第65話
「これがテンプーラですか!?いえ、天ぷらならエル……私の故郷にもありましたが!本場の物は敢えてテンプーラと呼ぶようにと先人たちの教えでですね!」
「……このお魚、脂がのっていて甘みも強くておいしいです……!」
「え!?これ全部絹恵さんの手作りなんですか!?すごい……大試君もやっぱりお料理できる女の子の方が好き……?」
「どっちでもいいんじゃないか?俺自分で料理できるし。それより、料理作ったら喜んでくれる方が重要」
「そ……そっかぁ……えへへ……」
現在、武田家の食卓で夕食を頂いております。
メニューはほぼ全てお母さんが作ってくれたらしく、どれもとても美味しい。
ただ、この並んでいるメニューの中に1つだけ会長が作った物があるらしい。
なんだろう……。
あ、はい。
このちょっと黒い卵焼きですね?
「この卵焼き中々味が有っていいですねー。ちょっとビターな所が逆に食欲をそそられるというか」
「そ……そうかしら?大試君が喜んでくれたなら作った甲斐があったわね」
「え!?もしかして会長が作ってくれたのってこれですか!?学園で売ったらプレミアつくんじゃ……」
「そんなことないわよ!それに、私そんなにお料理上手じゃないもの……」
「お友達の皆さんに食べてもらいたくて今日になって頑張って練習したんですもんね~」
「お、お母様!?」
よし、ホストを喜ばせるノルマ達成!
相手は気分が良くなり、俺も嬉しくなれるうぃんうぃんな関係ってやつだ!
実際……この卵焼きは案外うまいな……きっと大人がビールを苦いと言いながら飲むのと同じ感じだろう……。
「いやぁ、それにしても今日は賑やかでいいですね母様。水城が学園に行っている間は、殆どお通夜みたいなものですからね」
「信醸さんももう少しこっちに食べに来てくれてもいいのよ?」
「いやいや、仕事中だけでも疲れるのに、食事時まで父様と顔を付き合わせていたくないのですよ……」
「あらあら!そんな事本人に聞かれたら泣かれちゃうわよ?」
「本人がいたら絶対言いませんよ?泣いてしまうので」
「「ははははは(うふふふふ)」」
今日は、会長のお兄さんも飛び入りで食卓に来ている。
大浴場から直接並んでやってきたもんだから、会長とお母さんには驚かれた。
紹介もしていない家族と、自分の後輩が仲良く浴衣で食事にやってくればそりゃ驚くか。
俺としては、この場にお父さんがいないこともそれはそれでビックリ要素だけどさ……。
「あのぉ……それで、会長のお父さんはいったい……?」
「お父様は、体調が優れないのでお母様に縛られているの」
「えぇ……きっと明日になったら元気になっていると思うから気にする必要はないわ。もし、明日になっても状況が改善していなければ、もう数日は縛っておかないといけないけれどもね?」
「はぁ……」
なんであんなに殺意剥きだしで向かってきたのかわからないけれど、お願いしますお母さん……。
ある程度食事が進み、今度は俺たちが担う役目についての説明に入った。
今の所俺達が聞いている内容なんて、山で魔物を狩るって事だけだ。
あまりに乱暴な説明と言えるだろう。
是非とも詳しい説明が欲しい所だった。
「大試君たちにお願いしたいのは、明後日からの3日間、朝8時から午後4時まで裏山に入って魔物を狩ってほしいの。ノルマは無いけれど、大体の目安として、裏山の魔素計測器が一定値以下の値を示すまでって所かしら?」
「そうね水城。もっと言うと、一応朝8時から午後4時と指定はされているけれど、自己責任でそれ以外の時間でも魔物を狩ってもらってもいいわ。ただし、暗くなると危険だから、できるだけ明るい時間帯にやろうってここ30年くらいはルール設定しているのよね」
「もし暗くなる前に下山できないなら、何カ所か魔物が入ってこない場所に山小屋も用意してあるから、もし万が一のときはそういう場所も利用してくれ。ただ、何より安全を重視して行動する事!あくまで皆はお手伝いで来てもらってるだけだから、無理無茶をしなければいけないとしたら、それは君たちじゃなくて僕ら武田の人間がするべきだからね」
武田家の3人から矢継ぎ早に説明を受ける。
でも冷静に考えると、結局山で魔物を狩るって事しかわからない。
もしかしたら、割とガバガバな行事なのかもしれない。
「それと、期間中最も魔物を倒したチームには、私たち武田家から褒賞もあるから頑張ってね!」
「去年は確か、豪華なトイレカーでしたっけ?お母様が選んで最初は冗談かと思っていたけれど、案外好評だったような……」
「大型バスを丸々1台移動式のトイレにしていたからね。実はあれ、父様が昔から夢だった車なんだよ。ただ、去年は途中で父様が本当に体調を崩して、優勝を逃してしまったものだから、落ち込みようもすごかったねぇ」
幾らするんだそれ!?
前世だと、軽トラの荷台に乗せられるユニット型のトイレとかあって、アレはちょっとほしいなって思っていたけれど、大型バス全部を使った動くトイレだと……?
そんなん絶対話題になるじゃん!
しかも、何かのイベントごとでそれを持って行って、お金をとって使わせることもできそうじゃん!
ほしい!
「当日、参加者には魔物を倒すとその魔物の魔力量を記録する機械が渡されます。そのため、順位は討伐数ではなく、倒した魔物の質で決まると言えるでしょう。褒章は、実際に手渡される際に発表されるまでは秘密ですけれど、今年に関していえば、他の参加者たち用と貴方たち用で2種類準備しているわ」
「俺たち用で分けるのって理由あるんですか?」
「貴方たちじゃないと上げたくないくらい大切なモノや、貴方たちのために用意した物……って所ね」
「へぇ……それは楽しみですね」
一体何を貰えるんだろうか?
金か?
金なのか?
オーダーメイドの大型バス買えるくらいのか!?
「お母様、私はその話聞いていないのですが……?」
「僕もです」
「だって今日私が考えたんだもの!誰にも文句は言わせないわ!」
強権発動案件でしたか……。
ほんと、何貰えるんだ……?
「会長なら何が欲しいですか?」
「ソフィア!」
「……現実的に手に入るもので」
「そうね……なら、大試君の開拓村に別荘でも欲しいわね」
「おー!それは是非是非お願いします!木材なら売るほどあるので!村人増えた!」
「ふふ……咄嗟に考えたにしては良い考えだったわ。その時はよろしくね?」
「こちらこそ!」
会長が来てくれるなら、あの何もない村にも神社を作ってもいいかもしれない。
密造酒蔵を作るよりはよっぽど現地の人たちのためになるし!
やっぱり浴びるようにどぶろく飲むなんてダメだって!
「わ……私も大試君の村に別荘……ううん!寧ろ引っ越してもいいかな!?」
「それはまあいいけど、本当に何もない所だぞ?ワイルドな生活ならいくらでも送れるけども」
「私って、意外と相手に合わせる方だと思うから!」
「そこは疑ってない。猫になったりキツネになったりするし……」
「それは言わないでよー……!」
皆、何が悲しくて開拓村に来たいのかわからないけれど、来てくれるなら最大限の持て成しをしよう!
可能な事といえば、ジビエと聖羅パワーで育てた果物を腹いっぱい食べさせることくらいだけれど……。
「私は、本屋の本を買い占める権利が欲しいです!あの薄い本は値段が高すぎます!」
「……お米券がほしいです……!」
エルフは、欲望に素直だなぁ……。
でもマイカ、この行事でお米券なんて賞品にしたら凄い枚数になりかねんぞ?
「褒章の中でも、大試君用のは特に重要なの。だから、できれば大試君に優勝してもらえると嬉しいわね!」
「絹恵さん……何を企んでいるんですか……?」
「うふふふ♪」
その上品さを感じる笑顔に、俺は言い知れぬ不安を感じてしまった。
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