第228話
京都の貴族たちが暮らす住宅として作られた寝殿造りと呼ばれる建物と比べ、武家屋敷、または武家造りと呼ばれる建物の特徴は、防衛設備があることだと思う。
堀や塀、そしてその間から弓で相手をねらい撃てるように作られた窓や、まっすぐに敵を進ませないためにわざと複雑化した通路。
そう言った戦闘に対応できる形になっているのが武家屋敷だ。
寝殿造りの建物に住んでた人たちも、割と血なまぐさい戦いしてたりするから、別に武家屋敷じゃないと戦えないってわけでもないんだろうけれど、やっぱり雰囲気は違う気がする。
そして、西洋風のドラゴンが住む建物としては、ものすごく違和感がある建造物だ。
「えぇ……?なんでだ……?どうしてこんな感じの建物ばっかりなんだ……?」
「魔族の領域に追いやられた最初の世代が、もし他種族が攻めてきたときのために色々趣向を凝らした結果だと聞いております。最初は自分たちでダンジョンを作ろうとしていたそうですが、タンジョンコアを作ろうとして失敗し、大爆発を起こして、その余波でこのエアーズロックが舞い上がって世界樹に引っかかったとのだとか。なので諦めて、この形態に落ち着いたと伝わっておりますね」
「失敗のスケールでけぇな……」
よく考えたら、ドラゴンを作ったのって、この世界の日本人の祖先ってことになるのか?
じゃあ、ドラゴンたちも日本人の遺伝子を引き継いでいるのかも知れないし、純和風なこの街並みもおかしくはない……のか?
「その割に、ルージュやカメリアさんの服装は西洋風なんだな?」
「余達の服か?これは、ドラゴン族で今流行っている大人気のファッションというだけだぞ?数年前は、皆ポンチョだったし、更にその前となると皆セーラー服だった」
「私の発案で、10年ほどバニーガール衣装が正装となっていたこともありましたよ」
「バニーが何なのか余にはわからないのだが、他の社会では人気の服なのだろう?」
カメリアさんって、やっぱりちょっとヤバい人なのではないだろうか?
人間の姿になっていると、超美人だけどどこか影のある未亡人って感じだけれど、やらかしている事が割とすごい。
ただ、多分カメリアさんもルージュも、バニーガール衣装はとても似合うであろうことは考えるまでもない。
恐ろしいなドラゴン……。
ドラゴンらしい恐ろしさはあまりないけど……。
「大試、私もここで服1着作ってもらいたい」
「あの!私もお願いできませんか!?」
「聖女と王女様御用達ってなれば、すごい自慢できそうだな」
「魔王の娘はどうかな!?」
「ニャーはいらないにゃ。その代わり帰ったらジャージ買ってほしいにゃ。メイド服飽きたニャー」
「ワシは、服にこだわり無いからのう……。何着ても、ワシがワシであると言うだけで一流ファッションになるこのエルフ美が恐ろしいのう!」
「麻縄服ってありますか〜?」
女性陣のファッションに対する食いつきがすごい。
確かにシルクを超えているのではないだろうかというほどにツヤツヤで高級感のある生地だから、ファッションが好きな人には魅力的なんだろう。
化学繊維とはまた違った光沢が美しい。
「それでは、ドラゴンの代表者たちを集めて大試さんたちを紹介する前に、私たちが贔屓している服屋へ行ってみませんか?オーダーメイドですが、最短10分で作ってくれますよ」
「趣味で作っているらしく、報酬も払わなくていいと言ってくる変わった方だ。その代わり、作られた衣装を着ないのだけは許さない恐ろしい一面もある。注文するなら、ある程度の覚悟はしておくんだな」
仮にブーメランパンツをお出しされたとしても、一度は着て見せないとダメなのか……。
まあ、俺は別に服を作ってもらおうと思っているわけでもないし構わないけれど。
「じゃあ、最初に行くのは服屋でいいか?」
女性陣から歓声が上がった。
「ここがその服屋です」
「服屋っていうからどんな場所かと思ってたら、なんかすごい広い武家屋敷ですね……」
「そうですね。このエアーズロックでも上位10体に入るドラゴンの住居ですから」
「え?帰っても良い?」
「もう既にこの距離であれば存在がバレてしまっていると思われるので、今から帰っても無駄だと思いますよ?」
ドラゴンの女の人達って、俺に決闘を挑んできて、しかも俺が負けたら搾り取ってくるんでしょう?
なのに、その上位10体って、どんなバケモンなんだ?
いきなりそんな強者出すのやめてくんない?
「とにかく、まずは彼女に会ってみないと……あら?噂をすれば、本人がわざわざ出迎えてくれたようです」
カメリアさんに言われて、そのでかい武家屋敷の玄関へと視線を向ける。
するとそこには、前世で言うところの地雷系ファッションに身を包んだ女性が立っていた。
しかも、じっとこっちを見てくる。
服装は、地雷系らしくファンシーな感じだけれど、その黒くて艷やかな髪は腰よりも長く、顔はすごい美人なのに、ホラーの雰囲気を醸し出すそのドラゴンは、俺の目をビタッと見つめて憚らない。
「……えーと、初めまして。犀果ともうし」
「決闘しましょう。ルールは、私が貴方の満足する服を作れるかどうか。もし私が貴方の満足する服を作れたら、1時間服のモデルをしてほしい」
「圧がすごい!」
俺の挨拶を押しのけて、彼女は顔を10cmの距離まで近づけてそう提案してきた。
搾り取るのが条件じゃないならまだいいけど、断ってもいいなら断りたいな……。
って思った時には、隣りにいたはずの聖羅が、ずいっと前に出て答えていた。
「わかった、受けて立つ。貴方が考える一番大試に似合う服を作って見せて」
「任せて」
何故か聖羅と地雷系ドラゴンが握手した。
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