第280話
「ではまた」
そう言って、おじいさんは消えていった。
「……気配、全く感じなかったんだが……?」
「あれ、なんなのかしら……?」
俺と会長は、おじいさんが消えたことで、やっとその存在について話すことができた。
得体の知れなさという意味では、玉藻さんたちより上だわ……。
「今のは、引退したこーうんの神様です!」
そんな俺達の雰囲気を他所に、元気にハツラツと教えてくれる白ちゃん。
サラッと教えて良いレベルの存在では無さそうだけれど、まあいいか……。
「ぬらりひょんとも呼ばれていますね。神格が落ち、福の神としての力が弱まってしまったらしいですが、たまにこうして勝手に人々の食事を貰い、対価として少しの幸運を与えてくれるそうですよ」
白ちゃんの説明を補足する玉藻さん。
神と妖怪だとどっちがいいかと言われても、どっちも勘弁願いたいとしか思えないけれど……。
「それで今回は、大試さんが注文した稲荷寿司を食べていったので、大試さんに幸運をお返ししてくれたようですね」
「幸運?」
「ええ。ほら」
そう言って玉藻さんが手で指した場所には、いつの間にかおなじみのガチャが出現していた。
……何故に?
「さっき、こーうんの神様が大試さんから紙を1枚こっそりとって破いていました」
「何してくれてんだあのジジイ!?」
最近の俺のガチャチケ使用理由は、基本的に木刀補給に限られている。
神剣としてリスティ様が作るものは、大抵すごい敵を倒したすごい剣的なものなので、これ以上そんなもん増やしても使い所に困るだけだし、だったら自分で引いて木刀にしてしまったほうが役に立つと考えられるからだ。
その木刀も、そこまで一気に何本も使うわけでもないから、結局チケット自体は余っている状態ではあるけれど、かといって勝手に使われるのは困るんだが!?
「大試さん、こーうんの神様は、大試さんにこーうんをくれたはずです!きっとすごく良い事が起きますよ!」
そう言って励ましてくれる白ちゃん。
でもなあ……これでまた、全力ブッパ系が出てきたら、俺はとても悲しい気持ちになると思うよ?
なにはともあれ、こうなってしまっては、引かなきゃただただ無意味になるだけだから引いちゃうけれど。
ガチャッ
コロンッ
カプセルを開くと、中から出てきたのは、ナイフ……というより、短剣という感じの剣だった。
カルンウェナン(SSR):1回だけどんな願いでも叶えてくれる!願いを叶えると消滅し再召喚できなくなる!装備時に身体能力を100%増加!
「…………んんっ」
「えっ、どうしたの大試くん?」
「いや……とんでもないもんが出てきたなと思って……」
何でもだと?
しかも、1回だけ……?
そんな悩みのタネにしかならんもんが出てくるなんて聞いてない!
この優柔不断の俺にそんなん酷すぎるよ!
……まあ、身体能力を上げるためのアイテムとだけ考えていても良いのかも知れないけれどさ。
「うーん……どうしたもんかなぁこれ……?」
「良いものだったんですか?」
「良すぎてどうしたらいいかわからないって感じですね」
「それは、おめでとうございます」
玉藻さんが言う通り、おめでたいことだろう。
どんなふうに願いが叶うのかは知らないけれど、間違いなく、世界中の人々が欲しがる物だ。
だからこそ、どう使ったら良いのか決めかねてしまう。
「僭越ながら、長く生きている者からのアドバイスです」
俺の煮えきらない態度からなにか察したのか、玉藻さんがそんな事を言いだした。
「使い道に悩んでしまうほど良いものなら、どんなふうに使ってもどうせ後悔する事になります。ならば、いっそのことさっさと使ってしまうか、誰かに使ってもらうのが一番ですよ。そんな事でいつまでも悩んでいる方が、時間の無駄ですから」
……ふむ、そうか。
俺が決められないなら、他の人に考えてもらえば良いんだ!
今すぐにこれの使い道を決めてもらいたいとなると、候補は1人しか居ない。
そして、多分その人が選ぶ使い道もなんとなく予想はできるけれど、もしその予想通りだったとしても、喜んでくれるならそれでいいや。
「大試くん、大丈夫なの?」
心配そうに聞いてくる会長に向き直る。
そして、カルンウェナンを持ち、会長に押し付けた。
「え?え?どうしたの?」
「これ、カルンウェナンって言って、どんな願いでも1回だけ叶えてくれるらしいんですよ。一回使ったら、二度と呼び出すこと出来ないらしいんですけど」
「すごいじゃない!?何に使うのかしら?」
「いや、俺には使い道を決めるのは難しいので、会長に……水城に決めてもらおうかと思って」
「ちょっと待って!?そんな大事な物をそんな簡単に他の人に委ねてもいいの!?」
流石に会長も驚いているらしい。
まあ、世界中に7つあるボールを集めてきたようなもんだしな。
でもさ、別に無駄遣いだとは思わないんだよな。
大事な人のために使うのが、俺にとって一番の使い道だと思うし。
「水城と一緒にいるときに手に入ったものだし、水城に使ってもらうのが一番俺にとって幸せなきがするんだ」
「大試くん……」
俺が引く気がないと理解したようで、恐る恐る受け取る会長。
そして、当然悩みだす。
願いなんて、普通はいくらでもあるものだから。
「でもどうしたらいいのかしら……?私、大試くんと一緒にいられるなら、割と満ち足りているんだけれど……」
そんな事を言ってくれるけれど、俺が今のところどれだけ頑張っても叶えられていない会長の望みを俺だってちゃんと知っている。
「会長、あくまでこれは提案なんですけど」
「うん、何?」
「ソフィアの霊を呼び寄せてみるってのはどうでしょう?」
「……え?」
「実は、今まで言ってなかったんですけれど、何度もソフィアを呼び出せないか実験してたんです。理衣たちにも協力してもらって。でも、結局成功しませんでした。理衣にソフィアが憑依するあの妙な現象も起きなくなって久しいですし」
俺の提案を聞いて、驚きと躊躇いがせめぎ合っているのがわかる顔をする会長。
「で……でも!そんな事に使っても良いのかしら!?確かにそれができたら嬉しいけれど、この剣って、もっと重大な事に使うべきなんじゃ……。人々のために……世界のために!」
「別にそんな大層なこと考えなくてもいいんじゃないですかね?多分、神様は『好きにしろ』って思っているから、こんなもん寄越してきたんだろうし」
「だからって……」
それでも、踏ん切りがつかないらしい会長。
でもさ、俺も玉藻さんの言う通り、どうせ何選択しても後からこうしたら良かったなって思うようなものなら、その場のノリと勢いでさっさと使っちゃったほうが良い気がするんだよ。
だから、無理にでも今ここで使わせたい。
「水城」
会長の目を真っ直ぐ見ながら、その両肩を掴む。
ビクッとしたけれど、そのまま俺の目を見つめてくる会長。
「水城が喜んでくれるなら、それ以上に有意義な使い道なんてないと思う」
「大試くん……」
俺の最後の一押しで、ようやく決心がついた様子の会長。
一度大きく頷いた後、カルンウェナンを手に持ち、願いを唱える。
「お願いカルンウェナン!ソフィアを!猫のソフィアの魂を召喚したいの!力を貸して!」
会長が願いを唱えた瞬間、カルンウェナンが光り、そして崩れるように消えていった。
そして……。
「あら、霊門が開きますね」
「今日は、珍しいことがいっぱいです!」
妖狐2人が、ワクワクしながらその現象を見ている。
何もなかったはずの空間に、紫色と黒が入り混じったようなゲートが開き、そこから半透明の何かが出てきていた。
サイズは、それこそ猫くらいの……。
『いやあああああああああああ!寒い季節にわざわざ現世に戻りたくないよおおおおおおおおおおおおおお!』
猫の叫びが、何故か人語となって俺に伝わった。
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