第290話

「アレは、サンマルタね。炎系の攻撃に弱いわ」

「あら、チェスナーね。あのイガイガは、毒はないけれど、細かい返しがあって抜けにくいわ」

「サーモンナーよ!仲間を召喚しまくるから、それを倒し続けて食材を大量に入手できるわ!」

「Re:カッツォ!?レア魔物よ!逃さないで!絶対倒して!美味しいはずだから!」

「アキナス……アイツの攻撃を食らうと、女の子は一時的に男に性転換してしまうから、大試1人でなんとかして」


 みるく先輩の索敵によって、すごいペースで食材魔物を見つけて倒していく。

 秋が旬の食材ばかりだけれど、それ以外に共通点があまりないため、雑多な品揃えではある。

 森の中に、海の魚がウロウロしている光景は、中々に夢に出てきそうな不気味さを醸し出しているけれど、わざわざ海に行かずに海の食材が集められるのは便利だ。

 ……ってか、アイツら逆に海にいたら溺れそうなくらい陸上に適応していて怖い。

 足生えているし……。


「でも、今のところ、100レベル超えの相手とはいえ苦戦する程ではないな」

「フライはそこそこだったんだけれど、アンタが普通に倒したからね……。とはいえ、ボスになりそうな強力なやつにはまだ会っていないもの。強い魔物だからって、美味しいものを落とすとも限らないから、雑魚でもバンバン倒していくべきではあるんだけれどね」


 リンゼがソフトクリームを食べながら、ドヤ顔説明を続けている。

 あのソフトクリームも、魔物を倒してドロップした物だ。

 ダンジョン化している土地なのだから、この世界の常識で言えば、倒した魔物の体は消え去り、後に残るのはドロップ品だけというのは当然なんだろう。

 だけれど、流石に前世の記憶がある俺にとっては、未だにこの現象は違和感がすごいな。

 俺が知らなかっただけで、この世界に来てから俺が食べていた物の中にも、多分にこうしてドロップした物があったんだろうなと今は思うけどさ。


 そういえば、過去の『ドキドキ!秋の味覚祭りイベント』期間に食べた物の中で、俺が美味しかったと思う物トップ3がまだ手に入っていない。

 出現する魔物の種類は、完全なるランダムみたいだから、もしかしたら期間中まったく出てこなくて、結局食べられない可能性もあるけれど、できれば食べたいなぁ……。


「なあリンゼ、ドキドキ!秋の味覚祭りイベントってどのくらいの期間続くんだ?」

「お知らせが届いた日だけね。ただ、秋の内ならどの日でもイベントが開催される確率はあるわ」

「秋って、いつからいつまでだ?」

「この世界を管理している神が、『そろそろこの辺り寒いから冬にするか』って考えたら秋が終わる感じね。厳密には決まっていないわよ」

「いい加減すぎないか?決めとけよ……」

「いい加減だって気が付くのが神だけなんだからいいのよ」


 神のみぞ知るってこういう事か?


「む!?犀果!甘い匂いがするぞ!これは……梨だ!」

「梨!?行きましょう!すぐ行きましょう!早く!」

「おいどうした!?何故そんなにいきなりやる気になっている!?」

「だって梨ですよ!?美味しいんですよ!梨!」

「お……おうそうか!」


 俺の好きな果物No.2だもん梨。

 ドキドキ!秋の味覚祭りイベントで食べた物の中で、3番目に好きな物でもある。


「……で、これが梨?」

「そうよ。ナッスィン、実体がないから物理攻撃が一切効かなくて、魔術で倒さないといけないの。攻撃魔術が使えれば楽勝ね。今回は、群れで登場しているみたいだし、一気に稼ぐわよ!」

「攻撃魔術……」

「魔術が使えないアンタは下がってなさい。まあ、神剣つかえばどうとでもなるでしょうけれど、アタシたちだって仕事がしたいわ!」

「うん、つまみ食いばっかりしてるのもどうかと思ってた」

「はい!エクスカリバーから魔力をグイグイ吸い出して魔術をバンバンぶつけてやります!」


 家の婚約者3人がやる気満々だ。

 ここだけの話だけれど、食べ過ぎてお腹を心配していたのを俺は知っている。

 動きたいんだな。

 でも、俺はもう少し肉付き良くてもいいと思うよ?


 3人の魔術が炸裂し、梨を薙ぎ払っていく。

 その様子を(魔術が使えるのカッコいいなー)と思いながら眺める俺は、周りからはどう見えているんだろうか?


「皆やる気あるのう(バクバク)」

「ほうへふへ、すははひいへふ(バクバク)」

「……」


 酒のつまみにドロップした物を食い漁る酔いどれエルフと、とにかく食い漁る人造メイド。

 どうやら2人とも、仕事をする気は無いらしい。


「犀果!こ、この筋子も貰っていいか!?イクラを作って食べさせてやりたいんだ!」

「イクラって作るの案外大変ですよ?筋子を形成する外側の袋が少しでも残っていると、物凄く生臭くなっちゃいますし」

「そ……そうなのか?てっきり簡単にできるものかと……」

「後で作る予定ですから、できたのお分けしますよ」

「本当か!?助かる!」


 みるく先輩を見習え。

 仕事した上で、自分より妹に食べさせるものの事ばっかりだぞ?

 自分でも食べてくださいね先輩。


「お?また甘い匂いだ!今度は……柿だ!」

「柿!?ああああ!柿だあああああ!」

「おい大丈夫か!?顔が大変な事になっているぞ!?」

「だって!だって柿!かきいいい!」

「わ……わかった!連れて行くから落ち着け!」


 柿、それは、俺が好きな果物ランキング堂々の第1位を誇り続けている存在だ。

 しかも、前世からだ。

 異世界に来てもそれは変わらなかった。

 安くておいしい夢のような果物。

 欠点は、保存が効かないため、秋にしか食べられないという事だろうか?

 干し柿は、俺的には柿ではない。

 アレは、干し柿という独立した存在だ。

 リンゴみたいに長期保存できればいいんだけどなぁ……。


 因みに、過去のドキドキ!秋の味覚祭りイベントで食べた物の中で、2番目に好きな物だ。


「ミズカキね。物理攻撃も効くけれど、皮が弱いせいで、物理攻撃を使って倒すとドロップ品の味が落ちるって設定の魔物よ。炎で吹き飛ばす方が味が落ちそうな気がアタシはするけれど、設定だからしょうがないの!だから、大試は今回も下がってなさい!」

「梨食べて元気出たから、まだまだいける」

「エクスカリバーも、梨の甘みに喜んでいます!」


 今回も俺は後方控え。

 やる気はから回っている。


「ほう?梨の皮を剥くの、上手いもんじゃのう?」

「熟練のワザを感じます。コピーさせて頂きますね」

「妹の為に私も覚えて帰るぞ!」


 剥いた傍から食べていくエルフとメイド。

 危なっかしい手つきで梨の皮を包丁で剥いていく先輩。

 剥いても剥いても自分は食べていない死んだ顔の俺。

 帰ったらバクバク食ってやるからな!


「ふぅ!ストレスが発散できたわ!」

「全力で魔術を使うの、やっぱり気持ちがいいね」

「はい!」


 ドロップ品の柿を山盛りで収納カバンに詰めていく3人は、どこか晴れ晴れとした顔をしている。

 俺も、柿と梨を食べられればそんな顔になれる気がするんだけれど、この場の奴らは、皮を剥いた瞬間すべて食べてしまうので、今の所俺は見ているだけだ。

 聖羅ですら、柿や梨に関しては、俺を優先する心を持たない。

「弱肉強食だから」と言って、下手をすると俺がまだ手に持っている状態から食いついてくる。

 指についた柿の果汁ですら舐めとろうと舌でレロレロする程だ。

 ちょっと気持ちよくて癖になりそうなのが更にヤバい。

 柿と梨は、帰ってから、周りに誰もいない状態で1人楽しむことにしよう……。


「よし!俺が食べたかったもの第2位と第3位が手に入った!あとは、一番食べたかったものが出てくれればいいんだけどなぁ」

「それって何よ?」

「ドラゴン肉!」

「ドラゴン?そういえば、ドラゴンも出たわねココ。あまりにも出なくて忘れてたわ」

「ステーキもいいけど、から揚げが一番美味かった!」

「……いいわねそれ」


 食べたいなードラゴン。

 魔族のドラゴンと違って、ダンジョンに魔物として出てくるドラゴンは、本当にただのモンスター的な存在らしい。

 龍の血を引くみるく先輩や、魔族のドラゴン族であるクレーンさんたちがどう思うかはわからないけれどさ。


「ドラゴンのから揚げか……家族に食べさせてやりたいな……」


 少なくとも、みるく先輩的にはアリらしい。

 なんてことを思っていると、先輩がビクンとした。


「犀果!嗅いだことが無い匂いがするぞ!?もしかしたらこれが……!」

「……行きましょう先輩。血に飢えた捕食者に追い詰められる恐怖を、空飛ぶトカゲに教えてやらなければ」

「肉食べたいもんな!」


 ドラゴン(推定)との戦いが始まる……!



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