第282話
「大試さんたちは、このお店を知覚できるようにしておきますので、また来てくださいねー」
「その内、娘と一緒にたぬきの神社にも行きますので、隠神さんにお伝えください」
「わかりました。では、ま……え?娘!?」
「そうですよ?私と、晴明の娘の白ちゃんです」
「親と言われても、殆どほったらかしでそんな感じしませんけどね!」
「しかも、父親があのヘンテコ人形陰陽師!?」
「作ったのは、人形になる前ですよ?」
衝撃の事実だけれど、突っ込んで聞くと大変な事になりそうなので、ここは笑って流しておこう。
あはははは。
そして俺たちは、やけに濃い体験をした喫茶店から出た。
何しに来たんだっけ?
……そうだ、会長と一緒にデートしている緊張を自覚し始めたせいで、休憩したくなって、何か飲み物でもって思って入ったんだった。
入る前より疲れている気がするのは気のせいだろうか?
いや、違う。
「……すごい体験したわね。ねーソフィアー?」
『ちゅーるくれたから多少は仕方ないにしても、抱きしめて頬擦りしないで!』
「ソフィア用に、動物用ケージでも買いますか」
「んー……でも、折角私の所に戻ってきてくれたのに、そんな無機質な物に入れるのは可哀想じゃないかしら?」
『全然可哀想じゃないから!いい事言ったわオス人間!ついでにカイロとかいうあったかいのも入れて!』
未だにネコと美少女の相互理解は進んでいない。
まあでも、現時点でソフィアの方もそこまで契約解除したいとも思って無さそうだし、とりあえずはいいか……。
「おぉぉぉい……たいしよぉおおぉぉぉぉ……」
会長と猫のじゃれ合いを眺めていると足元から弱弱しい声が聞こえる。
何事かと見てみると、ソフィア(大精霊エルフ)がいた。
「え?どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもあるかぁ……!いきなり消えるから……ワシとおぬしとの間のパスが一時的に断裂して、魔力供給が滞っとったんじゃよ……。危なく妖精の領域に退去する所だったわ……」
「それは……すみません。なんか、マヨイガ?とかいうのに飲み込まれて……」
「なんじゃと!?大丈夫だったのか!?」
「はい、茶しばいて妖狐お手製の稲荷寿司食べて猫拾ってきました」
「マヨイガで何しとるんじゃお前は……?」
やりたくてやったわけではないとだけ言っておこう。
俺が戻ったことでこの世界の魔力が戻って来て、元気が湧いてきたらしいソフィアさんに、俺たちが消えている間何があったのかを説明した。
最初から最後まで「何言ってるんじゃこいつ?」って顔してたけれど。
ソフィアさんはソフィアさんで、この辺りを死に物狂いで探してくれていたらしい。
どうやら、ソフィアさんにはあの喫茶店が見えなかったらしい。
俺と一緒に近づいてみると、何の問題も無く見ることができたみたいなので、何か条件があるんだろう。
例えば、俺が元々転生者で、この世界の人間じゃないからとか?
魂の状態的には、かなり特殊な存在なのかもだし。
最初、俺と会長が店に入って行ったのも、玉藻さんたち的にはびっくりする事だったみたいだしな。
「それで、これが例の猫かの?」
「らしいです」
「そうです!この子がソフィアです!」
「ややこしいのう……」
『何このヤバイ女!?指動かすだけで街吹き飛ばせるくらいの強さ感じるんだけど!?』
「お?挨拶しとるんじゃろうか?賢いやつじゃのう!ワシもソフィアというんじゃ。仲良くしようのう?」
『こっわ!こっわい!』
人外同士だとしても、相互理解っていうのは、やっぱり難しいんだなぁ……。
近くにあった個人経営の小さなペットショップで、猫用の持ち運びケージと猫用ちゅーるを買い、本来の目的のために出発する。
よく考えたら、こうやってデートするのはあくまでおまけで、神社の結界を修理するのがメインの用事だったんだ。
今日あった事を振り返ると、神社の結界の件がすごく小さい事に感じてしまうけれど、東京を守るためには大事な事なんだ!
けっして、「九尾の玉藻とか1000歳越えの妖狐とかが滞在しているマヨイガが街中にあって、その中に魑魅魍魎がやってくる喫茶店がある時点で、それどころじゃないのでは?」なんて思っちゃいけないんだ。
『このケージ暖かい……もうお外出たくない……家の中に引きこもっていたい……』
一番高い奴を買ったんだけど、どうやらお気に召してもらえたらしい。
店員さんも、まさかこの猫が精霊なんていう存在だとは思わなかっただろう。
ってか、ソフィアの方も、自分が精霊だって自覚あるんだろうか?
『なぁソフィア、お前って自分が精霊になってるの気が付いてるか?』
『……な!?オス人間!今お前私に話しかけたか!?』
『あぁ、そうだぞ』
『初めて人間と会話した!え!?え!?お前ネコ!?』
『人間だって』
猫とのファーストコンタクトに挑戦してみる。
正直に言うと、前世でもそこまで猫は得意じゃなかった。
別に嫌いじゃないんだけれど、相手に怖がられてすぐ逃げられてしまうせいで、あまりコミュニケーションができたことが無い。
俺は敵じゃないと伝えられたらどれだけ楽かと思ったもんだ。
そして今、俺にはそれを可能にする力がある!
『話が分かるなら水城ちゃんに伝えてほしいんだけど!もっとちゅーる頂戴って!あとごはんはカリカリしたやつじゃなくてねちょねちょの奴がいい!』
『ねちょねちょ……』
ここぞとばかりに自分の要求をぶつけてくる。
流石はケモノ。
幻想なんて持っていない俺でも、この圧には押されてしまう。
「フフ、大試君ってそんなふうな事もするんだね?可愛い」
「突然にゃーにゃー鳴きだすとかビビるのう……」
「えっ……」
猫との会話は、周りからは猫の鳴き声に聞こえるらしい。
どうしよう……猫との会話とかしなくてもよくない?
『おいオス人間!聞いてる!?』
『悪い、やっぱ聞こえんわ』
『聞こえてるよね!?』
煩い!俺は、女の子から可愛いって言われたらどうしたらいいかわからなくなる系ボーイなんだ!
「じゃあ私も!にゃーにゃー♪」
「ほう?ワシもやってみるかの!にゃーにゃー!」
……ふむ?
『おいオス人間!なんでこいつらニャーニャー言い出したの!?』
「にゃーにゃー」
『おいオス人間!なんでお前も同じような事しだした!?』
理由?
だって、絶世の美女がにゃーにゃー言ってるんだぞ?
乗るしかないだろ。
そんな下らない事を話し合いながら歩いていたら、いつの間にか目的地である日枝神社へと辿り着いていた。
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