第212話

「農業!?何故農業なんだ!?」

「人間と魔族を仲良くするための意識改革と、魔族の領域の価値を上げて、わざわざ人の領域まで出張っていこうと思わないようにするためです」


 夜になって魔王城に帰ってきた魔王様に、魔族の領域プランテーション化計画のプレゼンを行う。

 エリザが見つかったために、もう王都でカレー屋をやる必要はないはずなんだけど、魔王様の中でどうやらライフワークとすることが決定してしまったらしく、日中はコマメに王都までテレポートしているらしい。

 だから、話し合えるのは夜営業が終わった夜遅くだけとなる。


 因みにこの魔王様、先日、日本の王様から紹介されたラーメンにもハマってしまい、王都に魔王の飲食店の2号店を出す計画を建てているらしい。

 人類はまず胃から捕まえろとかそういう事を考えているわけではない。

 ただ単純に旨い料理を食わせてドヤ顔したいだけである。


「折角広くて不毛な土地があるんですから、ここは思い切って好き勝手に改良しましょうよ」

「……一つ条件がある!」

「なんですか?」

「エビの養殖池を作ってくれ!エビカレーのエビを時前で用意したい!」

「エビかぁ……いや、やってできないことはないと思いますけど、あれってたまに一瞬で全滅するらしいんですよね。病気と環境変化に凄く弱いらしくて、それを覚悟してもらわないと……。もちろん何箇所かに分散して作ればリスクはかなり減らせるでしょうけど……」

「それで構わない!頼む!」


 この調子だと、気がついたら養豚場とか養鶏場もいつの間にか作らされてそうな気がする。

 ただ、オーストラリアをモデルにしているっぽい魔族の領域なのに、羊をリクエストされてないのは意外かもしれない。

 いや、この世界のこの場所が魔物の領域だって言うなら、逆にオーストラリアは無いから、そういうイメージもないのかな?

 流通しているジンギスカンの多くはオーストラリアとニュージーランドで生産されてる羊肉だってくらいメジャーらしいんだけどな。





 さて、魔王様から許可は得た。

 つまり、ここからは好きにこのアホみたいにだだっ広い大地を改造していいってことだ!

 但し、あくまで俺たちは留学生という体できているわけで、日中は学校へ行かなければならない。

 農作業に使える時間は限られている。

 実験的な農作業が学業の一環であると捉えることも可能かもしれないけど、留学なんて実際には建前で、魔王様的には、他の同級生エリート魔族たちをねじ伏せてほしいみたいだからなぁ……。


 となると、実際に農作業ができるのは、日の出から学校が始まるまでと、放課後から真っ暗になるまでかなぁ。

 流石に真っ暗な時間帯に作業はできん。

 照明をつければ不可能ではないけど、日が出てる状態と違って影ができたりなんだりでやっぱり厳しい。

 暗いっていうのは、それだけで危険なんだ。

 もちろん俺や聖羅は、超絶田舎育ちだから夜目も効くほうだとは自負しているけれど、その程度で危険が無くなるほどでもないしな。

 大体魔物や魔族の中には、夜間でも昼間と変わらないくらいの明るさで見ることができる奴らも多いらしいし、やっぱ夜はダメだな!

 エリザもファムもそのタイプなので、夜に一緒に出かけるとたまに「ほへぇ」と呟いてしまうくらいの差を感じてしまう。

 地下室にいる黒いアレも、彼女たちなら一瞬で場所を把握してしまう。

 素晴らしい索敵能力だけど、残念なことにエリザもファムもあの黒いアレを触ることができないので、結局作業するのは俺になるんだけど……。


 さてさて!明るい時間に作業することは決めたけど、それはそれで問題がないわけではない。

 まず、聖羅が聖女だってバレたらまずい。

 よって、草木をニョキニョキしている聖羅を見られないようにしなければならない。

 ならば!俺の答えはこれだ!


「大試、それなに?」

「箒をいっぱい束ねて引っ張れるようにしたやつ」

「……それなに?」

「これを俺が引っ張って走り回ると、砂埃や土埃で視界を妨げられる……かなって思って作ったけど、実際にどうなるかはわからないな……」

「大試が考えたなら成功する」

「聖羅からの絶対の信頼が心地良いとともに重い!」


 なんにせよ、やってみないことにはわからんな。

 俺は、さっそくこの乾ききった大地駆け回る。

 すると、思った通りすごい煙が舞って、完全に周りからの視界を妨げることができた。

 問題は、俺達の視界まで妨げられてしまったことだけど……。


「ゲホゲホッ」

「結界も無しでそんな事したらそりゃそうなるニャ」

「ファムー、大試にも結界張ってあげてよ」

「いや、やってやろうとしたのにあっちがさっさと走り出しただけにゃ」

「私はエクスカリバーに守られてるので平気みたいです」

「ワシは大試が砂にまみれたら面白そうじゃったからあえてそのままにしておった」

「ソフィアさんは今日のオヤツ抜きな」

「なんじゃと!?」


 俺が砂埃に負けている間にも、聖羅はせっせとニョキニョキしている。

 まず最初に、そこらの雑草をひたすらニョキニョキさせては枯れさせている。

 これによって、段々と土ができていく。

 本当なら、草が朽ちたとしても、すぐに土になるわけじゃない。

 草食の動物や虫に食われて細かくなり、消化されてから排出され、それを微生物が発酵分解することで腐葉土や堆肥となれるんだ。

 だけど、それらの行程を聖羅は全部魔力を使って行える。

 幼児の段階ですでにできていたけれど、開拓村を出るまで毎日のように作物をニョキニョキさせていたから、その作業効率はどんどん上がっていき、今では定点カメラの早送りでも見ているかのような速度でやってのける程になった。

 美味しい作物にするには、もうすこし丁寧にする必要があるらしいけど、堆肥にするだけなら全速力で行っても問題ないらしい。

 あっという間に肥沃な大地が出来上がってきた。


「みんな、水、おねがい」


 聖羅以外のメンバーで水魔法を使って、今できたばかりの土に潤いを与える。

 聖羅が植物を育てるのに水分はそこまで必要ないけれど、水分が足りないと土壌として安定しない。

 ある程度の粘りがないと、またすぐに荒涼とした大地に戻ってしまう。

 俺も村雨丸で手伝うけど、やっぱり操るのと違って生み出すのは効率悪いなぁ。


「大体10ヘクタールくらい土壌改良できたか?」

「やっぱり聖女の力はデタラメニャー……」

「大試と鍛えてきたから」


 聖羅がドヤ顔で力こぶを見せてくる。

 そこまで盛り上がってないけど、逆によくあれであのパワーが出せるな……。


「さて、畑自体はできたけど、何をまず栽培するかなぁ……」

「はいはいはい!大試!ウチ小麦が良い!」

「え?なんで?」

「お米はもっと水がないと大変だと思うけど、小麦なら作れそうだし、パンとかうどんにできるもん!」

「ふむ……」


 小麦は、太古の時代から作られてきた作物だ。

 それだけに、育てやすさは保証付き。

 更に、人々の主食の素材としてもってこいだし、いろいろな使い方ができる。

 よし!決まりだ!


「魔族の領域の自然破壊によって作る最初の作物は、小麦に決定だ!」


 こうなったら、ジャムとかも作りてぇなぁ。



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