第211話

「魔族の領域の問題点みつけたわ」


 魔族の学校1日目を終え、下宿先として提供されている魔王城の俺の部屋に皆で集合してのミーティング。

 そこで俺は、開口一番そう告げた。


「私も。もっとデートできる場所が欲しい」

「確かに!ちょっとだけ背伸びをして入りたくなるようなオシャレなカフェもありませんでした!」

「あー、ウチらの食文化ってぶっちゃけ終わってるからねー」

「100円のレトルト食品でもまだニンゲンたちの作った方が美味いニャ」


 聖羅と有栖が不満点を上げ、それを聞いた魔族のエリザとファムがどうしようもないとでもいうように肩をすくめる。

 流石王都に来てから毎日のように食に没頭してきた魔族2人だ。

 自分たちの生まれ育った場所の文化だろうと容赦がない。


 でもな、とりあえず俺の話を聞いてほしい。

 いや、全く違う内容って訳でも無いんだけど……。


「まずさ、魔族の領域は飯がまずい。これは皆異論無いな?」

「「「「うん(はい)(にゃ)」」」」

「じゃあ、何でそうなってると思う?」

「ご飯が美味しくない理由?」

「そうだ」

「土地が悪い。作物を育てるのに向かない場所が多すぎる」


 俺の質問に、間髪入れずに答える聖羅。

 開拓村で日夜植物をにょきにょきさせてたからこそわかる部分も大きいのかもしれない。

 もっとも、聖羅が植物をにょきにょきさせるのに使うのは栄養でも水でもなく魔力だから、根本的な部分は違うんだけど。


「ウチらの領域は砂漠ばっかりだもんねー」

「7割以上の地域が住居を地下に作る程度にはヤベー場所ニャ」


 世界地図を見せてもらって判明した事だけど、このゲームの世界における魔物の領域とは、前世の世界で言えば、オーストラリア大陸があった場所にあるらしい。

 大陸の形は少し違うけども。

 気候もオーストラリアをモデルにしてゲームで作られたのか、ファムの言う通り7割以上の地域が砂漠という死の世界。

 日中は、酷いと気温50℃まで上がり、逆に夜間の気温は一桁代まで落ちる。

 それでも、今は7月末。

 日本と違って南半球にあるオーストラリアでは、今は夏ではなく冬の季節だ。

 だからシドニーは今頃雪で真っ白でもいいんじゃないかって気もするんだけど、フェアリーファンタジーの魔族の領域に冬という概念は無いらしく、常にオーストラリアのキツイ時をイメージした気候って感じらしい。

 その代わり、結構大きめの熱帯雨林が前世のオーストラリアよりも広めにあって、貴重な動物や魔獣の生息域となってるそうだ。


 熱帯雨林の中で農業するには、それこそ自然をぶっ壊す覚悟で伐採しないといけないし、他の地域だとそもそも農業をするのに全く向かない。

 そうなると魔族の領域で獲得できる食料は、動物性にせよ植物性にせよ魔物がメインになる。

 しかし、その魔族の領域に多く生息しているらしい魔物たちも美味しくはないらしい。

 結果、魔族の領域の飯はクソ不味い。


「飯がまずいってのはわかり切ってた事ではあるんだけどさ」

「ニャーたちが散々言ってたからニャー」


 そうだ。

 だからコイツは、割と有能なくせに食い倒れ行為を続けてるんだ。


「そこで気が付いたんだよ。魔族って、何かを育むって言う経験が足りないから、あんだけ暴力至上主義なんじゃないかってさ。アイツら、壊すってことに全然躊躇がないんだよ」

「ちゃんと聖羅を見てから言ってるにゃ?今日は突っ込んでくる相手のみぞおちに手刀叩き込んでたニャ」

「回復魔法使えない事忘れてただけ」

「結局壊れてないんだからセーフってことで」

「ボスは判定ガバガバにゃ」


 ボロボロにされていく男子たちと、ボロボロにしている俺を見ていた魔族の女子生徒たちの目が、何故か俺に対してだけ好意的というか、だんだんトロンとしていくんだもん。

 それでいて絶対に狩るという意思を感じる目。

 ありゃヤバい。

 肉食系ってこういうのを言うのか?ってくらいの眼力だった。

 性欲なら草食のほうが強そうなもんだけど、アイツら野菜食ってんのかな?


「だからこの大地に農業を根付かせようと思う」

「どうやるの?ウチの先祖のひとたちだって何とかしようとしてたけど、雨が少なくて地面もただの砂で栄養足りないから育たなかったってさー」

「そりゃそうだ。砂漠で継続的に植物を栽培しようと思ったらいろんな問題がある。でも、俺達にはそれをサクッと解決するチート的な存在がいる」

「チートってなにー?」

「ダイエット中でもいくらでもご飯食べて良い日にゃ」

「腹筋を鍛えればお腹は出ませんよ」

「でも割れちゃうのはねー……」

「大丈夫、大試は割れてる腹筋も結構好きだから」


 大丈夫、俺は真面目な話をしている。

 この雰囲気に飲まれる必要はない。

 落ち着け。


「おぬしら、大試が泣きそうじゃぞ」

「泣きませんよ」

「大丈夫、大試は強い子」

「それ言われた子供は高確率で泣いてそう」


 よし、気を取り直していこう。


「聖羅に植物をガンガン育ててもらって、そいつらをそのまま朽ちさせて土壌にしてしまおう」

「えー?そんなことできるの?」

「私なら大丈夫。この防具つけてると回復使えなくて、逆にどこかで発散したいくらい」


 そう!魔族の領域で力をあまり使えなくて持て余している聖羅にめちゃくちゃ頼る作戦だ!

 魔力で育てれば水も栄養も必要なく大きくなる。

 その第一世代の植物が朽ちて土になり、更に第二世代以降が芽吹く土壌になる。

 火山島に生態系が広がっていく順序に近い。


「但し、聖羅が居なければ続かないよううなシステムだと当然続かない」

「うん、流石にずっとここにはいたくない」

「だと思う。だから、大きなため池とか、川とか、いろんな工事も進めていこう。最終的には、魔族がいれば運用していける体勢を整えたい」


 理想は、プランテーションみたいなのをこの砂漠にたくさん作ること。

 ため池や川では魚も育てたいな。


「でもそんな大きく環境変えたら、今まで起きなかった大雨とか洪水が起きるかもしれないんじゃないかニャ?それに生態系とかも心配ニャ」

「ファムってホントたまに鋭いこと言うよな」

「キャットが鋭くなるのはたまにでいいのにゃ。普段は丸まってるものニャー」

「まあ、ある程度予想できない問題が起きるのは覚悟していかないといけないと思う。最悪、魔王様に守って貰う必要も出てくるかもだけど、それは起きてから考えるしかない」


 スパコンでも多分予測できないだろうからなあそういうの。


「歴史上最も有意義な自然破壊をするぞ!」

「ウチ、自然破壊って響き好きー!」

「にゃーもにゃ!」


 その意識を変えたいんだけどな……。

 そうすりゃ人間の領域とりにこねーだろうに……。

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