第153話

「え?理乃ったら大試にそんな事してたの?」


「ふふ……お恥ずかしながら、大試君から先輩の存在を感じる度に興奮してしまって……」


「もう少し年齢が近ければ、私も賛成なんだけどねぇ……。アンタって頭おかしいけど、美人で経済力もあるし、案外一回ボコればいくらでも言うこと聞くマゾだし?」


「そんな事ありませんってー。私って先輩以外からは、極度のサディストだと思われてたんですよ?先輩にボコられてからは、チョーシこいてた自分が恥ずかしくなって、それがなんだか気持ちよくなっちゃって、もう先輩ナシじゃいられなくなっちゃっただけっていうのかなぁ……」


「マゾじゃない。大試、年上がいいならこの娘はオススメよ。ただ、多分恋愛経験はゼロだから、そこら辺は覚悟しておきなさいね?」


「流石先輩!私のことをわかってくれてるんですねぇ!」




 何いってんだこのおば……お姉さんたちは。


 こちとらすでに5人も婚約者いるんだぞ?


 コレ以上増やしたら、周りから何言われるかわかったもんじゃ……。




 あれ?


 そういや、俺って母さんに婚約したって話したっけ?


 王都から開拓村への連絡手段がわかんないし、時間がなかったから何もしてなかった気がする……。


 でも、聖羅と俺の婚約に関しては、母さん自身で既にGOサイン出してたんだったっけか?


 うーん……だとしても5人とだからなぁ……。


 この世界の常識だとどうなんだろうなぁ……。


 貴族なら絶対に駄目ってほどではないと思うんだけど、母さんの中の倫理観だとどうなのかはわからん。


 酔ってるときならオールOKだろうが。




 母さんって、よく考えたら貴族出身なんだろうか?


 魔力が高い人間は貴族に多いって話だけど、貴族じゃないと魔力が多くない訳でもないみたいだし。


 貴族らしさは感じないけど……。




 まあいい!なるようになれだ!




「母さん、ちょっと話があるんだけどさ」


「何?理乃と結婚する気になった?じゃあさっさとモノにしちゃいなさい」


「いやそうじゃなくて……。実はさ、俺こっちに来てから婚約してさ」


「もしかして聖羅ちゃんの話?あの娘ホント健気よねー。でもそっかそっかー!とうとう大試も受け入れてあげることにしたのね。これでうちの村も将来安泰ね!」


「あー……うん、それはたしかにそうなんだけどさ……」




 聖羅とは確かに婚約した。


 本当になんでこんな綺麗な女の子が俺なんかにって今でも思うけど、それはそれとして婚約しました。


 でもな、それだけじゃないんよ……。




「昔さ、俺が5歳くらいの頃に、王女様と貴族のお嬢様来たの覚えてる?」


「有栖ちゃんとリンゼちゃんでしょ?有栖ちゃんとはそこまで話してないけど、リンゼちゃんとは月1でスマホで連絡取り合ってるわよ?飛行魔術もリンゼちゃんに教えてもらったんだし」




 あー、そういやさっきそんなこと言ってたな。


 ……あれ?




「母さんってスマホ持ってるの?」


「そりゃ持ってるわよー。じゃないと万が一のとき王都と連絡取り合えないでしょ?」


「……俺、王都来るまで、人間の文明がこんなに進んでるって思ってなかったんだけど……?スマホどころか、電子機器すら開拓村にはなかったような気が……」


「良い大試?『ある』って事を知らないほうが幸福なこともあるの」




 ブータン王国みたいな政策してたんだな開拓村……。




 まあ実際、そう言うのが無いおかげで俺は、「すげー!ファンタジーの世界だー!」と他の子とは違う喜び方してたわけだが……。




「いや、それはまあ今は置いておいて……。それで、その時来た2人とも……」


「婚約したんでしょ?知ってるわよ!その後もう2人追加でしたのもね!うちの子やるわねー!って村の皆で話してたの!」


「えぇ……?誰から聞いたんだよ……?」


「だからリンゼちゃんよ?お義母様って呼ばれた時は何事かと思ったけれど、とても気持ちが良かったわ!」


「あ……あーそう……全部知ってたんだ……ならいいんだけど……」




 俺の緊張と決意を返してほしい……。


 いや、報告してなかった俺がもちろん全部悪いんだけども。




「でもね大試、女の子を自分の物にするって事は、自分も相手の物になるって事なのよ?ちゃんと幸せにしないとダメよ?父さんなんて、私より弱いものだから、私に告白して結婚して幸せにするために強くなる!って叫んでたらいつの間にか剣聖になってたらしいわ」


「へぇ……親のそう言うの聞かされるのちょっとアレだけど……うん、頑張るよ。俺も聖羅に気持ち伝えた時、ちゃんと覚悟したからさ」


「ならいいわ!まあ何がっても、母さんは大試の味方だからね!例え世界中が敵に回ったってこうして抱きしめてあげるから♡」




 そう言って、またそのデカい胸に顔面を押し付けられる。


 疲れたので、もうどうにでもなれとそのままされるがままになる俺。




 ただ、そのままほっとけば満足するかなという俺の期待を撃ち砕くように一石が投じられる。




「お母様、アイは51人いるのですが、仮に大試様と婚約したとしてお母様はどう思われるでしょうか?」


「51人……?え?アイちゃんどういうこと?まさか大試がアイちゃんたちメイド全員に手を出しているの!?」


「いえそれがまったく。何度も誘惑したり、食事に精のつくものを選んだりしているのですが、未だに51人とも清いままです」


「じゃあ駄目よ!ちゃんと全員大試に手を出されてからにしなさい!そうした方が妊娠してから有利になれるわ!」


「いえ、50人は妊娠機能が……いや、今から追加で着けることも可能でしょうか……?」




 おいやめろ。


 アンタら2人は本気なのか冗談なのかわからない上に本気だった場合の被害が半端ないんだよ。




「先輩!私は!?私はどうなんですか!?」


「いやそれ聞く相手間違ってるでしょ……。大試に聞きなさい。でもいいの?大試と一緒になったら、将来は田舎暮らしよ?理乃そういうの苦手だったじゃない。だから置いてったのに」


「先輩と離れるくらいなら田舎でも行きましたよ!それにもうお金は稼ぐだけ稼いだので田舎でスローライフでも全然大丈夫です!好きな事を話してすぐに離れて行かなかったので大試君は理想の相手なんですよ!」


「……理乃、アンタは一回落ち着いてもっといい男とコミュニケーション取るべきだと思うわ」




 俺もそう思う。


 もうちょっと人間との交流を大事にしろ。


 若輩の俺からすらちょっと不安になるくらいの対人能力だったぞ?




「因みにじゃが、ワシは大試と契約しとるから、もう一生大試の傍から離れられんのじゃ。つまり大試の最も傍に居続けなければいけない訳じゃ。すまんな」


「でもソフィアさんも大試の事好きなんでしょう?だったらもういっそのこと結婚しちゃえばいいのに」


「……いや、そのじゃな……結婚は将来的にはしたいと思っとるんじゃが、やっぱりアレじゃろ?恋人の間にしかできんこともあるじゃろ……?ワシ……そういうのに憧れがあってじゃな……そもそもまだ恋人でもないんじゃが……」


「あらーいいわね!私も旦那ともう少し夫婦じゃなくて恋人としてラブラブしてればよかったかもって最近思うもの!結婚直前までとにかく戦ってばかりだったわ……。毎回私が旦那を消し炭一歩手前にして終わってたけど」




 なぁこれ俺が聞いてても良い事なの?


 聞こえなかった振りするけどさ。




 とりあえず、プライベートで話すことはこの辺りでいいか……。


 これ以上このノリで話していると、ろくなことにならない気がするし……。




「母さんはこの後どうするんだ?俺達は今仕事中っていうか、合宿中だから、あんまり相手できないよ?」


「そう言えばさっきそんな事言ってたわね?面白そうだし、母さんも手伝ってあげようか?」


「手伝うって……母さんが手伝ったらマッスル部員たちが消し炭かひき肉じゃないか」


「そんなの敵と父さん相手の時だけよ?ちゃんと理乃には手加減したし、傷だって残さないように治してあげたわ」


「はい!先輩が飛ばしてくる麻痺とロッドでの攻撃は、今でも私の中に残るくらい甘美でした!」


「この娘、本当にもう少し頭が残念じゃなければいくらでもモテてたでしょうにね……」




 仙崎さんの事はスルーするよもう。


 母さんがいる間はまともに会話できる気がしない。




「まあ、手伝ってくれるなら手伝ってもらおうかな。こうこうこういう訓練をしようと思ってたんだけど、できる?」


「…………へぇ?面白そうじゃない!なかなか性格が悪くて実戦的ね!」




 褒めてるんだよな?






 ―――――――――――――――――――――






「全員聞いてください!昨日の夜は、魔物除けを使って睡眠をとっていましたが、今夜は魔物除けの使用を禁止し、交代で見張りをしながらの野営訓練を行います!」




 夕食を食べて、流石に緩んできていたマッスル部員たちをひっぱたくように、今夜の訓練内容を伝える。


 魔物の領域で常にぬくぬくと寝てられると思われたら、折角の訓練がもったいないもんな!




「犀果!!!!!そんな事をして危険は無いのか!!!!???」




 部長が思わずと言った感じで聞いてくるけど、もちろん危険だよ?




「危険だからこそやるんです!折角ここまで来て実戦的な訓練を行えるチャンスなんですから、魔物除けが使えない、もしくは切らしてしまった時の訓練くらいするべきでしょう。それに、丁度いい助っ人も用意できたので」




 俺はそう言って、隣にいる人を手で示す。


 マッスル部員たちは、この美女が何者なのか相当気になっていたようだ。


 だよね?


 そらから降って来たもんね?




「えー……日本における魔術師の現頂点、『賢者』の称号を持っている犀果留美さんです!」


「はじめましてー!大試のお母さんでーす!」


「……………………………………………………えーと、賢者さんには、適度に護衛役を引っ掻き回してもらう仮想敵役を担ってもらいます。本物の魔物と一緒に攻撃してくるので、気を引き締めて行動するように!」




 マッスル部員たちが、何とも言えない顔をしていたのが印象に残った。








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