第281話

「……うそ……本当に……ソフィアなの……?」

『あああああああ!やっぱりちょっと寒いいいいいいい!秋って季節自体が寒いよおおおおおおお!建物の中とか関係なくうううううう!』

「ソフィア……ソフィアあああ!」

『ぎにぇえええ!?あ、水城ちゃんだ。久々にチュールちょうだい』

「ええ……ええそうね……私もよ……貴方に会えてすごく嬉しい……!」


 会長とソフィアの感動の再会シーン。

 なのに、なんということだろう……。

 俺の耳には、どう考えても噛み合っていない二人の会話が聞こえる……。


「大試さんは、水城お姉ちゃんに剣を使わせましたけど、元々剣の所有権は大試さんにあったので、ソフィア?さんとのメインのパスが大試さんに繋がっているようですね。なので、ソフィアさんとの意思の疎通ができるようになっているようです!」

「人間は、何故か動物たちが素敵な会話をしているようなイメージを持ちがちですけれど、大抵は本能に任せた下らないことばかりを話しているんですよ。幻滅しましたか?」


 白ちゃんが、しっかりと説明できたからか、可愛いドヤ顔になり、玉藻さんが、幻想を打ち砕く事を俺に囁く。

 もちろん、会長に聞こえないように。


「俺は、どっちかって言うと、動物ってろくなこと話してないんだろうなってイメージのほうが強いので、あんまり違和感ないですね。無視の鳴き声だって、『交尾させてくれー!』ってメッセージだろ?って思っちゃうタイプです」

「夢もロマンもありませんね!」

「動物モノの映画を鼻で笑いそうなタイプですね」


 妖狐sが好き勝手言ってくれる。

 なんとでも言うが良い!

 未開の大地で15年も生活すれば、生き物に対して必要以上の期待を持たずに済むようになるぞ!


「もう絶対離さないから!」

『放してよおおおおお!チュールくれないなら放してえええええええ!』


 それはそれとして、そろそろ何かしらのアクションを起こしたほうが良いかも知れない。

 このままだと、お互いが幸せになれない気がするし……。


「あー……水城、苦しそうだから、ソフィアのことを少し放してやったらどうだ?」

「え!?……確かに、ちょっと苦しそうかも……ごめんね!ごめんねソフィア!」

『いいからチュールちょうだい!』

「許してくれるの……?やっぱりソフィアは優しいね……」


 先入観というのは恐ろしいものだ。

 相手が食欲に塗れたメッセージを送っていたとしても、「そんな事を言うわけがない」という思い込みだけで、どこまでもバイアスが掛かっていく。

 何よりも問題なのは、その認識のズレについて、周りの人間は指摘し辛いということだ。

 しかも、会長がどれだけソフィアのことを大切にしているかを知っている俺にとっては、かなりの苦行だろう。


「あれ?ところで、水城は霊というか魂だけの存在に触れることができるのか?普通にソフィアを抱きしめてるけど……」

「そういえば……一応そういう術は、私の家系には伝わっているわね。でも、特になんの力も使わずにここまでしっかり触れ合えるなんて……きっとこれは、私とソフィアが互いを必要としているからなのよ!」


 会長がそう叫び、更にソフィアを強く抱きしめる。

 嫌がられている気がする。


(大試さん大試さん、ソフィアちゃんは、大試さんの神剣で召喚されたせいで、精霊になっているんです。だから触れ合えるだけで……)

(白ちゃん、そういう野暮なことは、相手に嫌われる覚悟をしてからいいましょうね)

(玉藻様!?そんなの嫌です!いいませんです!)


 なるほど、精霊になってるのか。

 となると、巫女の会長とは相性いいかもな。

 ソフィアは、今は俺とパスが繋がっている状態らしいけれど、それを会長に引き渡すことは可能なんだろうか?

 もしくは、俺とのパスを維持しつつ会長ともつながるとかでも良いんだけれど。


(玉藻さん玉藻さん、動物の精霊と会話せずにパスだけ繋いでくことって出来ます?辛い現実は伝えない感じで……)

(可能ですよ。私がこうして指を鳴らしている間に……はいどうぞ)


 なんとなくでしかわからないけれど、俺とソフィアとの間に、会長が挟まってパスが伝わっているような感覚がある。

 これが玉藻さんが言っていたやつだろうな。


 はい、指摘する事は俺には出来ませんでした。


「水城、チュール持ってたから使って」

「ありがとう大試くん!はいソフィア、大好きなちゅーるよ!」

『もう!遅いよ!……これ犬用じゃない!?』


 こうして、会長に精霊の仲間が出来た。

 きっとこれから大きな戦力になってくれるだろう。

 多分……。



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