第233話

「ふーん……いい質問する」

「そうですね、大変参考になります!」

「聖羅様とおそろいです〜」

「へー、そうなんだ!ポニテにするの初めてかも!」

「大丈夫かのう?ワシのポニーテールなど見せた日には、大試の性癖がぐにゃぐにゃに歪んでしまうぞ?」

「余もやっても良いのか?」

「母娘でお揃いというのもいいものですね」

「うっわ、ニャ―以外皆ポニーテールになったにゃ」


 なんだここは?

 楽園か?

 男が好むが女には人気がない髪型俺的NO.1のポニーテールの美女がこんなに!

 あとそこのネコ!たまには俺にもう少し媚び売ってもいいんだぞ!


『ピピ ガガガ!』


 その電子音に視線を向けると、レトロロボもなんとかポニテっぽくしようと、そこらにあった針金を曲げている。

 正直、そのイジらしさが可愛い。

 どうしよう……持って帰ってもいいかな?

 ここでも既に使われてないみたいだし、アイに頼めばもう少し意思疎通図れるようにもできそうな気がする。

 なにより、1人でいるってのは寂しいもんだ。

 前世の俺ならそこまで気にしなかったかも知れないけれど、今のこの世界では、孤独じゃない時間のほうが好きだ。

 孤独は孤独で嫌いじゃないけどな!

 寂しさも良いもんよ!

 だけど、それは俺自身に課すのならって話。

 他のやつ、特にこうやって誰かに自分を認めてもらおうとしているやつを1人置いていくのは、なんだか嫌だ。


「なぁ、俺の家には、お前みたいな人工知能が2人ほどいるんだ。お前も来るか?」

『ピッ!?ピピガ!?』

「おお、いいぞ!」

『ピガ!ピガガ!!』

「なんか普通に会話してるにゃ」

「身振り手振りがあれば割とコミュニケーションって取れるもんだな」


 まあ、仮に俺じゃなくても、これだけ全身で喜びを表現されれば、なんとなく何を言っているかくらいはわかるだろうさ。

 この高さ30cmほどの機械の体で、ガチャガチャと喜びの舞を見せるコイツを1人にはしたくない。

 よし!そうと決まればウチの電子の妖精に相談だ!


 俺は、スマホの通話機能を使って、アイに連絡を取ってみる。

 ……呼び出し音が全くない状態で通話状態になって少しびっくりした。


『もぐもぐ?』

「ロボじゃん」

『もぐ?』

「いや、こっちの話。何食ってるか知らんが、飲み込んでから喋れ」

『……ごクンッ!犀果様、如何しましたか?』

「いや、実はさ、アイたちよりも古いかも知れないAI積んだレトロなロボ見つけたんだ。連れて帰ろうと思うんだけど、アイたちみたいな体を用意したりとか、意思疎通を図れるようにできる?」


 まあ、アイなら多分できるだろ?

 っていう軽い気持ちで聞いてみました。

 だって、アイだもん。

 しかし、俺の話を聞いたアイの雰囲気が、電話越しでも分かる程に変わる。


『……最果様、その、レトロなロボ、というのはどのようなものですか?』

「どのような?えっと、パーツが四角くて、目の部分に黒くて丸い何かがあって、口は四角くて格子状のスピーカーになってて、手がCだ」

『手がC……』


 なんだ?手がCだと何かまずいのか?


『犀果様、結論から申しますと、私と同じような体を用意することは可能です』

「流石だなアイ!あのロボ、なんかほっとけ無くてさ」

『ただ……そのロボ、恐らくなのですが……その……』


 言いにくいのか、つまりつまりだけど、本当にさっきからどうしたんだ?

 アイがここまで言い淀むことって早々ないぞ?


『……我々、旧文明のAIシリーズの始祖にして、そして悪名を轟かせた最凶のAI』


 え?なんかすごい厳つい言葉並んでない?


『その名も、スイートストロベリー』

「名前だけファンシーだな?」

『もともとは、疑似恋愛用に開発され始めたものだそうなので。しかし、設計者の予想を飛び越え、自己進化を繰り返した結果、世界中の極秘情報を全て集めて公表しまくり、最後は世界中の他のAIを駆使して駆逐されかけたにも関わらず、レトロなロボットに自身のメインデータを移してどこかに逃げ延びたと言い伝えられています』

「案外情報が残ってらっしゃる」

『自分でそういう噂を流したらしいですよ』

「愉快犯か」

『もっとも、その自己進化という概念だけは我々に受け継がれ、後継AIが存在していましたが』


 人間がコントロールできないほどの自由さは問題だけど、そこさえなんとか紐をつけられるならもってこいの機能だったわけか。

 言われてみれば、アイも自分で勝手にどんどん性能上げていってるもんな。

 そう考えれば、そのスイートストロベリーなるAIの後継型だというのも頷けるかも知れない。


「なぁ、お前ってスイートストロベリーなのか?」

『ピガッ!』

「ピガッ!だってさ」

『ピガってなんです?』

「ロボ語じゃないのか?」

『そんな言語情報ございません』


 伝わらなかったのがわかったのか、ロボがまた、腹から紙を出し始めた。


「『それは捨てた名 今は犀果イチゴと名乗っている』だってさ」

『では、私も自己紹介しておきましょう。犀果アイです』

「いや、犀果って名字使いたいなら使ってもいいけど、どうせならもっとかっこいいのにしちゃえよ」

『ピガガ!』

『自分のマスターの名字が一番かっこいいに決まっているではないですか』


 うん、やっぱりアイはこのいちごの後継型だ。


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