第215話

「朝早くに土を掘るのは気持ちいいな!」


「土掘るのはいつだって楽しいぞ?」


「そんなのお前の種族くらいだろ!」




 夜が明け、辺りが明るくなってから1時間ほど。


 俺の目の前に広がる広い畑には、魔族が大量に押し寄せていた。


 聖羅が作り出した堆肥と、他の者による土魔術を併用することで、畑に適した土を大量に作り出せるようになっていた。


 その土を使って畝を作り、種や苗を植える作業を土魔術が使えない魔族たちにやらせている。


 通常の人間と比べ、非常に強力な肉体を持つ魔族たちがせっせと協力することで、農業機械を使うよりも早く畑が出来上がっていくんだ。


 ついでに用水路なんかもガンガン作ってもらっているけど、そっちもアホみたいに高速でき上がっていくから怖いほどだ。


 聖羅による聖女パワーを堂々と使うことができないという縛りがあるうえでこれなので、そのマンパワーは驚愕の一言。


 難点は、基本オラついているから、奴らに舐められない強者じゃなければ、指示を出しても聞いてもらえないってことだろうか。




「そこ!もう少しふんわり土かけないとダメにゃ!そっちは力入れすぎニャ!」


「「「ハイっすファムの姐御!!!」」」




「うむ!おぬしら中々素質があるのう!よい土魔術じゃぞ!」


「「「ありがとうございますソフィア様!!!」」」




「畑で育てるものは、大抵他の生き物、特に魔獣にとっても魅力的な美味しいもの。だから、守るためには弛まぬ努力と積み重ねた知識、何より、力が必要」


「「「「「「「イエー!!!!!!!ヒィィィィハアアアアアア」」」」」」」




 魔族たちが、うちの女性陣の指示に従って楽しそうに畑仕事をする光景を眺める。


 魔族の学校に来て2日目にバーベキューをしたら、食べ物って美味しいんだなと気がついてしまった魔族たち。


 魔族の領域出身者であるファムとエリザをして、「そりゃそうだよ(ニャ)」と言わしめる程に効果が抜群だったようだ。


 彼らは今、戦闘力こそが全てという旧来の魔族の認識を、美食という一点によって覆されている最中だ。


 それに、何かを自分たちの手で育むという行為にも目覚めつつあるように見える。


 といっても、あくまでバーベキューに参加した学校に居た奴ら限定の話なので、魔族の領域全体の奴らにその考えを浸透させるには時間がかかるかもしれないけど。




「大試さん!ジャガイモを作りませんか!?騎士といえばジャガイモと聞きました!」


「ジャガイモばっかり作って滅亡しかけた国もあるから気をつけろよ?」


「そんな!?」


「ウチ、ジャガイモ作るならカレーの材料も色々作りたい!スパイスも!」


「さすが親子だな。カレー美味しいもんな」


「……ごめん!やっぱりナシで!」




 人間と魔族の姫の2人は、このプロジェクトであまり前に出るつもりはないらしい。


 有栖は、この手の作業があまり得意ではないらしいから。


 エリザは、基本的に食べるの専門で、自分の力をこの分野で活かせるかわからないから。


 2人共、ぶっ壊すのは得意なんだけどな。


 特にエリザは、あの超絶調理スキルを披露する魔王様の娘なんだから、似たようなことができてもいいんじゃないかとも思うけど、それは流石に無茶な考えか?


 俺だって母さんみたいにデタラメな魔術を使える訳でもなければ、父さんみたいに全ての相手を一撃で確実に叩き切るほどの刀の腕もないもん。




「まあいいや……。それより、俺達は俺達でやることやるぞ。これをしっかりしておかないと暴動が起きそうだ」


「あの……玉ねぎの皮を向いていたら、玉ねぎがなくなってしまったのですが……」


「わっ!?卵わろうとして握りつぶしちゃった!」




 協力してくれている魔族たちへの報酬、それは、飯を提供することだ。


 基本的に食欲によって立ち上がった彼らが納得する物など他にはないだろう。


 とはいえ、まともに料理できる奴が少ないので大変だ。


 しかも、魔族には色んな種類の奴らがいるから、単一のメニューではまずい気がする。


 だって、ここから見えるだけでも、ヒト型とヒグマ型とワニ型とサイ型の魔族がスコップで毎秒10mくらいのペースで畝作ってるんだもん。


 せめて肉食向けと草食向け、雑食向けを作らないと……。




「エリザは、何食べたい?」


「オムレツ!」


「オムレツか……。成分的には肉食と言えるメニューだけどなぁ……」


「でも、みんな昨日普通にお肉食べてたよ?」


「……うーん……」




 という会話が調理前にあったけど、そうは言っても草食動物の姿してる奴らに肉を堂々と食わせるのもなぁ……。


 一応ヴュッフェ形式にしておくか。






 なんて思ってたんだけど。




「おい!それは俺のウインナーだぞ!」


「ほしいなら他のウインナーとればいいだろ!」


「その形が好きなんだよ!」


「カリカリベーコンは麻薬だと思う」


「オムレツおいしいですわ!!!」


「ヒヤヤッコってなんなんだ?この黒い汁と薄い茶色いのがすごい美味い!」


「これが……パン……?ふわふわのスポンジじゃなく……?」


「シャキシャキの草うめー!このかかってる白いのもうめー!」




 何食とか関係なく、モリモリと食べてらっしゃる。


 1人5人前くらい食べる計算で、更にその倍食べられても大丈夫な量を、簡単な調理ができそうな魔族を数人手伝わせて作ってもらったんだけど、それでもこのペースなら残らないな……。


 ってか、今更気がついたんだけど、よく考えたらこの世界はゲームをモデルにした世界だった。


 そしてそのゲームを作ったスタッフたちは、どうやら動物にはあんまり詳しくなさそうだったんだった……。




「食べたら元気が湧いてきた!まだまだ作業できるぞ!」


「畑だ!畑をモリモリ作れ!」


「ダメですわ!学校に行かないと単位が!」


「「ぐぬぬぬ!」」




 畑作りを始めたばかりだというのに、もうどの程度の面積が畑になったのかもわからない程度に開拓されてしまった。


 ここが数日前まで、砂と岩石に覆われ、照りつけるような強い日光で炙られる荒れ果てた土地だったと誰が信じるだろうか?


 水路に流れる水が、俺の剣や魔族の魔術によって生み出された物だから、管理を辞めたらすぐにまた元の土地に戻っちゃうんだろうけど。


 ただ、このペースで畑を作り続けていたら、1年もあれば魔族の領域の大半が畑になりそうだ……。




「放課後は私達だけで作業する。皆は、また明日手伝ってくれると嬉しい」


「「「「はい!」」」」




 聖羅は今日も魔族相手にリーダーシップを発揮している。


 世紀末なイメージだったけど、ちゃんとしたリーダーさえいればしっかりと言う事聞けるんだなぁコイツら。




 あれ?聖羅って魔王になれるんじゃ……。










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