第229話

「くっ……!俺の、完敗だ……!」

「っしゃ!男の生マネキンゲット!」


 エアーズロックでの初めての決闘。

 それは、敗北によって幕を閉じた。


「すごい……!私たちから見てカッコいいという評価はもちろんだけれど、大試の心が疼くようなチョイスを完璧に見抜いている……!まるで、熟練の服職人みたい!」

「うふふふ……!伊達に趣味で服を作り続けて数百年経ってない……!」


 確かに、そう言うだけの凄味があった。

 彼女が俺のために作った服は、それぞれは比較的シンプルなデザインなのに、それを組み合わせると、ある特定のテーマが完成するんだ。

 具体的に言うと、厨二的なマインドがくすぐられるファッション。

 厨二っぽさがあるのに、それを前面に出さずオシャレなように感じさせてくる厭らしさのないデザインといえばいいか……。


 シンプルなジーンズに、シンプルなシャツ、何故か革製の拳銃用ホルスター(拳銃は流石に作れないらしく装備されていない)、そして、ダークグレーのコート!

 これらを全て着て、複数人で一つの場所に集まり、それぞれ全然違う方向を見ながら写真に納まれば、それだけでポスターになるというある意味お約束の服装!


 必要なのは、派手さではないんだ。

 確かに、ミスリル製のフルプレートメイルとかも嫌いじゃないよ?

 でも、実際に自分で着たいかというと、答えはNOでしかない。

 もっと身軽で、それでいて機能性の高い服が良い。

 そう言う意味では、今俺が来ているこれらは、理想的ともいえる。

 特に、まだまだ砂漠の多いこの魔族の領域では、あまり肌を露出するのは好ましくない。

 だから、こういうコートを着るのは悪くない選択だ。

 もっとも、色は白いほうが、光を吸収しにくくていいのかもしれないけれど、彼女によると「マグマの中を泳いでも平気な断熱性能だから」とのことなので、そこら辺も期待できる。


 そして、個人的に一番評価が高いのが、この指ぬきグローブ!

 これ、よく馬鹿にされるんだよなぁ。

 なんで指無いんだよ!手袋したいのかしたくないのかどっちだよ!ってな具合に。

 でも違うんだよ!これさ、グリップ力も維持しつつ指先で繊細な作業もできるようになっているだけなんだよ。

 確かにカッコつけのためにこれを着用していた人もいたんだろう。

 でも!この指ぬきグローブは、とても機能性に富んだ装備なんだ!

 実感したい人は、スポーツタイプの自転車とか、手で道具を持つスポーツで利用してみてくれ!

 そこそこお値段のする奴を買ってみると効果のほどが実感できるぞ!


「じゃあ、早速色々な服着てもらってもいい!?いいよね!?」

「……いいですけど、お手柔らかにお願いしますよ?あと、18禁になるような服は禁止でお願いします」

「R-18Gは?」

「何させるつもりなんですか?ダメですよ?」


 そんなこんなで、どんどんと服を着せ替えられていく。

 アルマジロみたいになる服や、岩石ゴーレムみたいになる服。

 これ、絶対に蟹かなんかの怪人だろ?って服もあれば、普通にカッコいい服もある。

 途中からは、何故かこっちのメンバーまで服を選ぶのを手伝っていて、いつの間にか自分たちまで服を作ってもらいながら、早速着てランウェイを歩いている。


 更に不思議な事に、いつの間にかギャラリーがすごい集まっている。

 えっと……もしかしてこの方々は……?


「あら、貴方も来たの?」

「ええ!男の匂いがしたもの!」

「この不思議な匂いって、男のだったのね!?」

「あ、すごい鎖骨……!」

「そっか……男の子って、乳首出してもいいんだ……」

「全裸に剥いちゃダメなのか?」

「「「「ダメよ!!!」」」」


 刻一刻と増えていくドラゴン達。

 しかも、人間の姿になっているのに、その強さというか、圧迫感のようなものが伝わってきて、ただ者ではないのがわかってしまう。

 こんなやつらに、正面から戦いは挑みたくないなぁ……。


「ドラゴン達って、人間の姿で生活しているんだな?」

「ドラゴンの姿は、相手を怯ませたり戦う時には便利なのだが、普段生活する時には大きすぎる。しかも、手の指も使いにくくなるそうだ。人間という形態は、自分たちで思っている以上に、普段の生活には便利なものなのだ。余は、そもそもドラゴン体になれんが、それでも余を皆が蔑まないのは、人間の姿の方が一般的なこのドラゴンの生態によるものなのかもしれないな。もしかしたら、元となった本物の純粋なドラゴンという幻獣も実在するのかもしれないが、余は見たことは無い」


 ファッションショーに参加せず、ポーっと眺めているだけだったルージュに解説される。

 まあ、動物園の飼育員さんも、明らかに動物たちの方が高性能な体していたとしても、痒い所を手で掻いてやるだけで動物たちからヒーロー扱いされてるからな……。


「ルージュは、何か着てみたい服ってないのか?」

「……ある。白くてフワフワでだな……大抵は一生に一度しか着る機会が無くて……」

「大試、それは私も着たい」


 いきなり入ってくる聖羅。

 もしかして、それってウェディ


「学園卒業して、平和に暮らせる世界に出来たら、着せてね?」

「……そうだな」


 恥ずかしいけれど、まあ準備はしておかないとな。

 なんなら、ここで作ってもらうか?

 素材に何を使っているのかわからないけれど、明らかに性能がすごいし……。

 その手の服に性能を求める必要はないかもだけど。


「……なんだか、余は大試たちが羨ましいな」

「そうなのか?」

「ああ。余もいずれ……」


 ルージュ的にも、やっぱり憧れる物らしい。

 目鼻立ちもくっきりしているから、似合いそうだしな。


「大試さん、いつの間にかこの地のドラゴンがほぼ全員この場に揃ったので、折角ですし例のお話をされてはどうでしょう?」

「え?……うお!?」


 気がつけば、群衆の中、俺はファッションショーをしていた。



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