第289話
みるく先輩のホイップクリーム発言という衝撃を乗せて、神弓から放たれた矢は飛んでいく。
そして、そのキツネ色の衣を突き破り、エビフライ……エンシェントフライ?を串刺しにした。
「ギュウイイイイイイイイイイイイイイイ!?」
しかし、流石は100レベル越えの魔物という事なのか、神弓による一撃を喰らったにも拘らず、デカいエビフライは生きていた。
相当痛むのか、吹き飛んだ衣の一部を尻尾で触るようにしながら、悶え苦しんでいる。
あの鳴き声、どこから出ているんだろう……。
「気を着けなさい!あのエンシェントフライは、呪怨系の魔術を使ってくるわよ!聖羅や聖剣のバフでも完璧には防げないの!心を強く持って!」
リンゼが叫ぶ。
直後、エビフライと目が合った。
いや、目とかあるのかわからないけれど、相手の視界に俺達が入ったという事が、本能的にわかってしまった。
「あ……ああ……ごめんなさい……あの時の大試のエビフライ……お義母さんにもらった媚薬入りだったの……効かなかったけれど……」
「……う……うっさいわよ!人が何かけて食べようが自由じゃない!?」
「頭と尻尾を……残してしまい……申し訳ございません……!」
皆がそれぞれ苦しみだす。
これが呪怨系の魔術か?
自分の頭の中に何かが入り込んできて、とにかく反省したくなるような気になる。
何故かエビフライに関して。
「ち……ちがっ!アレはエビじゃなくてザリ……」
みるく先輩も、もう弓を手放して地面に突っ伏している。
あまり聞かない方がいい事を口走っている気がするので、放っておこう。
「デミグラスソースだけじゃとパンチが足りない気がするんじゃよなー……」
酔っぱらいエルフは、反省はしているけれど、特に何か苦しんでいる感じでは無さそうだ。
だってお酒飲んでるし。
そろそろ呂律も回らなくなってきそうなくらい、その白い肌は火照った色になっていた。
R-15くらいの色気かな?
「犀果様、御無事ですか?」
そんな中、アイは平気そうだ。
むしろ俺の心配をしてくれている。
「まあな。そっちは?」
「大丈夫です。1人でエビフライ50匹は食べ過ぎだったかもしれないという考えが先程から頭に浮かんでおりますが、無視しております」
「あそう……」
さて、じゃあさっさと片付けますか!
俺は、雷切を出して走る。
狙いは、衣が剥がれ、中身が露出している部分。
エビフライが俺の接近に気が付き、呪怨とやらをバンバン飛ばしてくるのがわかるけれど、俺は足を止めない。
「確かにエビフライを俺は大量に食べた。川海老が多かったけれど、この時期に開拓村で食べたのは、よく考えたらお前の同族がドロップしたものだったのかもしれない」
今度は、衣の小麦粉の1欠片1欠片が飛ばされてくる。
見れば、どうやら剃刀のように鋭い刃になっているらしい。
当たればタダでは済まなそうなものが、嵐のように向かってくる。
俺は、避けることはせず、そのまま力任せに刀を振って風を起こし薙ぎ払う。
「だから、お前が俺達を恨む気持ちもわからんでもない。その上で言うけれど、弱肉強食の世界だ。食べたことに対して、俺はお前に謝るつもりはないし、一々恨み節を聞いてやるつもりもない」
何だかわからない白い液体が、エビフライの先端から放たれ俺に向かう。
避けたら後ろの皆に当たりそうなので、刀で切り裂く。
「……一つだけ、お前に言ってやれることがあるとしたら」
刀を振り上げる。
エビフライが、恐怖におびえた表情をしている……気がする。
「お前もタルタルソースで食べられたかったよな?すまん、醤油しかなかったんだ」
「タベルナ……」
雷切を突き立て、一気に雷を流し込む。
エビをローストしたような香ばしい香りが辺りに立ち込めた。
香りを残して、エンシェントフライは、霞のように消えて行った。
あとに残ったのは、プラスチックのケースに詰められた大量のエビフライ。
何でプラスチック?
「よし、一丁上がりと」
「……いや、アンタ、よく平気だったわね?」
リンゼが、俺の後ろからかけてきて、ジト目でそんな事を聞いてくる。
「まあな」
「なんかこう……食べた相手に対する負い目とか、そういうのは無いわけ?そういう負の感情を倍増させるのが呪怨系なんだけど……」
「え?うーん……大してないなぁ。ここは、自然界だ。食べるという事は、相手の命を喰らう事。そこに罪の意識を持つ余裕なんて、俺には無かった」
「そう……でもまあ、助かったわ」
リンゼが、ほっとしたような顔で俺や皆を見る。
割と危ない相手だったんだろうか?
俺からしたら、割と余裕だった気がしたけれど……まあいい!
エビフライ大量ゲットだ!
「というわけで、俺が貢献したんだから、タルタルソースで文句ないな?」
「「「「「「ある(あります)!!!!」」」」」
俺の意見は通らなかった。
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