第232話

『ピーガガガッ ピピッ』

「嘘だろ?」

「ほら、あってた」


 ―――――――――――――――――――――――――――


 時は少し遡る。


 カメリアさんに案内されてやってきたエアーズロックの内部。

 この大きな岩石の中は、まるで迷路のように通路が作られていて、案内してもらわないとまず目的地にたどり着けないであろうことが予想される。

 これなら、まだ大樹海にポツンと1人取り残される方が安全な気がする。


「このエアーズロックは、人工世界樹のコントロールを担う設備だったと伝わっています。もともとは、単独で浮遊する施設だったようですが、その機能を利用して世界樹の上に設置してからは、そのまま動くこと無く使命を果たしてきました。今となっては、世界樹の枝に完全に固定され、仮に浮遊しようとしても難しいでしょうね」


 同じ景色が続いているので、大して見どころがあるわけでもないんだけど、カメリアさんがガイドしてくれるから飽きない。

 歴史資料館をしっかり興味を持って回っているような感じだ。

 まったく興味のない状態で行く歴史資料館ほどつまらないものはないけれど、興味さえあれば面白いんだよなぁ。

 歴史に全然興味がない状態の小学生とかを連れて行くからああいう施設に苦手意識持つ人は増えるんだろうけど、よくよく見てみると興味深い事柄が多いんだぞ?

 特に竜とかの伝承は、俺の中で重要だと思ってる。

 がけ崩れとか洪水の情報だったりするし。

 たまに、すごい大きい地震を引き起こす断層の記述がある資料が展示されていると、本当にこんな事起きるのか?

 なんて感じるけれど、実際に大地震起こると同じようなことになるんだから、歴史に学ぶってのは大事だなと思う。


 あ、「地獄」って表記があったら絶対アウトな地だからそこには住むな。


「こちらの部屋が、メインコントロールルームです」


 たどり着いた部屋は、アイやピリカがいそうな近未来的スタイリッシュメカが並んでいる……というわけではなく……。


「すげぇ……。壁にモニターじゃなくてランプがついてるだけだ……。しかも、データの出力がロール紙だ……」


 一体何十年前のシステムだ?

 いや、実際には何千年も前のやつなんだろうけど、そういうことじゃなくてだな……。


「大試、この機械の使い方わかる?」

「さっぱりわからん」

「ふふふ……案ずるな大試よ!こういうときこそ、年長者たるワシの出番じゃろ!」


 ソフィアさんがズイッと前に出てきた。

 昨日、紐に繋がれてなかったら酔ってどこまでも浮いていっていただろう姿は微塵も残っていない。

 できる女の顔をさせたら世界一なんじゃないか?

 エルフの集落では、必要に迫られてプログラミングも担当してたって話だし、もしかしたらもしかするかもしれない。


「ふむ……ふむふむ…………ふむ?」

「どうです?わかります?」

「…………」


 できる女の顔で固まってしまった。

 そりゃ入力装置の一つも無いこれの使い方なんて、すぐにわかるわけないよな。


「あの……」


 そこに、申し訳無さそうな顔でカメリアさんが声を掛ける。


「この機械、音声入力ですので……」

「……わかっておったぞ?」


 目をそらしながら言うソフィアさんがちょっとかわいい。


「このシステム自体は、既にこのエアーズロックの環境を安定させる機能しか維持できていません。そして、こちらの大きな箱が、どうやら管理用AIが保存されている装置のようなのです」


 そういってカメリアさんが示した場所には、確かに金属製の大きなコンテナのような箱があった。

 なんだろうかこれは?

 記録装置か?

 それとも、高性能なコンピューター?


 何かはわからないけれど、手形みたいな模様がついてる場所がある。

 これは、ここに手を載せろってことだろうか?

 変なトラップが発動したりしないよな?

 うーむ……まあいいか!

 最悪手が吹き飛んでも、ここには聖羅がいるし!


 俺は、手形に手をつけてみた。

 すると……。


 ガコンっ!ゴゴゴゴゴゴゴ!


 そんな重い音を立てながら、箱が開いてきた。

 やっぱりトラップだったか!?

 そうちょっとだけ後悔した俺の目に、直後飛び込んできたのは、前世の世界の70年代くらいにイメージされていたんじゃないかっていうデザインのロボットだった。

 具体的に言うと、体のパーツが全体的に四角く、口に着いているのは多分口ではなくスピーカー。

 目は、カメラなのか何なのかわからないけれど、キラッと光る黒い丸。

 そして胸には、何を表すのかもわからないゲージがある。

 最も重要なのは、手が視力検査で使われるCみたいな形の挟むタイプだってことだろうか?

 作ったやつは、この手でこいつに何をさせようとしたんだ?

 今となっては、戸棚の裏に落ちたボールペンでも拾わせる便利アイテムくらいでしか見ないぞ?


 事前にふざけて話していた通り、ロボットが出てきたことには驚いたけれど、まだこれが俺達に害成すかどうかもわからない。

 油断はできない!


 なんて思ってたら、ウインウイン言いながら歩き出し、そしてスピーカーから出た声が冒頭の物だ。


 ―――――――――――――――――――――――――――



「これ、味方なの?」

「わからないな……。ビーム撃ったりはしてこないみたいだけど……意思疎通ができるのかどうか……」

「……ですが、なんだか愛らしいですね!」

「そうか?」


 そう言われてみるとそうかもしれない……いや違うかも?


『ピッ!? ピピガ……』

「……ボス、こいつ、なんか照れてないかにゃ?」

「ファムもそう思う?俺にも、なんだか内股になってモジモジしているようにみえる」


 有栖が褒めたところでこのモーションを開始したように見えたけれど、もしかして……。


「なぁ、お前ってもしかして、俺達の言ってる事理解できてる?」

『ピッ!ピガガ!』

「マジか……」


 見た目に騙されていたけれど、これは中身はかなり高性能な気がする。

 言語を発声することはできていないが、ちゃんと俺達の会話を理解し、それに対して返事をしつつ、身振り手振りも行えてる。

 これは確かに、現代の人類の技術じゃないな。

 アイとかピリカの先輩くらいの性能じゃないかな?


 とはいえ、ピとかガで会話するのも無理だし、なんとか意思疎通できないもんかな……。

 なんて思っていると、ロボが動きを止め、そして腹にあるスリットから紙を吐き出し始めた。

 これ、プリンターなのか?

 だったらなにか情報が……。


「えーと、なになに?『好きな女性の髪型はなんですか?』だって?……あん?」


 出てきた紙には、何故か日本語でそう書かれていた。

 ポニーテールかな。


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