第154話
「じゃあ、ルール説明をしまーす!」
ん?ルール説明?
今俺たちは、折角の野外合宿なので、実際に野宿することになった場合を想定した訓練をしようとしていたわけだ。
だからルールなんてものは、キャンプから離れないようにしましょうって事と、ケガしないように注意しましょうねって事くらいなんだけど、母さんが勝手に何かを決めてしまったようだ。
確かに、常に彼らの緊張状態を維持させるように断続的に襲って嫌がらせをするつもりとは言っておいたけど……。
「まず、私が朝まで断続的にこのキャンプを襲うから、皆はそれを撃退してね?一回でも私の魔術障壁を破壊して私に攻撃を直撃させたら、その時点で皆の勝ち!それが出来なくても、朝まで頑張れば合格!どう?簡単でしょう?」
何を言い出すのかとビビったけど、ルールは簡単ですね。
相手が母さんじゃなければね。
「それと、今回はうちの息子も仲間に入れてあげてね?」
「は?」
「自分から仲間に入れてって言える子じゃないから、口では言わないけど寂しかったと思うのよね!」
終わりだ……。
もう学園行きたくない……。
「というわけで、大試も今回は参加ね!ちゃんと母さんと戦いなさい!」
「もう良いよ何でも……」
まあ、母さんが来た時点で、この合宿中に何かしらの無茶ブリはしてくるだろうと覚悟はしていた。
特に俺と戦いたいというんじゃないかなとは思ってたわ……。
「母さん、くれぐれも死人は出さないようにしてよ?それと、あくまでこれは訓練だからね?気構えこそ多少はできたんじゃないかと思ってるけど、基本的には野戦素人の集団だからね?」
「大丈夫!母さんを信じなさい!ちゃんと首から上が残ってれば治してあげるわ!」
どう信じろと?
普通にこえーよ……。
開拓村での喧嘩を基準に戦わないでくれ……。
「開始は、今から1時間後!それまで私はちょっと近くに用事があるから留守にするわね!」
「あれ?どっかいくの?」
「将来の娘に会いに行くのよ!そこら辺にいるんでしょ?」
「あー……わかった。じゃあ襲撃が始まるまで、こっちは作戦会議と人員配置しとくよ」
そして、母さんは聖羅の待機場所の方角に文字通り飛んで行った。
聖羅の場所なんて教えてないんだけど、当然のように把握しているらしい。
こっわ……。
さて、残された時間を無駄にするわけにはいかない。
相手は、あの理不尽の権化だ。
特に、今日はテンション高くてやり過ぎそうな気配もある。
準備は完璧に行わないといけない。
「全員集合!」
あっけに取られていたマッスル部員たちを集める。
こんな事で驚いていたら、この後のあの人の訳の分からない攻撃ですぐ全滅するぞ?
「時間が無いので、とりあえず俺が配置を決めますね!今日の日中行った訓練の4中隊で継続しましょう!1中隊2時間ずつキャンプ地を全周防御!囲むように守ってください!他の3中隊の方々は、自分の担当時間以外は睡眠を取ることを忘れずに!これはあくまで、魔物の領域の中での野営の訓練です!ちゃんと寝ることまで含めての訓練だということを頭においておいてください!」
「「「「はい!!!!!」」」」
「訓練が開始したら、指揮官は轟打部長となります!俺は、班に入らずに遊撃するので、指示出しは基本的にできません!轟打部長、自分が席を外す間に指示を出す副官を決めておいてくださいね!」
「心得た!!!!!!」
そう、これは別にボスの襲撃イベントだとか、籠城作戦とかではないんだ。
あくまで、明日の朝まで無地皆で生き残り、元気に最後の日の訓練をしようっていうだけのやつ。
それは母さんも把握しているはずだから、楽しくなっちゃってやり過ぎさえしなければそこそこ安全なはず……不安だけど……。
いずれにせよ、メインは休息しつつ生き残ることだから、担当の時間以外は寝ててもらう。
きっと不安だろうけど、それでも寝なくちゃいけないというのも訓練だ。
特に指揮官は、最低でも6時間位は睡眠を取ってもらいたい。
寝ないで仕事をするのが美徳のように日本では思われがちだけど、睡眠が不足するとミスが多くなる。
そして、こういう場でのミスの重なりは、死という結果に直結する。
だから、指揮官だろうと、しっかり寝ないといけないんだ。
まあ、多分寝れないやつのほうが多いだろうから、極度の緊張状態の連続で、更に寝れない場合の辛さを味わってもらおう。
実際の作戦中に初めて体験するより、この合宿中に体験しておくのが皆のためだ。
万が一、1中隊で対応できそうにない襲撃が行われた場合は、当然全員叩き起こすけどな!
いやぁ、明日の朝、皆まともに目を開けていられるかな?
……俺含めてな……。
訓練とはいえ、母さんと戦うのはかなり怖い。
だけど、俺の場合は、他の人達と違って、母さんが満足できるくらいしっかりと印象に残る程度には、戦っておかないといけない。
つまり、俺だけハードモードみたいなもんだ。
ゆっくり寝たかったなぁ……。
「犀果!!!!!本当に賢者様に攻撃しても良いのか!?!!??怪我をさせてしまわないだろうか!!!!?」
「大丈夫です。怪我させられるもんならしてみろってくらいには硬いですから」
轟打部長の懸念はわかるけど、母さんはそういう常識とか倫理観の外にいると考えてください。
その後も作戦を考えたり、休憩を挟みながら続けて、あっという間に1時間たった。
既に、1中隊がキャンプ地を囲むように展開しており、今のところは順調だ。
さて、母さんはどんなふうに攻めてくるつもりなのか……。
そう警戒していると、囲いの一部から騒ぎ声が聞こえた。
即対応するため、向かうと、そこには……。
「がおー。私は魔物。キャンプを襲いに来たぞー」
「何してんだ聖羅?」
「敵役。お義母さんに言われて私達も参加しに来た。上手く出来てる?」
「うん、できてないからお前たちも防御側に回ってくれ」
「……仕方ない、わかった」
魔物になりきったつもりでやってきた大根役者聖羅様は、演技に自信があったのに褒めてもらえなかったのが不満なのか、不満顔のまま俺と一緒の班になった。
護衛の聖騎士の女性たちも一緒だ。
なんか、この人たちも昨日今日で随分やつれたな……。
よっぽどこういう訓練に慣れてないんだろう。
いい機会だったなアンタら。
今度は、別の場所で騒ぎが発生しているのが聞こえた。
なんだなんだ?聖羅はもうここにいるし、アイでも戻ってきたか?
なんて思って言ってみたら、そこにいたのは母さんだった。
そして、ここまで色々考えても、まだまだ俺の考えは甘いというのを思い知らされた。
ってかね、母さんって人をもっともっともーっと警戒しておくべきだったわ。
「あら、大試来たのね!」
「母さん?早速襲撃しに来たの?」
「ええそうよ!でも、私が直接突っ込むとそれだけで終わっちゃうから、適当に召喚獣を出すわね!」
そういって、防御の囲いの外側にいる母親は、ロッドで地面を突く。
すると、何か魔法陣のような物が広がって……。
「ケロ兵衛!適当に蹂躙しなさい!」
「「「ガウ!!!」」
ケルベロスが召喚されました。
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