第213話

「それで大試はノーギョーなんてして楽しいのか?」

「……楽しいな」

「わっかんねー!草生やすのがどう楽しいってんだ!?」

「草だってそれぞれ種類があるし、しっかり観察してると案外楽しいぞ?」

「もっとわかんねーわ!」


 学校の時間になったので、農作業を一旦やめて登校した。

 そしたら、何故か魔族の男子たちが、やけに親しげというか、友達っぽいかんじで話しかけてきた。

 何?昨日あんなに敵対的じゃなかった?

 2日目は、初手名前呼び。

 なにこれ……?

 ヤンキー的なノリわかんない……。


 隣の席に座っていたエリザに、これがどういうことなのかこっそり聞いてみる。

 魔族にして元暴走族のヘッドだかなんだかの彼女ならわかるだろう!


(エリザ!エリザ!なんでコイツらこんなフレンドリーな感じなの!?)

(え?大試が昨日ボコボコにしてたから、クラスメイトとして認めたんじゃないの?)

(戦闘民族過ぎる……)


 ボコボコって、鉄球を投げつけてたアレか?

 男子がどんどん受けに来るから、こっちも気兼ねなく投げてたけど、アレで仲良くなんの?

 魔族はわからんな……。


 野郎どもがフレンドリーだっていう計算外の事はあったけど、やっぱりというかなんというか、魔族にとって農業の良さはあまり理解してもらえないらしい。

 定住して作物を育てるようになったからこそ人類の文明は発達してきたと言われているけど、魔族はその辺りの積み重ね無く力で全てを押し通してきたのかもしれない。

 あれ?魔族もエルフと一緒で人間が作った存在なんだっけ?

 ゲームの設定がどうなってるのか俺にはわからんからなんとも言えないけど、よくこの時代まで魔族たちは絶滅せず生き残ってきたな……。


「エリザ的には、暴力的な男ってどう思う?」

「ウチは、自分には優しい男の人がいいかなー?でも、ここでモテるのはオラオラ系かも?」

「じゃあ優しい男を目指すわ。オラオラ系は無理」

「大試は優しい顔してオラオラしそうだけどなー」


 失敬な!

 俺の半分は優しさという要素で構成されているんだが!


「私は、強くてデロデロに優しい大試が好き」

「わ、私は!普段優しいのに、たまに強引に顎をクイッとしてきたり壁にドンって大試さんにされてみたいです!」

「そ……そうか……」


 聖羅と有栖が、ここぞとばかりに言ってくれる。

 正面から言われると照れるよな……。


「ニャーは休みとお小遣いくれる男が好きニャ」

「ある意味魔族っぽいわ」

「ワシはベタベタしても怒らん男が良いのう!」

「ソフィアさんにベタベタされて怒る男なんているんですか?」

「大試以外にやったことないからわからんのう」


 好みって色々あるなー……。


「私は容赦なく弱点部位に拳を叩き込んでくれる女性が……キャッ!言っちゃった!」

「……え?だれ?」


 いつの間にか隣りにいた魔族の女の子が何かをカミングアウトしている。

 頭には犬耳……狼耳?がついてる。

 クラスメイトだろうか?


「あれー?ミリスじゃん!」

「エリザ様〜!おはようございます〜!」

「おはよー!」

「有栖さまも聖羅様もおはようございます〜!」

「おはよう」

「おはようございます!」


 ……この反応、クラスメイトなのかな?

 正直覚えがないけど、逆に俺の記憶に残ってる女子のほうが少ないだろうから今更だろう。

 ただ、多分もう忘れないだろうな……。

 だって、こんなに聖羅達に目をハートマークにして見つめてる上に、さっきのカミングアウトだもん……。

 俺の中のヤバいヤツカテゴリーにガッツリ登録されました……。


「大試くんだっけ?私はワーウルフのミリスです!好きな弱点は、コメカミとミゾオチです〜!」

「えっ……あー……うん、よろしく……」


 ヤバいヤツカテゴリーでカバーしきれないヤバさかもしれん……。

 尻尾ブンブン振ってるし……。


「えーと、ミリスさん?」

「呼び捨てでいいですよ〜」

「……じゃあミリス、農業って興味ある?」

「無いですね〜。お肉が生えてくるならともかく、草はいらないです〜」


 この娘も農作物を草と言ってのける類の人間か!

 狼耳だからか!?


 ん?まてよ?だったら肉を作れば良いのか?


「ミリス、仮にだけど、ヘルシーな肉が安く手に入る用になったら嬉しい?」

「嬉しいですね〜」

「それが畑から生えてきたら?」

「生えるんですか〜!?」


 成る程……これはもしかするともしかするかもしれない……。

 魔物の領域に、畑の肉を普及させるチャンスか?

 人間用にも、家畜の飼料にもなる!

 油だって絞れる!栽培しやすい!


「ありがとうミリス!キミのお陰で作る作物2つ目が決まった!」

「そうなんですか〜?もし何かお礼をくれるのであれば、聖羅様にミゾオチパンチをお願いしたいんですけど〜……」

「……聖羅、やってくれ」

「いいけど……。ふんっ!」

「おぼおぉ!?おご……うふふ……さいこおおお……」


 よし、この娘とはできるだけかかわらないようにしよう!

 聖羅がドン引きするくらいだからそうとうだぞ!


「みんな聞いてくれ!小麦の次に作る作物は、大豆だ!」

「「「「あー」」」」


 農作業メンバーに宣言する。

 みんな、「そういえばそれがあったかー」という表情をしている。


「ニャーはニンゲンの国いって大豆依存症になっちゃったにゃ」

「ウチもー!」


 魔族2人にも好印象のようだ。


「大豆のう……。エルフの里でもモリモリ作っとったぞ。どんなスイーツにしようかのう?」


 エルフにも馴染み深いようだ。

 大豆をモリモリ作るエルフか……。

 ヤッケとかいうビニール製の上着を着用し、麦わら帽子を風呂敷で顔の両サイドから包むように被ってる農家のおばさんスタイルのエルフたちを想像すると、エルフ観がバグりそうだ。

 十勝エルフの時点でアレだけど……。


 小麦と大豆があれば、いろいろな食事メニューが作れるようになる。

 栄養バランスもいい。

 大豆もやしは、ちょっと主張は強いけど野菜的な栄養だけじゃなくタンパク質まで取れる優等生だ。

 大豆で作る肉っぽい料理も色々作れるし、もちろん和食に欠かせない調味料群の材料にもなる。

 楽しみになってきた!


「大試、私も2種類作りたい作物がある」


 テンションが上ってきた俺に、聖羅が自分も意見をと挙手する。

 どうやら、相当な自信がある意見らしい。


「2種類もあるのか」

「本当は3種類作りたいけど、お米は私がいないと難しいと思うから」


 やっぱり聖羅からしても米をここで継続的に作っていくのは難しいとの判断らしい。


「それで、何が作りたいんだ?」

「りんごと、ぶどう」


 シードルとワインですねわかります。


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