第231話

「森かぁ!俺行ったことねぇんだよなぁ!」

「ジャングルなら行ったことあるけど、あそこ臭いんだよね。いろんなものが腐ってて。まず水が臭い」

「普通の森は、腐敗臭はそんなにしない。青臭い匂いがする」

「なんでしたっけ〜?フォトンノヴァ?」

「フィトンチッドと言いたいのか?」


 もうすっかり夜になった服屋……というか風翼竜クレーンさんちの周辺。

 未だに酔いつぶれて寝ているドラゴンさんたちの真ん中で、円陣となって酒をかっ喰らっているこの地のトップ10人と俺達。

 俺達は、話し相手兼給仕係だけども。


 それにしても、いきなり環境が変わってもドラゴン的には大丈夫なんだろうか?

 移住はまだ数年先を予定しているけれど、転移用の魔道具は一回こっきりしかつかえないと予想されていて、事前に皆で試してみるということも難しい。

 開拓村付近とこのエアーズロックは、直線距離だけでも相当離れているはずだ。

 だから、気温とか天候とか……。


「あれ?そういえば、このエアーズロックの上って暑かったり寒かったりってないですね?俺達でも過ごしやすいです。下は岩石砂漠って感じだったのに」

「かなり高い位置にございますので。だからこそ我々も、この地に住み続けてこれたのです。本来は少し紫外線が強いのですが、この人工世界樹は仮にもテラフォーミング用に作られた設備だったので、今でも周囲は暮らしやすい環境が維持されているのです。といっても、世界樹自体は既に生命活動を停止しているので、設備の運用は我々ドラゴンが自前で行っているのですが……」


 へぇ……。

 古代の技術が今も部分的に生きてるのか。

 この世界樹が現役だった頃は、どれだけの能力が持ってたんだか。

 仮にも世界なんて名前を冠しているんだから、それはすごかったんだろう。

 そして、一度枯れてしまったら砂漠化が止まらんと。

 高性能なシステムであればあるほど、それが壊れちゃうと影響がでかいなぁ。


「運用ってことは、機械が動いてるんですか?他の古代のシステムは管理用AIが生き残ってたんですけど、ここのはどうなんです?」

「AI……人工知能のことですね?一応あるようなのですが、アレは純粋な人間種にしか扱えない設定となっているようで、仕方なく我々は管理システムを切り離して運用しております。元のシステム自体も残っていますし、一応定期的にエネルギーも供給しているので、記憶装置さえ劣化していなければデータも残っているのではないかと」


 カメリアさんの知識はすごいなぁ。

 聞いたことはだいたい答えてくれる。

 今何歳なのかわからないけれど、少なくともその綺麗な見た目からはわからないくらいの長期間この世界を見てきたんだろう。


 ところで、話していると段々距離が近くなっていないか?

 ってか、手が俺の膝に乗った。

 えっと……?


「お母様!流石に身重の状態で男に手を出すのはどうかと!」

「……は!?いつの間にか手が勝手に……!」


 無意識の行動だと!?

 なかなか怖いじゃねぇか……!

 婚約者が居なかったら落とされてるところだぜ……!


「カメリアさんは妊娠してらっしゃるんですか?その、お腹の子の父親って……」

「いえ、この子は私が単為生殖で孕んだ子です。そろそろルージュに妹でも作ってあげようかと思いまして……」

「そんな理由で妊娠したのですか!?別に無理に妹などいりませんよ!」

「いえ、妹に四苦八苦しながらデレデレしているルージュを私が見たかっただけです。貴方もそろそろ赤ちゃんの良さを理解するべきですよ?」


 そう言ってカメリアさんは、ルージュの後に俺を見る

 それなんのメッセージ?


「気を付けて大試、ドラゴンは強敵」

「そりゃドラゴンは強いだろ」

「そうじゃない。肉食系っていうやつ」

「草食もいるんじゃないか?」

「余は食べないが、岩石食の者もいるな。まあその者は、人間の姿になっていれば普通の食事も食べられるが」

「……」


 聖羅に尻をつねられた。

 後ろの有栖も指でズビズビ突っついてくる。

 聖剣パワーで強いから痛い。


「カメリアさん、明日にでもその装置の場所に連れて行ってもらえませんか?少しだけ確認させていただきたいので」

「構いませんよ。我々としても、移住するのであれば必要の無くなるものですし、もともと人間しか主と認めないシステムなのであれば、貴方達が来てくれれば、そのAIとやらも嬉しいでしょう」


 アイやピリカのように、ここにもまだ見ぬおもしろAIがいるかもしれないんだ。

 これは確認してやらないとな。

 ……そういや、アイもピリカもこっち来てから全く連絡ないけど、あっちでどうしてるかな?

 ピリカなんて、体が完成してないからってしばらく声も聞いてないわ。

 リンゼが様子見てくれてるはずだけど、数日で屋敷を建てるオーパーツ相手にどこまでブレーキ役をできるかは未知数だ。

 少し帰るのが怖くなっちゃったぜ!


「ここのはどんなAIなのかな」

「ピーガガガッてしゃべるやつ」

「それロボじゃん」

「大砲の弾道計算が得意な……」

「エニアックかな?」

「ニャーは掃除してくれる奴が良いにゃ」

「あ!ウチもそれほしい!エサあげるみたいにゴミおいていくの!」

「酒を無限に注いでくれる奴がいいのう!」

「やっぱロボじゃん」


 ロボならロボで俺も喜ぶぞ?


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