第214話

 魔族の学校2日目。

 午前中は、やっぱり小学校レベルの授業が続き昼休みとなった。

 今日は、弁当ではなくて、日本で入手した食材を持ち込んでのバーベキューだ。

 なんでかって?

 農作物を草と言い放つ魔族共に、食の喜びってやつを匂いで教えてやんだよ!


 もちろん肉も大量に用意したけど、今回の目玉はやっぱり野菜。

 畑からこんなに美味いもんが収穫できるのかとびっくりさせたいんだ。

 だから、授業に出席する必要がないファムとソフィアさんに頼んで、授業中から炭の火起こしを頼んでおいた。

 基本的には、俺、聖羅、有栖、エリザ、ファム、ソフィアさん辺りが食べることになると思うんだけど、匂いにつられて何人かやってくるかもしれないので、焼き台は3つ用意しておいてもらった。

 ソフィアさんが俺から100m以上離れられないため、割と教室から近い場所で準備しているんだけど、近いのもあって授業中からすごい良い匂いがしていた。

 沸き立つクラスメイトたちを置いて、俺達はさっさとファムとソフィアさんが待つ宴の席へと赴く。


「炭の火起こしは初めてやったけど、割といい感じになった気がするニャ」

「ワシが監督したんじゃから当たり前じゃな!これでもアウトドア歴ウン百年じゃから!」

「流石にゃー。じゃあもう肉焼いていいかにゃ?」

「ならん。最初は野菜じゃろ」

「にゃああぁ……」


 年長者と次点の2人がエンジョイしている。

 良いことではあるんだけれど、ソフィアさんは自分で自分を焼肉奉行だと言っていたので、ちょっとだけどうなるか心配していた。

 まあ、うちのメンバーは、自分で焼くより焼いてもらいたがる奴が多いからいいけどな。

 聖羅と俺の2人で、風雅や親たちが狩りでまる1日いないときに外で焼き肉してたら、めちゃくちゃエンジョイしてたのに、気がつけば俺は全く肉を食べてないことに後から気がついた覚えがある。

 後から考えると、あのときの俺は、焼き肉の匂いと聖羅がモキュモキュ食べる姿で満足していたなあれは……。


 しかし、今日は焼く面積も、焼く食材の量も十分に確保してあるから、焼くのを担当する人も含めてみんな満足できるはずだ。

 そう!腹ペコ魔族たちが襲撃してこなければ!


「まさかこうなるとは思わなかった」

「そうにゃ?魔族の学生のハングリー精神を舐めすぎにゃ」

「ワシが焼いたんじゃから当然じゃろ!」


 校舎に近い校庭で行われていたバーベキューだったけど、いつの間にかクラスメイトが全員揃っていた。

 焼き台なんてもちろん足りず、岩を並べて焚き火のようにしながら、その上に網を置いて焼いている。

 持ち込んだ食材がモリモリ消えていくけれど、この食材達の購入費用は王様と魔王様のポケットマネーから出ているので、俺としては別に問題ない。

 ちゃんと彼らが希望したイカとエビっも準備してあるし。

 王様と魔王様が参加できるわけ無いけど。


「やべーなこの草!焼くと甘くなりやがる!」

「こっちの草は焼いても苦いぞ?だがそれがいい!」

「これ肉なのか!?俺達が今まで食べてた魔物の肉はいったいなんだったんだ!?」

「いやお前らが食べてる肉も魔物の肉ニャ。魔物だってちゃんとしたもの食べれば美味しくなるにゃ」

「「「すげー!流石ッスファムさん!」」」


 男子生徒たちが、肉を焼くファムにキラキラとした目を向けている。

 ファムも気分が良さそうだ。

 それにしても、美味くても植物は全部草扱いなんだな……。


「なんですのこれ!?甘みが舌の上で爆発しましたわよ!?」

「ありえません……こんな食べ物があるなんて……!」

「羊の肉!?クルンと丸まった角の動物……それって悪魔の肉ってこと!?」

「いや、羊は羊、4足歩行の家畜じゃ。そしてこの料理はジンギスカンというやつじゃな。こっちはメープルワッフルじゃ。どれも農業によって育まれたものなんじゃよ。いろいろな味を代わる代わる取ることで、それぞれの美味しさがその都度最大に引き出される。作った者たちへの感謝を忘れずに、美味しく食べるんじゃぞ」

「「「はい!ソフィアお姉様!」」」


 ソフィアが担当している区画は、女子人気が高いらしい。

 バーベキューなのに、甘いものも焼いていくアメリカンな感じが受けているらしい。

 魔族の領域には、甘味すらまともにないらしいから、多くの魔族たちがその味の暴力にノックアウトされている。


「これ、農業への関心を高める効果より、アウトドアの魅力を伝える会になってないか?」

「大変楽しいレクリエーションです!あ、そのお肉は私が焼いたやつですのでよしなに!」

「大試、このトウキビもう食べても良い?」

「なんか王都だとトウモロコシって言うもんらしいぞ」

「関係ない。トウキビのほうが言いやすい」

「良いけどな別に」

「ねぇ大試!おモチも焼いて良い!?」

「JKギャルの格好した魔族が切り餅やこうとしてる姿の違和感がすごい」


 うちの面々もそれぞれ楽しんでいるらしい。

 このバーベキューで農業への認識を変えられたかはわからないけど、聖羅たちが喜んでくれたというだけで、少なくともやるだけの価値は有ったな。


 俺が1人納得しながらホッケの開きを焼いていると、食事するためにスーツの口部分だけ開けた聖羅が、焼きもろこし片手に立ち上がり、みんなの注目を集めながら、大声で話し始めた。


「今、みんなが食べているものは、農家の人達が畑で作ったものが多い!木から採れたものとか、畑で取れたもので育てた動物の肉もあるけど、どれも農業によって作られてる!私は、この魔物の領域にも、そんな農業を根付かせたい!みんなも、自分たちが今食べているものの美味しさは理解したと思う!それが魔物の領域で満足に入手できない理不尽も感じたと思う!もし、少しでも私に協力してくれる気があるなら、農作業の手伝いをしてほしい!私は、どんどん新しい畑を作っていくから、完成した畑の管理を手伝ってくれる人を募集してる!興味があったら大試に言って!」


 色々言って満足したらしく、聖羅が元の席に戻る。

 勝手に協力要請しちゃったけど、大丈夫かな?

 聖羅の作業風景は見せられないからなぁ……。

 また箒束ねて走り回るしか無いか?


「大試、私の演説は100点満点中何点だった?」

「99点かな。焼きもろこしにもう少し美味しそうな焦げがあったら100点だった」

「そっか。次頑張るね」


 楽しそうなので良しとする。



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