第96話

「どうしたもんかなぁ……」


「ほっとけばいいんじゃよ」


「そうもいかないでしょうよ……」




 目の前で超美人のエルフ大精霊がクレープ5個を食べ切り、おかわりに3つ買いなおして食べている。


 俺の両サイドには、メルヘンチックな人間を模した氷像が……。


 ごめんウソ。


 凍った人間が2人いる。


 これ、死んでいないらしいんだよね。


 ただ、凍り付く痛みは感じているらしい。


 こっわ……。




 そして、その凍ってる人間の片方は、行方不明になっていた俺の幼馴染にして、この世界の元になったゲームで主人公様だった桜井風雅君です。


 もう片方は、マジで知らないオッサン。




 あまりに一瞬の出来事だったからか、周りは全然この事態に気がついていない。


 仮に人が凍り付いていることに気がついたとしても、周りが騒いでいないから特に問題は無いんだろうと見なしている気がする。


 こう言う所がすごく都会っぽい。


 ただ、流石に女性の店員さんが「あのぉ……お客様?」って聞きに来た時は焦った。


「死ぬほど疲れているからそっとしておいてやってください」って言っといたら「は……はぁ」と引き下がってくれたけど、クレープ作るフリしてさっきからどこかに電話を掛けている。


 そりゃクレープなんてファンシーな物作ってる人が氷漬けの人間を見せられたらビビるよね。


 誰と話しているんでしょうねぇ……。


 お巡りさんですか?


 解決してくれるかなぁ……。




「この片割れ、色々やらかして下手したら処刑されかねない状況にいるはずの奴なんですよ。それがどうしてここにいるのか俺にはわかりませんけどね」


「そりゃ、政治的に一枚岩じゃないならそういうこともあるじゃろ。大方、相手の脚を引っ張りたかったか、自分の足りない戦力を補うために人格度外視で人材を集めようとしたかって所じゃろう?」


「どうですかね……。なんにしても、関わり合いになりたくはない事態に巻き込まれてる気がします」


「じゃろ?やっぱりほっといて帰るのが無難じゃよ」


「でも流石にこのまま放置していくのは店員さんが可哀想じゃないですか」


「それは確かに!折角のクレープが台無しじゃな……」




 ソフィアさん的に、氷漬けの人間よりクレープが基準なのか。


 まあ、俺としてもこの2人よりは、クレープを満面の笑みで食べてる女の子の方が重要な気はする。


 出来る事なら、風雅たちに関しては何も見なかったことにして立ち去りたい。




「大試さん!申し訳ありません!緊急事態なのでスマートフォンの反応を探知して探させていただきました!」




 俺が色々スルーして口の周りをクリームだらけにしているソフィアさんを眺めていると、でっかい剣を背負ったお姫様がやってきた。


 まあ、有栖様なんですけど。


 俺のスマホって王族なら探知できるのか……。


 魔法とは違うけど、それはそれで怖い……。




「おはよう、緊急事態ってどうしたんだ?」


「はい……実は、四国が独立を宣言しました!」


「そっか……四国が…………四国?なんで!?」




 完全にノーマークだった。


 何故に四国?


 あそこって、独立できる程の何かがあるのか?


 確かに島になってるから守りは硬いかもだけど、その分周りを囲まれるわけだから、食料自給率100%以上じゃない限りすぐ終わりじゃね?


 カロリーベースっていう魔法の言葉使えば良いとこいくかもしれないけどさ。


 ましてや、毎年のように水不足になるのに大丈夫か……?


 でも、某深夜番組のせいで、死ぬまでに一回はお遍路参りしてみたいとは思ってる。




 あ、もう死んでたわ俺。


 この世界にはあるのかなぁお遍路……。




「大試さんは、私の一番上の兄の事を覚えていますか?」


「あー、俺の両親を田舎に追放したやつだっけ?それ以上の事は知らないかな。興味も無かったし、両親も別に気にしてる感じじゃなかったからなぁ。自家製の梅酒の方が大事だったんじゃないかな?」


「そ……そうですか……。えーとですね、それらの咎で幽閉されていたんですけれど、実はその幽閉先が四国にある貴人用の監獄だったんですよ」


「へぇ……そんなもんがあるのか」


「その地を管理していた貴族が裏切りました!」


「あーそう……」




 王族の長男を担ぎ上げて国を作れば、自分が美味しい思いができるとか考えちゃった奴がいたのかな?


 でも、流石に自分たちだけで日本全体とやり合えるなんて思ってないだろうし、外国からの介入でもあったかな?


 それで、そっちに戦力を出している間に、他の方面から攻めてくるとかさ。


 この世界の情勢知らんけど。




「それで、戦力的にはどうなんだ?こっちが有利なんだろ?」


「有利と申しますか……そもそも四国が独立した所でやっていけるとは到底……」


「あ、やっぱりそうなんだ?」


「はい……四国はご存じの通り浮遊要塞となっていますけど、浮遊し続けるには常に大量の魔力か魔石が必要ですから、現実的に浮遊状態で運用できない以上所詮はただの大きい島です。食料資源もそこまで多くなく、どうするつもりなのか……」




 ………………………………………………………………あん?




「浮遊要塞?」


「?はい!浮遊要塞四国です!空母の代わりとしても運用できますし、万が一巨大な災害が起きた際には、避難場所としてその地に飛んでいき、短期間ではありますが、数百万人を収容できるだけの備えがあります!とはいえ、持続的にとなると……」


「ちょっとまって?四国が浮くの!?」


「え?浮きますよ?」




 事も無げに言ってるけれど、島なんて普通浮かないよ?


 ましてや四国だよ?


 いや、ファンタジーっぽさはあるけどさ。




「とにかく!一度王城まで来てください!これから王都にいる貴族に招集命令が掛かりますから!」


「俺って、まだ貴族の子供ってだけで完全な貴族じゃないけど、それでも行かなきゃダメ?」


「ダメです!貴族らしい服装を用意しないといけないんですから!大試さんそれらしいのあまり持ってないですよね?」


「ついこの間まで蛮族スタイルだったからな……」


「城に商人を呼んでいますから、すぐに準備にとりかかりましょう!私、また大試さんの服を選べるのが楽しみで楽しみで……」




 え?これからまた服を買うの?


 流石に飽きたぞ……ソフィアさんのファッションショーの後だと、盛り上がり具合で勝てるわけないし……。




「ふむ!大試を着飾らせるのは面白そうじゃな!ワシも協力するぞ!」


「ありがとうございますソフィア様!では、力ずくで運びましょう!」


「心得た!」


「マジか……」




 聖剣で強化された王女様パワーと、指パッチン大精霊の魔術によって為す術なく連れ去られる俺。


 クレープ屋の店員さんが、さっきから表情をコロコロと変えていて可哀想にも程がある。


 ごめんな、また今度寄らせてもらいます。


 美味しかったそうですよエルフ的に。






 風雅の事を思い出したのは、お城で着せ替え人形にされ始めてから3時間後の事だった。


 四国のインパクトが大きすぎて……。




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