第67話

「てふ子様……?信玄公じゃなくて?」


「しんげん?誰かしら……もしかしたら居たのかもしれないけれど、思い当たらないわね」


「マジか……あれぇ……?」




 前にどこかで信玄がいたって聞いたような……?


 あれ?


 でもあの時って「もしかして、あの武田ですか!?有名な武将の!?」「そうよ?」って会長が言ってただけか……?


 武田って言われたら俺の中で信玄しか無かったんだけど……この世界ではもしかしててふ子様がメジャーなのか?


 てか……魔法少女……?


 武将なのに……?




「不勉強ですみません……。この方はどんな偉業をなされたんですか?」


「万の魔物をたった一人で薙ぎ払ったと言われているわね。私たちがいるこの場所だって、元々は魔物の領域だったのをてふ子様が魔法で吹き飛ばした結果、魔物の領域ではなくなってしまったと言われているのよ」


「それ……単体で戦略兵器並みって事じゃないですか……」


「ね?すごいでしょ?」




 すごいよ……そりゃこんなバカでかい美少女フィギュアになるよ……。


 牛久並みは、流石に当時の技術では無理だろうけれど……。


 いや、当時の技術ってどんなもんよ?


 魔術的な造り方したのか?


 それとも……職人が手作業でこれを……?




「これって素材は何なんですか?」


「それがよくわかってないのよ。表面は金メッキなんだけれど、中がどうやってもわからないのよね。科学的にも、魔術的にも透視ができなくて……」


「そうなんですか。マイカ、ちょっと見てもらっていいか?」


「……うわぁ……これ……中が何かで満たされているんですけど……それが何なのか全くわからなくて怖いです……」




 魔眼でも上手く見通せないって何なの?


 ホラーなの?


 満たされてるって何?


 何が満たされてるの?


 高さ30mの神像の中身が満タンって事は相当な重さだろうなぁ……。




「じゃあ皆、お賽銭箱の前へ!この時間帯なら空いてるから今のうちにお参りするわよ」


「「「「はーい」」」」




 せんせ……会長に先導され賽銭箱の前へと進む。


 この世界、現金で円を持っている人ってそこまで多くなさそうだけど、賽銭ってどうやるんだろう?




「もし現金を持っている人がいたら、ここで賽銭箱の中に入れてね。ギフトマネーでも大丈夫よ。箱自体にギフトカードと同じような機能があるから。額は、5円を入れていく方が多いわね。もっとも、1円だけ入れる人もいれば、何万円も入れる人もいるからご自由にどうぞ?別に入れなくても怒られないしね」


「へぇ……じゃあ俺は5GMギフトマネーで」


「私も5GMにしますね」


「……5GM」


「あ、私は5円玉にします!える……故郷へのお土産に現金に多少両替してたんですよ!」




 ギフトマネーで支払うと、電子通貨みたいなものなハズなのにチャリーンと音が鳴るらしい。


 だけど、やっぱり本物の硬貨の音には敵わんな……。


 俺も次に神社を参拝する時は、絶対5円玉持ってこよっと。


 神社的には、大量の小銭を両替する必要がない分GM払いの方が嬉しいんだろうけどなー。




「この後にこの紐を掴んで鈴を鳴らしてね。別にこの鳴らすタイミングはお賽銭の前でもいいのだけれど、特に気にしなくていいわ!神社によっては、これが無い場所もあるしね」




 と言われたので、皆で代わる代わる鳴らしてみる。


 魂を清らかにするような良い音がする。


 やっぱりこの鈴もお高いんだろうか?


 ……まずい、発想が我ながら俗物だ。




「そしてお辞儀を2回、胸の前で拍手を2回」




 パンッパンッと皆でタイミングを合わせ手を打つ。




「手を合わせた状態で目を瞑り、心を込めてお祈りしましょう」




 ふむふむ……。


 祈り……祈りか……。


 何を祈ろう……。


 よく考えたら、この世界に来て初めて祈るかもしれない。


 あの修羅の世界みたいな開拓村には、神に祈るなんて文化は無かった。


 正月だろうがクリスマスだろうが、あの人たちが祈るとしたら「美味い酒が飲みたい」とかその程度だったしな……。


 バッカスとかには足を向けて寝れないな。








 あれ?


 そろそろ目を開けてもいいかな?


 誰も何も言わないけど……大丈夫?




「あん?なんだ?てめぇやっと来やがったのか!?」


「……ん?」




 聞き覚えの無い声に目を開けると、そこはどこかの小屋の中だった。


 なんだこれ?どこここ?




「おい!聞いてんのか!?」


「……もしかして、俺に言ってます?」


「他に誰がいんだよ!?」




 声の主は、赤い髪の女性だった。


 凄い美人だけど、言葉遣いはヤカラ。


 顔の造りは、それこそゲームの中に出て来そうな美女だけれど、服装は作務衣。


 これから陶芸でも始めます!ってくらいの雰囲気。


 何かの職人だろうか?




「すみません、貴方が誰なのか俺にはわからないんですけど、ここはどこです?」


「ん?ここは神の世界だ。オレのな!」


「神……ってことは女神様ってことですか?」


「だな!お前の周りにリンゼとか言う女神がいんだろ?オレはアイツの後任だよ」


「あー……じゃあ、俺の剣を作ってくれてる女神様って事ですかね?」


「そう言う事だな!」




 そう言って、目の前の女神様は、何が嬉しいのかヘラヘラ笑いながらでかい槌を振り回す。


 凄い風切り音がして怖い。




「それで、何で俺はここに呼ばれたんですか?何かやらかしました?」


「何言ってんだ?お前からここに来たんだろ?」


「俺にそんな神様の世界に行く技なんてありませんけど……?」




 俺の言葉を聞いて、ハァァァァァァ……と深いため息を吐く女神様。


 なんだろう……凄い呆れられてる……。




「あのなぁ……お前は、あらゆる宗教施設で祈るだけでここに来れるようになってたんだよ!なのに15年も祈りをせずに生きてきやがって!それでも神の存在を知る人間かよ!?」


「そうだったの!?今知ったよ!」


「いやまぁ……オレもまさかあそこまで宗教と関りの無い地域になるとは思ってなかったってのもあんだけどよ……」




 そう言って、頭をガリガリとかく女神。


 そうだよな?


 これ俺のせいじゃないよな?


 アンタがバッカスだったらもう少し会うまで早かったかもよ?




「まあいいわ。そういや名乗ってなかったな?オレの名前はリスティ!火とか炉とか……まあそんなんを司ってんだけどよ!こうやって世界の管理なんてさせられんのはあんまり慣れてねーから、変な事になってたら悪いな!」


「かっる……」




 女神様、軽かった。




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