第238話

 俺達が作った農園へと帰ってきて、地を埋め尽くすバッタを薙ぎ払った次の日の朝。


 昨夜は、魔族たちがどいつもこいつも酔いつぶれてそこらで寝ていた。


 若い女性は、酔っていないメンバーで協力してベッドまで運んだけれど、野郎どもは放置していたため、今もそこら中で夢の中を楽しんでいる魔族だらけ。




 はい、叩き起こします。




「起きろ!朝だぞ!」


「ぎゃっ!?」


「ぎえっ!?」


「あんっ♡」




 魔族は頑丈なので、叩いたり蹴ったりして起こしていく。


 普通に揺すった程度では、コイツらはまず起きない。


 そもそも、既に大声で起きろと呼びかけている状態で、目を覚ましているのが全体の1割に満たなかったからこそこんな事をしているわけで……。


 なんだかこの感じ、開拓村にいたときを思い出すな―。


 何か祭りをするたびにこんな感じで大人が地面で寝ながら朝を迎えるんだ。


 それを聖羅と俺で起こして回る所までがセット。


 祭りの開催は、特に何かがあったとかではなく、祭りをする気分になったらというガバガバなものだったから、月に10回はやってたな。


 風雅?あいつは自分が寝坊する側だったから叩き起こされてた方。




「なんだよ大試!せっかく気分良く寝てる時に!」


「ちょっと発表したいことがあるから、全員起こしてんだ。手伝ってくれ」


「あー?あぁ……まあいいけどよ」




 ライオンマンのクラスメイト、確か、レオフォードだったか?


 そいつらを中心に、どんどん手伝いを増やして起こしていき、それでも全員が目覚めたのは、朝9時を回った頃だった。


 一応俺達、学校で夏期講習があるはずなんだけど、誰も登校しようとしてないな……。


 いいけどさ。




 なにはともあれ、とりあえず皆話しを聞ける状態になったようなので、始めるか。




 俺は、学校から借りてきた魔道メガホンを起動した。




『えー、これから皆さんに重大なお知らせがあります!』




 寝起きのポヤポヤしている魔族たちに、できるだけショッキングな雰囲気で話しかける。


 インパクトが必要だ。


 無ければ奴らは寝る。




『俺達がここにやってきてからもうすぐ1ヶ月!この間、可能な限り皆さんの意識改革と、生活環境の改善を行ってきました!それは何故か!?』




 間を空けて、聞いてる奴らに考える時間を与えつつ、「え?なんで黙ってんの?」と軽く不安にさせるスピーチのテクニック……があったような気がするので、それを実践してみる。




『実は!俺と、聖羅と、有栖は、魔族ではありません!』




 ソフィアさんについては、説明すると話がややこしくなりそうだから触れないでおこう。


 ここまで静かに聞いていた魔族たちも、流石にザワつく。


 案外素直に聞いてくれていて、話す側としてはありがたい。




『俺達は……人間です!』




 ……あれ?静かになったぞ?


 えー!?とかうそだろー!?ってなるかと思ったのに……。




「ニンゲンってなんだっけ?」


「海の向こうにいる奴らだろ?」


「俺達と戦争してたりしてなかったり?」


「ニンゲンの血は美味しいってヴァンパイアには伝わっているけれど、そもそも今のヴァンパイアは血が好きじゃないから……」


「案外俺達と姿似てるんだな?」


「いや、お前ライオンじゃん」


「2本脚で立って両手で道具使えるだろ!」




 あ、もしかして人間についてあんまりしらんのか?


 反応からすると、俺達にとってのおばけとか伝説の存在みたいな感じだろうか?




「妾はわかっとったぞ?というか、秘密だったのか?」


「ニンゲンの支配する領域には興味あるが、ニンゲン自体はどうでもなぁ……」


「お前らが食ってたカレーな、アレ、ニンゲンの料理だから」


「本当か魔王様!?」


「ニンゲン……恐ろしい……」




 偉い人たちは、ニンゲン自体はちゃんと知っているらしいけれど、まだそこまで人間自体が瞳孔という感じでもないようだ。


 これがゲームの展開だったら、3年後には戦争しかけてくる程度に関係が悪化しているんだよなぁ……。




『魔族と人間の無駄な戦いを回避するために、俺達は魔王様に招聘されてここへ来ました!加虐心!領土的野心!食糧問題!どんな理由でその衝突が起きるのかはまだわかりませんが、何もしなければ、近い将来にきっと衝突が起きていたでしょう!なので、魔族が人間に戦争を仕掛ける必要のない、もしくは、仕掛ける旨味がない状況を作り出そうとしたのです!今、この魔族の領域は、とても豊かになりました!たった1ヶ月足らずでです!もちろん、特殊な能力を使って早めたのもありますが、力こそ全てと言っていた皆さんが、たった1ヶ月で作物を作り、家畜を育て、皆で焚き火を囲んで酒や料理を食べるようになりました!この程度で、戦争が回避できるかはわかりませんが、間違いなく確率は下がっているでしょう!今の皆さんにとっては、人間の領域を奪い取ることよりも、この広大で手つかずな魔族の領域を改造していく方が重要なのではないでしょうか!?自分たちの土地が豊かで、更に改良の余地がある内は、他の土地に戦いを仕掛ける無駄を犯す事はしたくないはず!』




 と思いたい!




「……まあ、まだ畑なら幾らでも広げられるしな」


「わざわざ海の向こうまで行って土地奪うより、眼の前のこの大地を畑にする方が良さそうだ」


「俺、泳げねぇしな」


「泳いでいくつもりだったのか?船じゃねーの?」


「海を超える船……俺達に作れるかなぁ……?」




 俺の話を聞いていた魔族たちが、人間の領域への侵攻の意思を捨てていく。




 一方で、俺の話はやっぱり興味ない奴らにはつまらなかったらしい。


 起き抜けだったこともあって、3割位の魔族たちが寝ている気がする。


 中には、またジョッキを手に持ってるものまでいる。


 これは……もっとインパクトが必要なのか!?




 となれば、頼るのは聖羅だな。




「じゃあ聖羅、頼む」


「わかった」




 俺と入れ替わって、聖羅がお立ち台の上に乗る。


 今日も漆黒の鎧が輝いてるぜ……。




「アーマー、パージ!」




 聖羅の纏う魔道外骨格が解除され、携帯用のキューブとなる。


 それと同時に、聖羅の抑えられていた聖女パワーが溢れ出す。


 今日一番のザワつきが起きた。




『私は聖羅、人間で、そして聖女のギフトをもってる』




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