第97話

「おう!集まっているようだな!連絡も無しに今いない当主の奴らは、王都にいないか裏切り者って扱いになるから注意しとけよ!」


「「「はっ!!!」」」




 馬子にも衣裳というけれど、俺は今、それっぽい格好をして王都の名立たる貴族のおっさんたちと並んで陛下に謁見している。


 見た目だけなら、貴族っぽく見えているんじゃないだろうか?


 実際には、父さんの代理って事になるんだろうけれど。


 因みにこの服は、選び終わるまでに5時間かかりました。




「本当であれば、オーダーメイドしたかったのですが……!」


「では、とりあえず今日はこれにしておいて、それとは別にオーダーしておけばいいのではないかのう?」


「それです!」




 というお姫様と大精霊のやり取りもあり、早速貴族っぽい服が数着増える予定ですが。


 正直、いらねぇ……。


 ジーパンとTシャツとパーカーとスニーカーで過ごせる身分になりてぇ……。




 でもさ、女の子に選んでもらった服着てるとさ……。


 なんていうかこう……生きてても良いよって肯定されてる気分になるからさ……。




 ここにいるのは、貴族の当主たちだけれど、案外女性もいるんだな。


 10人に1人くらいか?


 これだけの貴族と会ったのなんて、王都に来た時以来だけれど、あの時は前の方に立たされていたから気がつかなかったな。


 まあ、別に女性当主とは言え美少女であるとは限らないみたいだけれど。


 悪い魔女みたいな見た目の人とか、露出度が高くてどれだけ効果があるかわからないセクシー系の鎧を着ているけれど、黒人ボディービルダー並みに筋肉だるまの女性騎士とか、広い需要に応えられるラインナップとなっております。


 あの見た目は普通のドレス姿なのに、手に髑髏を抱えているキャラの濃い女性はここに立たせて大丈夫なのか……?




 どうやら、若くして当主となった天才美少女貴族と主人公がくっつくようなイベントはあまり用意されていないらしい。


 ゼロではないみたいだけれど、それよりも若いイケメンの方が多いわ。


 BL展開なら楽に行けそう。




 そういや、フェアリーファンタジーって何作も出ていた筈だけれど、それ系のもあったりするんだろうか?


 女性主人公でイケメンたちを落としていく展開ならまだわかる。


 でも、イケメン主人公でイケメンを落としていくタイプのゲームだとしたら、俺には全く免疫が無いぞ?


 プレイ10分でコントローラー投げる自信がある。




「お前らも既に知っていると思うが、四国が独立を宣言した!それ自体はまあいい!問題は、その旗印が俺の長男って事だな!」


「陛下、智将様……いえ、智将の管理は、どこのどなたが責任者だったのでしょうか?」




 名前は知らないけれど、偉いんであろう貴族の爺さんが陛下に問いかける。


 その情報って、皆把握してないの?


 ってことは、王子の幽閉先は、かなりの機密レベルだったんだな。




「隠神いぬがみの奴だ!あのジジイ……涼しい顔してテレビ通話で独立宣言かましてきやがった!毎年贈って来てた練り物セットの話かと思ってたのによ!」


「はっはっは、やはりタヌキオヤジでしたか」




 爺さんのギャグらしきものが他の爺さんたちにめっちゃウケてる……。


 俺始め、若い世代には通じてないみたいだけれど、おなじみネタなんだろうか?


 ちょっとまて、あのドレスのお姉さんが持ってる髑髏もカタカタ笑ってるように見えるぞ?


 気のせいだよな?


 ……俺も笑っておこう……あははは……。




「でだ!お前たちに問いたい!どうする!?因みにだが、俺の長男はブチ殺しても構わん!流石に処刑するほどではないかと思って生かしておいたが、武力を以て混乱を招くならば殺すしかないからな!」


「まあそうですな。ここは、可能な限り犠牲を減らすことを考えましょう。例えば……暗殺なんてどうですかのう?」


「あの四国に刺客を送り込めるかのう?まだ橋は3つとも連結されておるようじゃが、通行は止められておるそうじゃぞ」


「海からはどうじゃ?」


「まだこの時期海水は冷たくて辛いんじゃがなぁ……」


「貴殿、まさか自分で行く気かのう?こりゃ寿命レースの出走者が減りそうじゃ」




 オッサンどころか、爺さん連中って年齢の人たちが、何故か一番イキイキと王子ブチ殺し計画を話し合っている。


 他の世代の人たちは、話がどう纏まるかを窺っているようだ。


 何か提案して上手くいけばそれでいいけれど、そう簡単に反乱軍だの独立軍だのを鎮圧なんてできないしなぁ。


 ゲームとかアニメの天才キャラのように、画期的な作戦を立案して、少ない戦力で圧倒的な勝利を演出できる奴なんてそうそういるわけが無いんだ。


 何故か絶対チェスか将棋が得意なんだ。


 チェスが得意な奴に対して、俺は敵を寝返らせることが出来る将棋の方が好きだとか言って煽ったりするんだ。


 俺?チェスも将棋もルールしかしらない。


 囲碁なんて、ルールを何回読んでも理解できなかった知能です。


 麻雀の方がまだ理解している気がする。


 指で牌を削れる握力があれば勝てるんだ。




「大試!何か考えは無いか!」




 俺の出番は無いだろうとボーっとしていたけれど、何故か王様が俺に話しかけてきたせいで周囲の視線が集まる。


 何で俺に聞くの?


 何かって何?




「犀果殿の御子息は、先日の桜花祭でワシが作った記録をぶち抜いたそうですのう?」


「ほっほっ!何十年も破られなんだ4分の壁がとうとう崩れたかと皆で騒いだのう!」


「アレは愉快であった!」




 あれ?俺って、爺さん連中には有名なの?


 でも、アレってかなりのズルを組み合わせた奇策だよ?


 参考になるかなぁ……。




 何はともあれ、何かしら答えておかないと流石に不味いか。


 バラエティー系のクイズ番組で、ネタ回答すらせずに何も答えを書かないくらい不味い。




「……俺は、浮遊要塞四国についてよく知らないんですけど、姿を消して海から四国に上陸することは可能なんですか?何か結界とかあります?」


「いや無い!海からの魔物を寄せ付けない結界ならあるはずだが、日本国民であれば止められる事は無い!だが、本州と四国の間は海流が速くて複雑でな!魔力で強化された人間ですら泳ぎ切るのは難しいだろう!海中には、結界に阻まれて立ち往生している魔物も多いしな!」


「でも、海面を歩いていける手段をもっている人なら、ステルス使ってもらえば上陸できるんじゃないですかね?」


「そういえば、この前のイカ釣りの時に大試は海の上を走っていたな?……よし!決めた!」




 王様が、自分の膝をバチーンと叩く。


 そして、俺を見ながら宣言する。




「大試!ちょっくら四国へ調査に行ってこい!」






 嫌だよ!?


 今日は折角の休日だったはずなんだよ!?






後書き

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