第239話

「聖女!?」

「聖女って言ったか!?」

「これが……聖女!?」

「この怖気を掻き立てる力!間違いない!」


 ファム曰く、聖女の力は、魔族にとって恐怖の対象だ。

 それだけにここまで秘密にしてきたけれど、ことここに至ったなら、抑止力の一つとしても使えるかも知れないし、そもそもの意識改革にもつながるかも知れない。

 聖女相手に敵意を持たない程度になってくれれば、普通の人間相手でもそこまで原因もなく険悪な仲になったりしないだろう。

 人間側が何か仕掛ける可能性もあるから、あっちの意識改革も必要だけど、とりあえず魔族から攻めていくのを防げれば、それだけで俺達の仕事は完了したと言っていいだろう。


 そもそも、俺がこれだけ頑張っているのは、聖羅や皆と平和に暮らしていきたいからであって、ぶっちゃけると、人間と魔族の戦争なんて大して興味がないんだ。

 俺やその仲間が巻き込まれないのであれば、勝手にしろと言いたい。

 でも、そう言って知らんぷりをしようにも、聖羅には聖女なんていう大層なギフトが与えられてしまっている。

 有栖は、人間の国の王女様だ。

 リンゼは貴族で、有事の際には戦わないといけない。

 ファムとエリザは魔族で、人間と魔族が戦うとなれば無関係では居られないだろう。

 パッと思いつくだけでも、幾らでも巻き込まれる要素が思い浮かんでしまう。

 そうやって考えていくと、やっぱり戦争が起きないのが、俺にとって一番都合が良い。

 そのためなら、できることはやってみるだけだ。

 たとえそれが、聖羅のその得意な力を利用するようなことだとしてもだ。


 さぁ、本物の聖女を前にして、魔族たちはどう出る?

 俺たちは、どう対応したら良い?

 見せてくれ、お前たちの応えを!


「なんて……なんて恐ろしい!」

「これが!ニンゲンの最終兵器!」


 いや、兵器じゃないぞ?

 ただの女の子だ。


「あんなに容赦なく相手をボコるのに、更にあの聖なる神の力を使えるだって!?」

「ヤベェよ!化け物じゃねぇか!」


 いや、化け物じゃないぞ?

 ただの可愛い女の子だ。


「神、技、体、全てが揃った方……」

「俺……感動しちゃった……」

「強さって、直接戦わなくてもわかるもんなんだな……」

「聖羅様……やっぱり聖羅様は俺達の救世主だ!」

「聖羅様ー!私にもミゾオチパンチしてくださーい!」

「もしかして、ニョキニョキさせてたのも聖女の聖羅様なのですかー!?」

「あぁ!あの力強い目が俺を狂わせる!」

「ドラゴンころしも聖女の力で作られてたんだ!」


 ……あれ?なんか、変な方向に行ってる?

 皆、顔が紅潮してるぞ?


『皆、仲良くしよう?』

「「「「「せ・い・ら!せ・い・ら!せ・い・ら!せ・い・ら!」」」」」


 何故かまた聖羅コールが始まってしまった。

 もしかして、俺があーだこーだいうより、聖羅が「人間の領域にちょっかいかけるのは禁止ね」とでも言うほうが早かったのか?


 ……いや落ち着け!これも頑張って環境破壊と再生を行ってきたつみ重ねの結果なんだ!

 なにもしていないじょうたいで同じことはできなかったはず!

 俺達の開拓生活は無駄じゃなかった!


「いやぁ、思ったよりも面白いことになったなぁ!」

「魔王様さぁ、これどうすんの?魔族が聖女を崇めてますよ?」

「いいんじゃないか!?俺は良いと思うぞ!馬鹿みたいに戦い合うより、こうやって馬鹿騒ぎしてるほうが俺は好きだ!」

「ウチも!美味しくないご飯いっぱい食べてニンゲンと戦うより、大試たちが作ってくれるご飯食べて仲良くしてるほうが好き!」


 魔王親子的には、この状況は問題ないようだ。

 いや、俺としても戦争が防げるならそれに越したことはないけど、魔族を統べる存在としてそれはどうなんだ?


「……よし!決めたぞ!」


 なんて思っていると、魔王が立ち上がり、聖羅のいる台の上へと登っていった。


『お前ら!俺は決めたぞ!これまで、魔族で一番強いものが一番偉く、魔王と呼ばれると決められてきた!だが、俺はここに一石を投じたい!力で決まった魔王の上には、魔族を救った者を据えるべきなのではないか!?』


 何言い出した?


『ここに宣言する!今日より天野聖羅様を、魔帝とする!もちろん、彼女に仕事を押し付けるつもりはない!我々が、一つの組織として結束するためのシンボルとさせてもらうんだ!異議のあるものはいるか!?』

「「「「「異議なし!!!!!」」」」」

『決まりだ!ではこれより、魔帝降臨の宴をするぞ!総員準備しろ!』

「「「「「おおおおおおおおおお!!!!!」」」」」


 なんか、決まった。


「なあ有栖、これは、仕事完遂したってことでいいのかな?」

「良いのではないでしょうか?とりあえず名前だけ貸しておけば良いのでしょうし。商品の広告に出てるアイドルみたいなものですよね?」

「偶像かぁ……」


 心なしか、やる気に満ちた顔になっている聖羅を見ながら、俺ももっとシンプルに考えて行動したほうが良いのかもなと反省していた。


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