第240話(投稿が上手く行っていなかったようで、投稿されていなかったため、後から追加しました)

 もう慣れた。


 慣れたよ。


 とりあえず酒を飲んで騒ぐ大人たち。


 更に魔族は、子どもも酒を飲む奴が多いから、騒ぎは大きくなってしまう。


 この前まで、この手の他種族での祭りを殆どやってこなかったはずの魔族たちなのに、互いに肩を組み、腕を組み、浴びるように酒を飲んでいる。




「酒って、そんなに美味いもんなのか?昔から疑問なんだよな」


「酒は美味いが、それ以上に楽しい気持ちになるんじゃよ。酒の味はともかく、酔えれば良いという奴もいるくらいじゃからなぁ」


「そうですね。それに性欲も上がり、逆に理性は失われます」


「ろくなもんじゃねぇ……」




 長命種女性2人は、既に酔って色香をばら撒いている。


 彼女たちを見て、エルフとドラゴン、それぞれの長を張っていたと言われてどれだけの者がそれを信じるだろうか?




「うぅ……綿花……めんかぁ……」




 もう一人のドラゴン女性は、未だに立ち直れずにメソメソ中。


 心を落ち着けるためなのか、俺の着替えのTシャツを分解して、そこから新しく服を作るという離れ業を見せている。


 あのコサージュが、もともと俺の染みができたTシャツだと言われてどれだけの者がそれを信じるだろうか?




「おさけ……おいしいぃ……」




 この場にいる最後のドラゴンは、グラス1杯のドラゴンころしで酔いつぶれてしまった。


 このへにゃへにゃ娘が、実はドラゴンと人間のハーフだと言われてどれだけの者がそれを信じるだろうか?




「お酒、追加分出来た」


「では、どんどん運びますね!」




 魔族に囲まれ、喝采を浴びているあの美少女が、聖女だと言われてどれだけの者がそれを信じるだろうか?


 そのとなりで、酒入りの大型タンクを担いでいるのが人間の王女だと言われてどれだけの者がそれを信じるだろうか?




「俺が信じらんねぇよ!なんでこうなった!?」




 俺の想定では、もう少し軟着陸したような事態になると思ってたのに、全く違う方向に垂直着陸できたような安定感。


 そりゃさ?


 魔族の領域を住みよい場所にして、更に魔族間での対立を取り払ったり、暴力以外のコミュニケーションを重視する環境を構築できれば良いなって思ってたよ?


 でも、まさかドラゴンを引き入れて、聖女が魔王の上に据えられた魔帝とかいうのになるなんて思わないじゃん?


 カツ丼頼んだのに、サービスでステーキと焼き鳥まで着いてきたような気分だよ!




「魔王様は、聖羅を魔帝とかいうのにしてよかったのか?別にそんなもんにしなきゃいけない訳でもなかったでしょ?」


「まあな!だが、俺はこれで良かったと思っている!」




 先程までカレーを作り続けていた魔王様が、一段落したのか俺の隣に来たので、どういうつもりなのか聞いてみることにした。


 何も考えていないと言われた方が納得できるくらいには訳わからない事態なんだけど……。




「ああ!魔王なんて、実際にはただ強いだけの存在だったからな!大して政治的な活動を大々的にやっていた訳でもない!そもそも、俺は元々こういうふうに魔族同士で仲良くできる世の中にしたくて魔王なんて面倒なもんをやっていたんだ!それなのに、一向に溝は埋まらず!戦いは終わらず!終いには勝手にニンゲンたちに喧嘩を売るやつまで出る始末!今はまだ直接ニンゲンに戦争を仕掛けようとする魔族は少ないが、それがこれからどうなっていくのかさっぱりわからない。


 だからこそ、何かのきっかけになれば程度に思って呼んだお前たちが、こうして望外の結果を生み出した!俺としては大満足だ!それにだな……」




 そう言うと話を区切り、皿を渡してくる。


 そこには、美味しそうなカレーが盛られている。




「俺は!これからカレー屋として生きていきたいんだ!もう既に魔族の領域にも店を出す事は決めているぞ!」




 どうやら、本格的にカレー屋の店主になるつもりになっているらしい魔王。


 これ、フェアリーファンタジー1終了じゃね?


 いいの?


 平和なカレーエンドだよ?


 あ、俺は楽できるならそれに越したことはないと思っているので構いません!


 プレイしたことある訳でもないから、本編に思い入れとかない!




「パパ、カレー屋さんになるの!?」




 そして3作目でラスボスになる筈の魔王の娘は、魔王カレーを食べながら一緒に焚き火にあたっている。




「ああ!もちろん魔王も続けるけどな!どうせ魔王の仕事なんて、変な事やらかす奴をとっちめるだけなんだ!兼業でも行けるだろ!政治に関しては、そういうのに詳しそうな奴らを集めてやらせりゃ良い!」


「ふーん、そうなんだ……」




 不味いものばかり食べさせるからと親子喧嘩した後家出し、女神に拉致されて、仕舞いには俺に召喚されてしまったエリザ。


 数奇な運命を辿りつつも、未だ親子関係の完全な修復は為されていない。


 しかし、不味いものを食わせていた側の魔王が、食に目覚めてしまった。


 その為、もう不味いものを食わせようとする気配も無くなっている。


 だからなのか、エリザもソワソワしっぱなしだ。


 多分仲直りしたいんだろうけれど、きっかけが見つけられないようだ。


 魔王は魔王で豪快そうに見えて、あまりその手の話題をエリザ相手にしていないように見える。


 親子ってのは、難しいもんなのかもしれん。




 そう考えると、うちの両親は分かりやすかったなぁ……。




「なんか、久しぶりに実家帰りたくなったわ」


「正式に婚約の挨拶に行きたい。お義母さんにはしたけど」


「では、その時は私もご一緒します!」




 ……正式な挨拶か。それはちょっと緊張するな……。




「ねぇ大試!その時だけ、お休み欲しいんだけど!」




 カレーを食べていたエリザが、意を決したように休暇願いを出してくる。


 そんな力強く頼まなくても休みくらい出すが?


 ブラック企業じゃあるまいし……いや、拉致からの使役はブラックか?




「休みくらいいつでも出すけど、用事でもあるのか?」


「えっと……ちょっとバイトしてお小遣い稼ごうかなって」


「へー。いいんじゃないか?因みに、どんなバイトがしたいんだ?」


「えーとね、カレー屋さん……」




 魔王が泣いた。




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