでレベルが上がる聖羅に、俺は簡単に殴り倒されてしまう。


 聖羅の気を少しでも引こうと、大試の悪口を言ってみても、やっぱり嫌われるのは俺だった。


 その度に、俺の中の敗北感は成長していく。




 5歳の時だ。


 村に王様とお姫様が来ることになった。


 俺は、大試に圧倒的に勝つには今しかないと思った。


 俺のもつギフトなら、王様でも驚くような獲物を持ち帰れる。


 そして褒賞でも貰えば、聖羅の目もこっちを向くんじゃないかってな。




 だけど、村に帰った俺が見たのは、新しく女2人と仲良くなっている上に、王様に泣いて感謝されている大試の姿だった。


 アイツは、とにかく俺の邪魔をする。


 友達になりたいとかなんとか言っていることが多かったが、そんなこと絶対に無理だ。


 俺がアイツに持っている感情なんて、怒りと憎しみ、そして嫉妬だけだ。


 友情?


 あるわけがない。




 だから、15歳で王都に行くことになった時には死ぬほど喜んだ。


 しかも、聖羅の護衛としてだ。


 更に、大試は王都に呼ばれる事すらない。


 ザマぁ見ろと思った!




 なのに、大試は大して気にもしていなかった。


 世界から、俺より価値が無いと見なされて、聖羅とも会えなくなるというのに、「寂しくなるな」としか思っていなかった。


 なのに、聖羅はやっぱりアイツの事しか見ていない。




 王都に到着してからもそうだった。


 聖羅が頑張るのは、人々のためだとかそういうのではなく、将来的に大試と一緒に暮らせるようにするためだった。


 それを心に秘めるんじゃなくて、堂々と至る所で言うものだから、大試を差し置いて選ばれた俺の立場が無い。


 周りからは、可哀想な物を見る目でジロジロと見られ、教会の偉いおっさんには、「もっと聖女と親密になれ」なんて言われる始末。


 お前に聖羅とのことについて言われる筋合いはねぇよ!


 そりゃ護衛なのに、簡単に聖羅に逃げられたり、殴り倒されたりしていればそうも言われるかもしれないが、だとしても言われたくなかった。




 それでも、大試がいないなら、いつかは俺の方を聖羅も向くんじゃないかと思っていた。


 だから、村を出てからしばらくは頑張れた。


 なのに……。




(どうしてあの野郎が王都にいる!?しかも貴族だと!?どんな手を使った!?)




 俺ですら、教会の力を借りないと貴族連中と会う事すらできない。


 なのに、大試は会わない数週間から数か月の間に、自分自身が貴族の跡取りになって、更に魔法学園に入学してきやがった。


 やっぱり、アイツは俺を邪魔するために存在しているんだと、その時強く思った。




(力がいる!殴ってどうこうするようなのじゃない!権力だ!相手が貴族だろうと負けない権力が欲しい!)




 だから、あのイマイチ有能さを感じねぇ王子の下について、婚約者だっていう女を貶める手伝いまでしてやったんだ。


 まあ終わった後、あの女は俺たちが貰えるはずだったんだが……。


 王子自身は、聖羅と婚約したかったみてぇだけど、どうせこの王子は無能で王太子になんてなれねぇ。


 だから、俺が踏み台にして、権力だけ手に入れたら失脚させてやるつもりだった。


 そうすりゃ、なりたて貴族の大試だろうが、聖羅を絶対視している教会だろうが無視して、俺が聖羅を手に入れられる。




 ……ああ、わかってる。


 そんな甘い見通しがそう簡単に旨く行くわけがないなんてな。


 だけど、それでも悪い方には行かないと思っていた。


 なにせ、王子に着いていたやつらは、かなりの権力者たちの子息だったからだ。


 何かあっても、こいつらの親の権力で握りつぶせる!


 そう思っていたんだが、アイツはやっぱり邪魔しに来やがった。




 あの王子の婚約者の女を守るように、何かのヒーローみたいに出てきたアイツは、木刀を出す事しか能が無いはずのアイツは、素手とは言え、ギフトも権力も何もかも持っている俺達王子の取り巻きを1人で制圧しちまった。


 終いには、聖羅がキレて王子をぶっ飛ばしちまったらしい。


 俺は……気がついたらこの隔離部屋に入れられていたってわけだ。


 あのパーティー会場で何があったのかだって、見張りの協会職員がバカにしたような顔で俺に説明したからしっているだけで、実際に行われていた時には、俺は間抜けな顔でノビていたんだからな……。




 あーくそ!


 どうしたらいい!?


 どうしたら大試をなんとかできる!?


 もう聖羅を奪ってどうにかできるような心境じゃない!


 目の前で聖羅を引き裂いて、その上で大試自身も殺してやりたい!




 まあ、この部屋から出られる気配もまったくない今の俺にとって、そんな希望が叶う事は無いだろうけどな。




「ふっ、お前が桜井風雅か。教会が認めた勇者だというから見に来てみれば、こんな負け犬の顔をしているガキとはな」


「……なんだと?」




 気がつけば、鉄格子の向こう側に男が立っていた。


 年齢は、25歳くらいか?


 よくわからねぇ。


 だが、服装から察するに、余程高位の貴族か何かであることはわかる。


 それに、教会関係者では無いな。


 あまりに服装が下品だ。


 金をかけるために作ったようなその服を自慢げに見せつけながら、男が言う。




「まあいい!おい貴様、勝利者になりたくはないか?」


「何を言っている?お前は誰だ?」


「……そうだったな、貴様は未開の土地からやって来た蛮族だった。私の顔を知っているわけもないか……」


「なんだ?喧嘩を売りに来たのか?だったら買ってやるよ!オラ!中に入ってこい!」




 鉄格子を蹴ってみるが、魔術で強化されたこの部屋はびくともしない。


 そんな俺の姿を笑いながら、ろくでもなさそうな男は、堂々と宣った。




「私はこの国の第1王子である智将ともまさだ!喜べ!お前をここから出してやろう!そして、お前を俺の家来にしてやる!」




 どこから俺の人生がおかしくなったのかはわからないが、コイツに会っちまったのは、確実に悪い未来に繋がっていたと断言できる。


 あぁ……やっぱり俺は、ついてねぇな大試……。






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