第93話

 皆で楽しいイカ釣り祭りは終わった。


 祭りの後はどうなる?


 祭りが始まる!




 らしいよ?




「なんか、釣りしていた時より人増えてません?」


「当然だろう!なにせ貴族たちが連れてきた料理人たちによる魔イカ料理の数々を無料で食べられるんだからな!」


「まあ……匂いの暴力がすごいですしね」




 軍港全体に屋台が出ている。


 前世の祭りで売られていたメニューも沢山あるけれど、そんな場所で出されていなかったようなメニューも数多くここでは提供されているらしい。


 しかも、全て無料だ。


 流石に1メニュー1人1皿などの制限はあるみたいだけれど、スーパーの卵1人1パック制限みたいなもんで、確認のしようなんて無いだろうな……。




「大試さん!イカ飯すごいです!あのイカがこんなに小さくなってますよ!?こんな贅沢な調理法が許されるんですか!?」


「……傲慢……傲慢です……!」


「エルフがモリモリイカ食べてるの見るのは慣れないな……」




 森の民が海の触手を食べている……。


 美味しいし気持ちはわかるけれど、違和感はなくならない……。




「大試よ、ワシにあーんをしておくれ!」


「大精霊なら手すら使わず食べれるんじゃ?」


「できるじゃろうけど、折角ヒューマンと契約したんじゃから、そういうドキドキイベントも経験しておきたいんじゃ!」




 引く気がなさそうだから、仕方なくイカ焼きを食べさせてみる。


 基本が物凄い美人だから、ニッコニコになるだけで男を簡単にドキドキさせてくるのが怖い。




「大試、私もあーんして」


「アタシもしなさい!」


「じゃ……じゃあ私は逆にあーんしたいです!」


「わかったから!張り合うな!」


「はっはっは!モテるな大試!負けるなよ有栖!」




 釣りが終わって解放された……というより無理やり抜けてきた聖羅と、釣りが終わったからもうソロプレイする必要が無くなったリンゼと、生きたイカ恐怖症よりも寂しさ解消を優先した有栖もやってきて一段と騒がしくなっている。




「理衣!私もアーンしてほしいんだが!?ついでに今だけでいいからパパと呼んでくれないか!?」


「お父さん……私はもう大試君にしかそう言う事しないの!」


「そんなああああああああ!?」




 理衣の所は、父親が色々はっちゃけているようだ。


 だけど……。




「親父!理衣に何してやがる!」


「理衣!大丈夫!?私が来たからにはもう安心よ!さぁ寮に送ってあげるわ!」


「勝手な事を言うなよ姉さん!理衣は俺が送るんだ!」


「まったく……うちの家族はエレガントさが足りないねぇ……。ここは長男である僕が理衣を送ろうじゃないか」


「「「黙れクソ長男!」」」


「理衣様、奥様方から寮へお送りするようにと指示を受けておりますので、是非お車へ」


「お前たち!当主である私を無視して理衣を連れて行く気か!?許さんぞ!」




 理衣のご家族登場。


 話には聞いていたけれど、仲がいいね……理衣とだけ……。




「大試ー!うち、もうお腹いっぱい!」


「暴食全然してなくない?」


「だって美味しいんだもん!」


「イカ美味しいニャ……でもこれ以上食べるのはファントムキャットとしてにゃー……」


「キャットフードにもイカは入ってるらしいけどな」


「そうなのにゃ!?」




 魔王軍にもイカの魔物は評判がいいようだ。


 イカ美味しいからな!


 なんせクジラまでやってくるから!




「王様、過去に俺の父親と一緒に魔皇クジラ倒したんですよね?美味しかったですか?」


「美味かったな!ただ流石に王都中を悪臭で満たしてまで食べる程ではなかったが!」


「どうやって倒したんですかあんなの……」


「斬った!2人で首を両側からな!」


「うわぁ、蛮族」




 まあ俺はその蛮族の息子なんだが。


 ……似た事やってるか俺も。




 さて、周りはお祭り騒ぎだけど、今のうちに俺は俺でやる事をやっておこう。


 神社からこっち、ダイマオウイカを倒したことでとうとう70レベルまで到達していた。


 そして、あの謎のやべー神様から渡されたガチャチケもまだ使ってないし、他にもガチャチケをどう使うかが悩みどころだな……。




 既に3本も木刀を使ってしまっている。


 こうなってくると、確かに女神様が言う通り木刀も重要性が上がってくる。


 だから、自分でガチャチケを使って木刀を補給する分と、他の人にガチャチケを使ってもらって、他の神剣を入手する割合を考えないといけない。




 というわけで、とりあえず天之尾羽張というのを貰っておこう。


 この剣だけは、ガチャチケから絶対出るそうだから、その性能を確認してから他のチケットを使っても遅くはない。




 ぶっちゃけると、現在の俺の手持ちの剣たちは、かなりの過剰戦力になっている。


 絡め手に使える物も増えてきている。


 だから、そこまで新しい剣にこだわる必要もない。


 けれど、ガチャから70本剣を出した段階で、具現化可能数を2倍にしてもらえる特典が貰えることになっているから、今まで以上に身体能力アップの恩恵は上がる。


 だからSSRの剣が出たらありがたいけれど、やっぱり周りの人に非常用のエネルギータンクとして持たせる木刀の重要性も同時に上がってしまった。


 だからどっちを優先するか、天之尾羽張の性能でそれを占う!




 神に渡されたガチャチケを破る。


 ガチャが出て来て、カプセルが転がり出てきた。


 早速開ける。




「……んんん?なんか……思ったよりおどろおどろしいというか……呪われそうな剣だな……」


「大試……それ、持つの?」


「うーん……とりあえず小さくしてホルダーにはセットしておくかな……」




 聖羅が天之尾羽張を見てちょっと引いている。


 性能はどうだろうか……。




 天之尾羽張(SSR):神でも確実に殺す剣!ただし、敵を1体殺す度に使用者の全魔力を使用する!装備時に身体能力を100%増加!




 うん……神様から貰ったけれど、これ結構な魔剣だな……。


 確かに強力だけど、俺みたいに高魔力を持っているらしい人間にはちょっとな……。


 ……タケミーみたいな奴が出てきたら使うか……?


 めちゃくちゃ使用用途限定されるな……。


 そして、そんな奴と戦いたくねぇ……。




 でも、このデメリットは木刀使えば相殺できるのか。


 神レベルの相手を殺したうえで、数が有限の木刀を使ってまで魔力を回復しないといけない状況とか更に想像したくないけどな!




「そうだ、聖羅たちに木刀を1本ずつ渡しておくよ。今回みたいに必要だと感じたら、構わず使ってくれ。レベルアップするごとにしか補給は出来ないけれど、それよりなにより皆の命の方が大事だしな」


「わかった、大切にする」


「あの魔力は凄かったわね……これ、なんとか量産できないかしら……」


「私がこれを使うと、どのくらいエクスカリバーできるのでしょうか……」


「私もいいの?この前から魔力がいきなり増えたから、いつ使う事になるかわからないけれど……」




 とりあえず、ここにいる婚約者には全員渡しておいた。


 エルフたちとエリザは最初から凄い魔力をもっているらしいし、ファムは無暗矢鱈と使いそうだから渡さない方が良い気がする。


 今度水城先輩にも渡しておこう。




 というわけで、残りのガチャチケは全部木刀にしておくか。




 俺は、残っていたチケットをバンバン破り捨てていく。


 コロコロと出てくるカプセルたち。


 開ける度に増えていく木刀。


 よし、計画通りだ!




 ……あれ?最後の1本だけ色が違う?


 白くてブヨブヨしている。


 なんだこれ……?




 クラー剣(SR):ダイマオウイカのくちばしから削りだされた剣!水生生物に対して攻撃力が50%上昇!ただしクジラには効かない!装備時に身体能力を50%増加!




 ……え?まさかのダジャレ?


 しかも、このブヨブヨの剣で斬れって?


 ウソだろ?




「大試、その剣……焼いたら食べられるんじゃない?」


「木刀ですら燃えないからなぁ……」


「そう……残念……」




 こうして、初めての釣りイベントは終わりを迎えた。


 俺は知らなかったけれど、この世界ではこういうイベントがよくあるらしい。


 どんだけ釣りイベントが人気あったのか知らないけれど、多い時だと月1開催だったらしいから、この世界でもそうなるのかなぁ……。


 次は何を釣るんだか……。


 個人的には、マグロとかシイラって魚を釣ってみたいな。




 ……いやまて、もしかしてその場合、マグロもシイラも魔物になるのか?


 魔グロとかシイ羅とか……。


 うーん……こえーなこの世界の釣り……。




「大試、さっきのおっきいイカでスルメ作ったら、お義母さんたち喜ぶかな?」


「やめとけ。どうせ俺たちが居なくなって酒ばっかり飲んでるんだから、それを更に助長させる肴なんて提供しない方が良い」


「でも、お酒の材料って大抵私が作ってたから、もしかしたら今村でお酒不足になってるかも」


「……あの人たち、酒飲まないとどうなるんだろうな?」




 生まれ故郷の大人たちに一抹の不安を覚えながら、海での夜は更けていった。




 因みに、俺が釣り上げた丸々1匹と、リンゼの釣りあげたダイマオウイカの触腕は、その日のうちにメイドの美鈴さんたちや王宮料理人たちの手によって、数万人前のイカ天へと昇華され消費された。


 是非研究用に!と言っていた研究者たちは、王様の「いや食うだろ!」の一声で崩れ落ち、泣きながらイカ天蕎麦を食べていた。


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