第95話

 今日はお休み!


 ひっっっっっっっっっさしぶりに予定が何もない本当のお休み!


 魔物に関わることも、変な奴らに喧嘩を売られることも恐らくない平和な日!


 思えば、王都に出て来てからこっち、ずっと大忙しだった!


 日がな一日魔物と戦ったり、変な奴らに喧嘩売られて潰されてばっかりだった!


 ……あれ?でもよく考えたら、開拓村にいた時も毎日魔物倒して、変な奴に喧嘩売られてたな?


 しかも、事務仕事みたいなのは全部俺がやっていたような……?


 俺って……休んでたっけか?






 さぁ休むぞ!


 休むったら休むぞ!


 もう今日はベッドから出ない!




「なぁ大試よ、ワシ暇なんじゃが?」


「暇って最高じゃない?俺は好きだよ暇」


「ひーまーなーんーじゃーがー!?」


「……」




 大精霊エルフがうるさいため、ベッド引きこもり計画は早速とん挫した。




 ソフィアさんにそのまま浮かれていると、街に出たら大騒ぎになってしまうのは、ここ数日の間に痛いほど理解した。


 そりゃ美人で、おっぱいも大きくて、エッチな服装した上でふよふよ浮いているんだから、俺だって何も知らなかったらびっくりしてガン見するわ。


 だから、今日はふよふよ浮くのをやめてもらう事にした。


 そして、こんなこともあろうかとリンゼから借りていたメイド服を着てもらう事にする。




「うーむ……死んで大精霊になって良かった数少ない事が浮ける事だったんじゃが、歩くのは面倒じゃな……」


「……ソフィアさんって、メイド服が死ぬほど似合いますね」


「じゃろう!?まあ、一回死んでるしの!」




 大精霊ソフィアとしては、注目を集めなくなったかもしれないけれど、コスプレイヤーソフィアとしては大人気になってしまいそうで怖い。






 メイドソフィアさんを引き連れて……というかメイドソフィアさんに引き連れられて街へと繰り出した。


 人間と比べると超長命なエルフだったソフィアさんとは言え、エルフの集落の外どころか、人間の都市というのは、やっぱりとても興味深い物らしくはしゃいでいる。


 どのくらいはしゃいでいるかというと……。




「大試!大試よ!ワシはここのハンバーガーが食べたいんじゃが!」


「いや、さっき同じチェーン店のハンバーガー食べたじゃないですか……ポテトにシェイクまでつけて……」


「店舗が違ったら味も違うかもしれんじゃろ!」




 大騒ぎだ。


 因みに、寮から出かけてまだ1時間しか経っていないけれど、既に4回食事している。


 その内3回は、俺は飲み物だけしか注文していないけれど、ソフィアさんは普通にバクバク食べている。


 大精霊には、満腹感とかないんだろうか?


 まあ、エルフの段階でどいつもこいつも相当なフードファイターではあったけれども。




 流石にエルフ特有の尖った大きな耳は、マイカと同じように魔術で小さく見せてくれているけれど、それ以外のパーツが完全に超美人の外国人なものだから、旅行に来て大はしゃぎしているようにも見える。


 そのため、とても暖かい目で見られているソフィアさん。


 あと、少しきつめの胸元に物凄い視線も集めているソフィアさん。


 一応、一番胸が大きいメイド服借りたんだけどな……。


 他に着れる女物の服無かったし……。


 強いて言えば体操服とか、学園指定の水着ならあったけれど、もっと大変な事になっただろうしなぁ……。




「そうだ!ソフィアさん、服買いに行きません?目立たない地味な奴!」


「服じゃと!?そ……それは……とってもデェトみたいでいいのう……」


「いや、地味な服買わせる彼氏ってどうなんだ?」


「独占欲という奴じゃろ?他の男に自分の彼女をあまり見られたくないんじゃろうなぁ」




 ポジティブな考え方する人だよな……。


 そのスタンスは嫌いじゃない。


 でもな、俺がこれから連れて行くのは、彼女の服を買おうっていうのに連れて行くような店じゃないんだ!


 言わずと知れた大衆向け服飾店!まあ俺は最近まで知らなかったんだが……。


 その名も、『ファッションセンターしめさば』!


 安い!サイズがいっぱい!デザインが地味だったり逆に変なのがあったりする!


 と、オシャレに気を配る女性には避けられるお店だ。


 俺は、下着を買うために利用している。




「この店の中の服だったら好きに買っていいから、これからのことも考えて3セットくらい買っておこう」


「ほう……これがヒューマンの服屋……。エルフの集落は、他はともかくファッションはあまり発展しておらなんだからのう!ワクワクするぞ!」




 そう言ってウッキウキで店の中を回りだすソフィアさん。


 煌くような笑顔は、元から美人だったのを更に数割増しで美人に見せる。


 そのせいで、周りの女性客たちがぼーっと見とれてしまっている。


 男性客?


 俺以外いねぇよ。




「あ……あの!お客様、どのような服をお探しですか?」


「む?」




 おっと!


 店員が話しかけに言ったぞ!


 あれは、絶対に着せ替え人形にしたくてたまらないって顔だ!


 お人形さんよりよっぽど美人でスタイル良いもんな!


 でも、程々に地味な服で頼むぞ!




「彼氏が地味目な服を着ないと機嫌が悪くてのう!できるだけ目立たない服を選んでくれんじゃろうか?」


「その方の気持ちわかります!自分の恋人がこんなに美人だったら私も……是非私に選ばせてください!」


「うむ、頼む!」




 誰が彼氏だ。




 そうして、ファッションショーが始まった。


 持ってこられる服、服、服。


 それをどんどん着て行くソフィアさん。


 てか、しめさばの地味な服でよくそんなパリのランウェイにでも立てそうな似合い方できるなこの人……。


 気がつけば、店内の店員さん全員が自分の選んだ最高の服を持ち寄って着せるイベントとなっており、客たちもそれを見て歓声を上げている。




 どうしてこうなった……?




「よし、ワシはこの3着を選ぶ!どうじゃ!?」


「「「お似合いですお客様!」」」


「「「キャー!」」」




 地味なロングのスカートとか、派手さのないタイトなジーンズとか、柄も大して入っていないTシャツとかしか買っていないのに、どこの映画女優だってくらい目立つ美女がそこにいた。


 いやぁ……美人って何着ても美人なんだなぁ……。


 この分だと、ちょっと系統は違うけれど、同じように安くて地味目なウニクロの服を着せても似たような事になるだろう……。


 恐ろしい……大精霊のスペックをまざまざと見せつけられてしまった……。




「良い買い物じゃった!ではの!」


「「「またのご利用をおまちしております!」」」




 満面の笑みで送り出される俺達。


 俺の手には、大きな紙袋が数個下げられている。


 これだけ買って1万GMそこそこだっていうんだから、流石はみんなのファッションセンターしめさばと言った所だろう。


 まあ、当初の目立たない服を買うという至上命題は、完全に頓挫してしまったわけだけれども……。


 着ぐるみでも着ないと無理だよ……。




「さて大試よ!そろそろ昼食が食べたいのう!」


「え?服選ぶのに1時間ちょっとかかったとはいえ、その前にあんだけ食べてたのに?」


「当然じゃ!ワシ、タピオカミルクティーとかいうのを試してみたいんじゃが!」


「アレまだあるのかな……?ブームなんてとっくの昔に終わってるし……」


「なんじゃと!?」




 あ、でもこの世界だとどうなんだろう?


 前世ではもう皆飲んでなかったけどさ。


 まあ、タピオカって元々原材料としていろんなところで使われまくっていたから、本来の使い道に戻るだけなんだろうけども。


 うどんとかにも入ってたぞタピオカ。




「じゃあもうクレープという乙女アイテムに行くしかないのう」


「乙女……」


「なんぞ文句あるか?」


「いや、ソフィアさんの見た目なら別に乙女判定でもいいかって思っただけです」


「じゃろう!?」




 テンションが上がってソフィアさんと、街角にあったクレープ屋に寄る。


 このお店は、どうやら注文してクレープを買ったら、外の席で自由に座って食べるタイプのお店らしい。


 あまりこういう外で座って食べるのは好きじゃないんだよなぁ。


 別にシチュエーション自体は嫌いじゃないけれど、周りに壁になるものが無いと熊が襲ってきそうな気がしてさ……。


 開拓村ソウルが刻み込まれているんだろうな。




「大試!クレープ旨いぞ!いくらでもイケそうじゃ!」


「そりゃよかった。でも、流石に5つもいっぺんに買うのはどうなんでしょうか……?」


「食べ切ればよいのであろう?平気じゃ平気。甘いものは別腹というじゃろ?」


「別になったとしても俺なら食べ切れないわ……」




 でもまあ、本人が喜んでるしいいか……。


 今までの感じからして、食べ切れないってことも無いだろうし……。




 そう思いながら、ふわふわした気分で頬張るソフィアさんを眺めていたら、不意に後ろから声をかけられた。


 さっきからやけに不躾な視線を送ってくるおっさんだなって思ってたけれど、まさか話しかけてくるとは思わなかった。


 しかも、ソフィアさんじゃなくて俺に。




「犀果大試だな?」


「違います」


「お前に我が主が話があ」


「うるさいのう……」




 パチンッ




 男が話し終わる前に、ソフィアさんが指を鳴らした。


 すると、俺に話しかけてきたおっさんは、一瞬で氷像になった。


 大精霊やべぇ……。




「ワシのお楽しみタイムを邪魔しおって……。しかも、何か脅しをかけようとしてきよったのう……?殺してやってもよかったんじゃが、氷漬けで勘弁してやろう」


「氷漬けって普通死にません?」


「大丈夫じゃ。凍死出来ない拷問用の魔術じゃから」


「便利ですね……」




 怖いけど。




 にしても、このおっさん何だったんだろう?




「やっぱこんなオッサンじゃ無理だったか」




 その声に振り向く。


 この世界に転生して、何度も聞いてきた人物の声。


 だけど、もしかしたらもう二度と聞くことが無いかもしれないと思っていたその声の主が、ニヤニヤとしながらそこにいた。




「久しぶりだな大試、相変わらず女を侍らせてんのか?」


「どっちかっていうと、俺が侍らされてるんだよ」




 桜井風雅、本来この世界の主人公になるはずだった男。


 手には、猟銃のようなものを持っている。


 狩猟王のギフトが適用されて強化でもされるんだろうか?


 そうじゃないならアサルトライフルとかの方が強そうだけども。


 それで、なんでお前がここにいるんだ?




「ったく、どうやったらこんな氷漬けにできるんだか。これも神剣とやらの力ってやつか?まあいい、それよりもてめぇに話が」


「うるさいと言っておるじゃろ!」




 パチンッ




 2つ目の氷像ができた。






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