第237話

「聖羅様!?」

「聖羅様だ!」

「聖羅様が帰ってらっしゃったわ!」


 巨大なドラゴンの背に乗り、魔族防衛軍(仮)の只中へと舞い降りる聖羅。

 その力強くも神聖ささえ感じさせる光景を目にして、魔族たちは何を思うのだろうか?

 敢えて聞くまでもない。

 だって、目がキラキラしてるもん。

 特に同級生のやつら。

 ボロボロになっているけれど、頑張って自分たちの畑を守って戦っていたらしい。


 だけど、ここに集まっている魔族は、明らかに俺達がドラゴン達に交渉に行く直前よりも多い。

 各種族の長たちが動員をかけてくれたんだろう。

 ヴァンパイアの女王であるスフィールさんが中心になって指揮をしていたようで、陣の中心に座しているのが見える。


 そして、最前面に立って戦っていたのは、我らが無茶振りカレー魔王様。

 遠くから見えていた強大な魔術は、きっとこの人のものだろう。

 その戦術兵器のような戦力をサポートするように、ライオネス13世たちがサポートしていたようだ。

 あれ?いつの間にか、魔族たちが農業だけじゃなく戦いまで協力して行うようになってる?

 良いこと……なんだよな?

 これ、マジで王都に攻めてこられたら厳しいな!

 ますます戦争の原因になりそうな部分をぶっ潰して置かなければ、人類を絶滅させる原因を作った人間として永遠に名前が残ってしまうかも知れない。

 ……いや、残らんか?

 歴史を残すやつがいなくなるわけだし?

 イチゴみたいに、細々と当時を知るものが残る程度か。


 あの天変地異を単体で一掃したクレーンさんは、既に人の姿になっていて、しかもまだ立ち直れずへたり込んでいるため、魔族たちは誰も彼女がそんなヤバいことやったとは思っていないだろう。

 魔王様は、周りの魔族も守りながらの攻撃だったんだろうけれど、クレーンさんの攻撃全振りの大魔術は、魔族たちの目には誰の功績だと映っただろうか?


「聖羅様が……伝説のドラゴン族を動かした!」

「あの巨体を従えている!?」

「なんて……なんて力強いお姿なんだ!」


 いや、全身鎧で胸張って堂々としているから目立っているだけで、他にもドラゴンに乗ってきたメンバーはいるんだよ?

 魔王の娘に、聖剣でビーム打つ王女様に、エルフの大精霊に、猫耳クラシカルメイドに、あのバッタに全身かじられたらどんな痛みがあったんだろうとゾクゾクしている狼耳に、未だ高速飛行のダメージから抜け出せない俺に、謎のロボ等だ。

 一番の功労者のクレーンさんは、たった今とうとう横になってしまったし、同じくドラゴンのルージュは、そんなクレーンさんを慰めている。

 あんな地表を薙ぎ払えるようなデタラメな存在でも、ここまでイジけるんだな……。


 でも、そんな俺達がすべてモブに見えてしまうほどの存在感を、ドラゴンの姿のカメリアさんと、その背に乗り続けている聖羅は放っている。

 ……あの、魔王より目立ってね?


『……ふむ』


 その魔族たちの尊敬というか、崇拝のような視線に気がついたらしいカメリアさんが、なんだか意味ありげな顔をしている。

 まあ、ドラゴンの姿のままだから、表情もあるんだか無いんだかいまいちわからないんだけどさ。


『皆のもの聞け!我らドラゴン族は!聖羅様の要請に応え、ここに参上した!黒き地の波!赤き空の炎!なにする者ぞ!聖羅様と志を共にしている間、貴様らの前に前に敵はない!』


 あ、カメリアさんが、聖羅に功績を押し付けた。

 確かにその方がこっちとしても都合は良い面もあるだろうけれど、流石に煽り過ぎな気もしないでもない。

 だって、魔族たちのこの反応がさ……。


「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」

「「「「「せ・い・ら!せ・い・ら!」」」」」


 唸り鳴り響く聖羅コール。

 その中には、カレー屋の店主もいる。

 いいのか?あんた、魔王の立場あぶねぇぞ……?

 いや、魔王の座って強いかどうかなのかもだから、別に魔族の支持は関係ないのかも知れないけど……。

 でも聖羅が聖女パワー全開で戦ったら、魔王不利なんじゃね?


「よく戻ったな犀果大試。戻って早々見せてくれるなヌシら。それにしても、先程の大竜巻、そこなメソメソしている女のものであろう?」

「あ、わかります?流石スフィールさん!この方これでドラゴンなんですよ」


 今はどう見ても、今にも死にそうなくらいに落ち込んでいる地雷系アパレルホラー店員だけど。


「であろうな。他の者達は、大半が聖羅嬢に目が行ってしまっているが、他にも化け物がいるようだ」

「現地には、もっといっぱいドラゴンいたんで、これでも氷山の一角ですけどね」

「そんな者をどのようにして仲間に引き入れたのか……」

「酒です。飲みます?美味しいらしいですよ」

「はぁ……もらおう!犀果大試も付き合え!勝利の宴だ!」


 ドラゴンの住処で枯渇した酒だけど、こっちには持っていけなかった余剰分が残っていた。

 蝗害と戦い抜いた魔族達に、ここで提供しない手はない。

 飲みたいと言うなら飲むがいいさ!


「皆、よく頑張った。今日は好きなだけお酒を飲んでいってほしい。足りなくなったら、私が新しく作る!」

「「「「「せ・い・ら!せ・い・ら!」」」」」


 酒と聞いて、更に大きくなるコールを浴び、右腕を天に掲げる聖羅。

 案外ノせるのもノせられるのも好きな聖女様は、まるで魔族たちを統べているかのような光景を作り出していた。


 これは、そろそろ俺達が人間だって言うことを公表するタイミングなのかも知れない。

 ちょうど盛り上がっているこの宴の席でなら……。


 と思ったけれど、ドラゴンすら酔い潰したドラゴンころしによって、魔族は軒並み酔いつぶれてしまったため、また明日にすることにした。



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