第230話
「初めまして!犀果大試と申します!本日は、皆さんにお願いがあってやってきました!」
「目線こっちお願いします!」
「ちょっと!こっちが先よ!」
「あのあのっ!裾が広がるようにくるっと回ってもらっていいですかっ!」
「あ!小道具持ってもらってもいい!?その刀を……そう!刃を舐めるように!ちゃんと消毒してあるから!」
さっきからフラッシュが目に痛い。
ドラゴンって、一眼レフカメラ普通に持ってんだ?
疑問に思って隣にいたルージュに聞いてみたら、あれもドラゴンの魔道具造りが趣味の奴らが部品から手作りした奴らしい。
もう意味が分からない。
マザーマシンとかそんな物、ドラゴンの年季の前には必要が無い様子。
動力はドラゴンの方々自身の魔力だから使い放題。
ただし、写真に現像する場合は、自分たちで栽培している藻の類から作っているフィルムが必要だとかで、そこそこ手間が掛かるそうなので、基本はモニターに表示して満足しているらしい。
使うのがプリンターとかではなく、念写のような感じなのがファンタジー感あるけど。
おいそこ!下から覗き込むように撮影するな!それって女性コスプレイヤー相手にやるやつだろ!?
あと話聞け!聞いてよ!
「……ダメですね。普段であれば皆思慮深く、気品もある対応ができるのですが、数百年ぶりに訪れた男性に理性が働いていないようです……」
「余は恥ずかしい!ドラゴンがこんなザマで、余は大試に人間がどうこうと文句を言いながら襲い掛かっていたのか!?」
「いや……まあ、喜んでくれているみたいだし、俺もそこまで悪い気はしてないから気にしないでくれ。何より聖羅たちが楽しんでるし」
俺には、中々理解できない事なんだけど、何故か皆他の人の服を選ぶの好きなんだよなぁ。
聞きなれない単語がポンポン出てきて、続けていると頭の中に宇宙が広がったような顔になっちゃうよ。
「大試は無理やりじゃないと新しい服を着てくれないから、こういう機会は貴重」
「そうですね!……あ、次はこのサムライ装備なんてどうでしょう!?」
「えー!?ウチ、ニンジャ装備が良いと思う!」
「武家屋敷だからって和風にこだわる必要もないと思うニャ。ここは一つメイド服を着せて日ごろのうっ憤を晴らしたいにゃ」
「それは流石に可哀想じゃろ。ここは一つ、ワシがメイド服を着ているのを見せて鼻の下を伸ばす大試を
じゃな……」
「あの~、どうして着るだけで痛くなれる服を作ってくれないんですか~?見ていて痛い服ではなく……」
「余思うのだが、それは服ではないのではないか?」
「はい、整理券はこちらで配っていますよ!並ばない者には配りません!1人1分です!」
おかしい。
頼れるはずの仲間たちも、群衆と一緒にやりたい放題に見える。
このままだと、話は一向に進まない。
あ、聖羅が十二単に挑戦している!これはスマホで撮影しないと!
っと、危ない……!
俺までこの空気に呑まれるところだった!
これはまずい!何とかしないと!
「聖羅!ここはアレを使うぞ!」
「お内裏様衣装?」
「え?あ、そういうんじゃない。例のアレだ。一回ドラゴン達を大人しくさせないと……」
「わかった」
1時間後、そこには、へべれけになっているドラゴンガールたちがいた。
カメリアさん曰く、このエアーズロックには、400人ほどのドラゴンが住んでいるらしい。
そんな人数でコミュニティーを維持していけるのか?とも思ったけれど、ドラゴンは寿命が超長いから問題ないそうだ。
魔物相手の戦闘もここではあまり発生しないし、仮に発生した所でドラゴンはこの魔族の領域でもトップクラスの戦闘力を持っているから死者は早々出ない。
マジギレ同士のマジ喧嘩がたまに発生して、大怪我を負う者も出るには出るけど、次の日には傷跡すら残らず完治しているから、やっぱりドラゴン人口は減らない。
そうやって、この地でずっと生き残って来たそうだ。
しかも、この食料が限られた地で生きていくために、簡単ではあるけれど農業も行ってきたらしい。
と言っても、そこまで難しいものは作れないし、加工品となると更に難易度が高く、大抵はそのまま切ったり茹でたりして食べるだけの食生活。
そんな彼女たちに、聖羅謹製アレを飲ませたらどうなるか?
そのおいしさにガバガバ飲んでこうなる!
「ドラゴンでも、一部のトップ層以外は、ドラゴンころしで良い潰せるみたい」
「それだって、各自ドラム缶くらいの量飲んでるけどな……」
「あの……あちらで酒盛りを続けている方々の飲酒量が色々おかしいのですが……」
「あそこにいるのは、お母様たちこのエアーズロックの頂点の皆様だ。全員が1000歳を超えているそうだが、余も詳しい事は知らない。聞くと怒る。あと、どうして大試は2人に増えている?」
「増えてないぞ」
ちょっと落ち着かせて話を聞いてもらおうと思って酒を振舞ってみたけれど、酒を飲んだ瞬間からドラゴン達の目の色がかわり、気が付けばこんな死屍累々の様相を呈している。
このまま放っておいても風邪を引いたりするわけではないらしいので、そのまま地面に転がしておく。
足元がおぼつかないルージュを背負って、未だにガバガバ酒を飲んでいる集団へと近寄る。
そこには、カメリアさんと、先ほど服を作っていた女性、そして、8人の知らない女性がいた。
ついでに言うと、その頭上にはどっかのエルフが紐に繋がれて浮いていたりするけれど、今は気にしないことにした。
「お!来たな人間の男!決闘しようぜ!」
「こら!そうやってすぐに孕もうとしちゃダメってさっき話し合ったでしょう!」
「でも、折角のチャンスというのも理解できる」
「そうよねぇ……。それに、私たちに魅力を感じていないというわけでもないみたいだし……」
「でも、初めての相手は決めているそうよ?若いわよねー」
「若さに任せてケモノになってくれてもいいんだぞ?」
「過去一話が進まねぇ」
なんだろう?ドラゴンって、基本的に人の話聞かないよな?
ルージュも話聞かないで襲い掛かって来たし。
この雰囲気、開拓村の人たちに近いかもしれない……。
「申し訳ありません大試さん、さぁ!皆、彼の話を聞いてあげて!」
「カメリアがそう言うなら、そうしてやっか」
「この中で一番人間の男を好きな奴が我慢してるんだからな」
「歳の差考えなよ」
「私たちが言えた話じゃないわね~」
……よし!冷静になれ!美女たちにセクハラされてもクールにいくぞ!
「それで、今回俺たちがここに来た目的なんですけど……」
そこからは、ルージュやカメリアさんに説明したことを再度伝えた。
ついでに、ドラゴンころし以外のお酒や、育てた家畜で作ったソーセージなんかを新たに出して、興味を持たせてみる。
どうやら、皆さんかなり好意的な反応をしてくれているようだ。
「ってことはよ、オレ達は全員で引っ越すのか?」
「いいわね~それ!」
「ベーコン……ベーコン美味しい……カリカリの所が……ああああ!」
「芋って揚げるとこうなるのか。罪の味がする」
「あの酒を自分たちで作れるようになったら嬉しいぞ!」
……好意的どころか、もうすでに魔族たちへ協力するどころか、開拓村周辺に引っ越す所まで乗り気だ。
「ねぇ、大試君」
「あ、服作ってくれたドラゴンさん!どうしました?」
「……そういえば、名乗ってなかったわ。風翼竜クレーンっていうの」
そう言って、黒髪超ロング地雷系ファッションの一歩間違えばホラーな見た目のドラゴンお姉さんが挨拶してくれた。
冷静に考えると、ここにいるドラゴン達で名乗ってくれたの、3人だけだな……。
「私は今、服の生地を作るのに自分の羽毛を使っているんだけれど、大試君の言う地域って繊維になりそうなもの豊富にあるの?」
マジで!?あの服って、全部ドラゴン素材なの!?
王都で売ったらいくらになるんだ……?
国宝級なのでは……?
「ありますね。木の皮とか草の繊維を使う生地は昔からあったはずですし、革製品ならそれこそ色々ありますよ?変わった所だと、鮭革なんてのも見たな」
「カメリアさん!私、移住します!」
地雷系ドラゴンファッションメーカー、とかち店開店の計画が決まった。
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