第66話

 前略、ピンチです。




 昨日は、美味しい食事をいただき、女の子の部屋を借りてドキドキしながらも最高の寝具の導きでぐっすり寝ることが出来た。


 それについては完璧だ。


 これ程の外泊は、前世でも早々したことがない。


 むしろ、我が家?くらいの意識で目が覚めたよ。


 だって、すごい気持ちがいいもん。


 何だろうこれ?


 なんかぽよんぽよんする……。




 そう思いながら数十秒前に目が覚めたわけだ。




 するとですね……目の前に双璧が……。


 ちょっと目線を上げると、美少女の顔が……。


 というか、会長ですね。


 もはや芸術品ですわ。


 流石ゲームの美少女キャラ。




 うん、そんなことはどうでもいいですね。


 問題は、今それが俺の顔面から20cmも無い所にある事ですね。


 どういう状況これ?


 なんで俺は今会長の胸に埋もれながら寝ていたの?


 昨日の夜は、普通に1人で寝たはずなんだけど?




 あれ?ちょっと待て。


 確かに顔面にぽよんとした感触はあったけれど、今は背中側にもポヨンという感触がある。


 というか、更に大きいぽよんという感触だ。


 俺は、恐る恐る後ろを振り返る。




「ん……あぶらあげ……たしかにすきだけどさぁ……」




 そこには、口から涎を垂らしている理衣が張り付いていた。


 ヤダ……おっきい……。




 落ち着け!


 俺よ落ち着け!


 この場で男を解放したら大変な事になるぞ!


 俺は、初めては聖羅って決めてるんだ!


 初めては大切なの!


 キモイって言われたとしても重要なの!




「……あれ?大試君おはよう……よく眠れた?」


「……会長、これどういう状況ですか?なんで2人が俺と一緒に寝てるんです?」


「昨日の夜は、理衣さんがソフィアになってくれたら存分に抱きしめながら寝るチャンスだと思っていたのよ。でも、昨日に限って何故かラッキーガールが発動しなかったらしくてね……。だったらもう大試君の匂いを嗅ぎながら寝るしかないってなって、そしたら理衣さんも一緒に来るって言うから」


「なんでそこで俺が……。大体ですね、俺は男なんですよ?女の子が男相手にこんな事したらどうなるかわかったもんじゃないんですよ?そこの所わかってます?」


「……うん、わかってる」




 わかってんのかよ!わかってるならやるなよ!やらないでくれよ!


 俺の理性への挑戦か!?




「それより、目が覚めたなら早めにここから出て行ってくれないと!ご家族に見つかったら大変な事になりません!?」


「何言っているのかしら?ここは私の部屋。つまり、私とお母様がここに貴方を寝かせたと証言しない限り、侵入者は貴方よ?」


「あれ?そうなるとやっぱり俺が危ないのでは?」


「そうね?だから、大試君が取れる選択肢は、このまま大人しく私の抱き枕になっている事だけよ」




 そうなのか?


 言われてみるとそんな気も……。


 いやいやいや!


 そんな事は無いと思う!


 無いと思うが……かと言って、力ずくで女の子をどうにかするわけにも……。




 あ、そうか。


 俺ってもしかして、遺伝子レベルで女の子相手に強く出る事ができないようになっているのかもしれない。


 だって、昔から聖羅に対して強く出れないもん。


 他に女の子がいなかったから聖羅相手限定かと思っていたけれど、他の相手にも強くでて喧嘩したりとかしたことねぇなぁ……。


 多少の口論はしても、結局最後は俺が折れてる気がする。


 この世界限定なのか、前世から含めてなのかはわからないけれどもな。


 だって、前世で女の子と親しく話した事ないし……。


 そういえば従妹となら小さい時に……やっぱ俺が折れて玩具盗られてたわ。




 悲しくなってきたな。


 もうこのまま二度寝しようかな……。




「あれぇ……?たいしくんだぁ……ゆめぇ……?」


「おはよう理衣。離れてくれるか?」


「ゆめならすきにしていいよねぇ……」




 腕に力が入った。


 寝るか……。






 ―――――――――――――――――――――






「ご……ごめんね?本当は、大試君が目を覚ます前に戻ろうと思ってたんだけど……」


「なあ理衣、その前に男が寝ているところに忍び込む時点でだな……」


「……えへへぇ……」


「可愛く笑ってごまかそうとするんじゃない」




 2人とも目を覚ましてくれたので、やっとの思いで布団から出た。


 ただ、正直寝心地は最高だった……。






「おはよう皆さん!昨日はよく眠れたかしら?」


「はい、凄くいい布団で、目を覚ますのを強引に引き留められる程でした」


「そう?ならよかったわ。朝食ができていますから、皆も席についてね」




 絹恵さんに誘われて昨日座った席にまたつく。


 意外と言ったらなんだけど、この家は、朝食は洋食派らしい。


 ごはんに納豆に味付け海苔に漬物に塩じゃけに味噌汁……なんてイメージだったけれど、並んでいるのは焼き立てのパンにオムレツにボイルされたウィンナーにサラダ、コーンスープまである。


 しかも!あのちょっと溶かしてある小分けのバターまである!


 ジャムも色々あるらしい!


 ワクワクする!非常にワクワクする!


 これ以上となると、折りたたむとびゅるびゅると中身が出てくるジャムとマーガリンのアレくらいだろう!




 光悦の表情になりながら、もぐもぐと用意された食事を食べていると、絹恵さんが話しかけてきた。




「大試君たちは、今日の予定は決まっているのかしら?」


「いえ、折角神社に来ているので、お参りとかさせてもらおうかなと俺は思ってますけれど」


「それは良いわね!丁度今日は、うちの旦那も山の方に明日の準備で出かけているから、拝殿の方は安全なはずだし。水城ちゃん、案内してあげてね?」


「そうしますね、お母様」




 神主の娘さんにこんなでっかい神社を案内してもらえるとか、最高の観光イベントなのでは?


 あのデカい本殿だか拝殿だかの中にある、これまたデカい像も観ておきたいな。


 足元しか見えなかったけど、大仏……って事は無いか。


 神社だし。


 じゃあ何の像なんだろう?


 楽しみだ……。




 俺は、こういう昔ながらの修学旅行みたいな旅行先が好きなんだ。


 ハワイ?グアム?嫌だね!京都とか奈良の方が良い!そこから千葉に行ってネズミの国とかもってのほか!


 変な耳のアクセサリーを頭につけて自撮りしてる奴等の心理なんてわからん!






 朝食後、支度を整えて集合する学園バイト組。


 明日からは、朝から夕方まで山の中だから、今日中に施設見学は済ませておかなければ!




「じゃあ皆、今日は拝殿の方に案内するわね!」




 向かった先は、鳥居の外側だ。


 あれ?あのデカい建物じゃないの?




「折角だし、入る所からやってみましょう?」


「あのぉ……私、神社の正式な参拝の仕方ってよくわからないんですけど……」


「大丈夫!私が教えるわね!これでも神社の娘よ?」


「……は!確かに!」




 そういえば、会長って神社の娘だった……。


 なんか、昨日からのなんだかんだで温泉旅館の娘みたいな気がしてた……。




「……あのっあの建物の中に凄い像が見えるんですけど!?」


「ダメだマイカ!そう言うのは実際に見に行くまでお楽しみにしておきなさい!順番通り進んでくる所まで計算されて作られてるんだよこういう場所は!透視だめ!」


「……は……はい!」




 よしよし!素直な良い子だ!


 透視は、もっと命が掛かったシリアスな場面で使いなさいね!


 常時発動してたらただの変態だぞ?




「ではまず、鳥居をくぐる前に一礼してください」


「なんと……これが本場のイチレイですか!?」


「本場かどうかはわからないけれど……そうです。その後参道を歩いて手水舎の場所まで歩くの。ここでは真ん中ではなく片側に寄って歩くと良い……とは言われているけれど、うちではそこまで気にする必要は無いというスタンスよ」




 そして向かうは水が出てる所。


 正直、ここが一番の恐怖ポイント。


 毎回正しいやり方が分からず自信が無い状態でやることになるんだよなぁ……。




「ここで柄杓を持ち、左手を洗ってから右手を洗い、その後口を濯いで……としていくのが元々なんだけれど、数年前のパンデミック以来この辺りはアルコール消毒で済ませることになっているの」


「ある意味寂しいな……」




 文化の断絶とはそう言う所から起きるのかもしれないな……。




 その後、参道に戻って今度こそデカい建物へと向かう。


 昨日見た直径5mはある注連縄の下を通って中に入る。


 待ちに待ったでっけー神像は、それはもう……なんというか……え?




「あのぉ……会長?これって何の像なんですか?」


「これはね大試君、私たち武田家の御先祖様で、この地を切り拓くほどの強力な魔法を放った稀代の魔法少女!武田てふ子ちょうこ様です!」




 それは、高さ30m程はある美少女フィギュアだった。




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