第216話
ここ数日は、早朝に魔族たちと協力して畑を広げ、昼食に学校給食のように料理を提供し、放課後に聖羅と協力して作物をニョキニョキ育てている。
勉強?授業以外してねぇな!
建前とはいえ、留学してきているというのにこれはどうなんだと思わないでもないけれど、俺を呼んだ方も、送り込んだ方も、俺自身も、別に勉強が目的なわけではないからセーフだろう。
夏休み後に、魔法学園に戻ってどうなるかが心配だけど、そこはまあ自習でなんとかするさ。
夏休みの宿題って、こういう時に復習の役に立つし便利だなぁ。
……普通に勉強できる時間に幸せ感じるって、前世だったらまず考えられねぇわ……。
「そろそろ生け簀を作ろうと思う」
「エビだっけ?」
「そうだ。他にも行く行くはニジマスとかも増やしたいな。1種類だと病気や環境変化で大量死し始めた時に怖いから何種類か育てたい。因みに、エビはニョキニョキできるか?」
「できるけど、植物よりは時間がかかる。3日位かかるかも?」
「十分だ。多分普通だったら半年くらいかかるしな。種類は、バビルスエビってやつにしようと思う。淡水域に生息するエビの中では最大級で、泳いで生活しているから、水底を歩いて生活するタイプのエビより単位面積あたりの飼育可能量が多いらしい」
「野生のエビフライは飼わないの?」
「……ん?」
「え?」
最初の内は、聖羅の力を使って生産ペースを上げて軌道に乗せたいけど、最終的には魔族たちの手で全てが完結するようにしたい。
餌問題とか水問題とかあるけど、餌は農作物の残りカスとかを利用して回せるようにしたい。
水に関しては、今後の環境次第だな。
魔術をつかってため池や用水路を作ったので、砂漠だった土地にいきなり水が大量に発生した状態だから、正直なところどうなるのか予想ができない。
山でも作っておけば、上昇気流が起きて雨がその場で振りやすかったりするんだろうか?
でも、逆にその場所で洪水や土砂崩れも起きやすくなりそうで怖い気もするしなぁ。
水生生物の養殖もそうだけど、畜産もやっていきたいな。
畑を十分以上に広げることが出来たから、飼料用の作物もガンガン作れるようになった。
人間も食べられる大豆を始めとして、飼料用トウモロコシや牧草畑が広がっていて、いつでも家畜を飼育し始められるようになっている。
畜舎は、何を飼育するかが決まっていないから、ブロイラーという鶏を飼う施設施設しか作ってないけども。
ブロイラーは、前世の世界でもほぼチート扱いされてる家畜だったけど、この世界でもそのまま代表的な家畜だ。
肉としてなら2ヶ月もあれば出荷できるし、成熟が必要な鶏卵の採取用でも数ヶ月で卵を生み出すらしいからな。
牛や豚はまだどうするか決めていない。
もしかしたら、魔獣で丁度いいのがいるかもしれんしなぁ……。
気性が大人しくて、成長速度が早くて、病気に強くて、美味しい奴が居てくれないかなぁ……。
ただ、羊は育てたいな!オーストラリアといえばやっぱり俺の中で羊だし!
前世だとオーストラリアは、家畜の放牧地増やしすぎて色々問題も起きてたけど、この最初から砂漠だらけの魔族の領域ならそこまで気にしなくてもいいだろう。
バンバン自然破壊していくぞ!
家畜のフンで堆肥も作れるようになるし、一石二鳥なんだよなぁ。
まあ、それだけじゃ流石に肥料として足りない部分も多いから、化学肥料とかに頼ることにもなるだろうけれど、そういうのも今後魔族の領域で生産していけるようになれば、雇用も生み出せて良さそうな気がする。
材料は、この広い魔族の領域の何処かで採取できたらいいなと思ってる。
なんて思ってたら、気がつけば1週間で家畜だらけになっていた。
俺の予想以上に、この作り上げた環境は、家畜たちにとって住心地が良かったようで、聖羅のニョキニョキに触発されただけでモリモリ増えていってる。
エビは、2日掛からず卵を抱えているし、羊も生まれて3日で子を生む。
いつの間にかやってきて牧草を食い散らかしていたグリムバッファローというデカい牛の魔獣も、肉が美味しいらしいので家畜にしてみたら、魔獣だからか生育ペースがブロイラー並みに早く、ニョキニョキ使うと1日で子を生んだ。
牛乳も採れるしいい拾い物だったなー。
あとは……なんだ……。
オスの家畜を去勢したりする可哀想な作業できるように体勢を整える必要はあるけど、今のところ俺もそこまでクレバーに処理できていない。
所詮はチェリーでナイーブなボーイだから……。
「「「メエエエエ!!!メエエエエ!!!」」」
「「「ココココココココッ」」」
「「「モオオオオオオオオ!!!」」」
「うるっせええええにゃあああああ!あとクッセえええええにゃああああ!!」
「慣れろ。これからの魔族の領域は、これがデフォになっていくと思え」
「辛いにゃ……」
「でも、肉美味いだろ?」
「そこなんだよニャ。魔族の領域で毎日こんな美味いお肉とか野菜を食べられるなんて思わなかったにゃ……」
「なんであんな美味しくない物で皆我慢してたんだろ……」
ネコメイドが俺に作らせた飯を食いながらしみじみと呟いている。
隣のエリザは、前の魔族の領域グルメを思い出したのか渋い顔だ。
何にせよ、魔族の領域が満たされていけば、心に余裕も生まれて、ニンゲンの領域にまで攻め込もうって発想も浮かびにくくなるだろう。
逆に、魔族たちの力が増して、ニンゲンと戦いに行こう!なんて考え出す可能性もあるけれど、そうならないように聖羅や俺がニンゲンだってカミングアウトイベントも必要かもな。
こんだけ色々やってやったんだから、俺達がニンゲンだとわかれば、魔族のニンゲンへの意識も変わっていくだろう。
「ふむ、君たちがこの畑を作ったという留学生だね?」
食堂のおばちゃんみたいな格好で料理を作る俺に、後ろから声がかけられる。
畑作りを手伝ってくれていた若い魔族とは違い、力と威厳と積み重ねた経験を感じる渋い声だ。
振り返ってみると、そこに居たのは、二足歩行の雄ライオンだった。
頭のたてがみがハゲかけている。
魔像もハゲるんだ……。
「そうですが、どちら様ですか?」
学校には、こんな人は居なかった気がする。
手伝いにも来てなかったよな?
「突然すまないね。我はライオンマンの長、ライオネス13世だ」
そう言うと、ライオネスと名乗ったライオンは名刺を出してきた。
魔族の領域で名刺を渡されたのは初めてだ……。
あるんだなぁここにも……。
「これはどうも。犀果大試と申します。申し訳ありませんが、名刺は持っていません」
「ははは、構わないよ。それより、キミ達に聞きたいことがあって声をかけたんだ」
そう言うと、料理や畑へと視線を移らせ、再度こちらを見つめてから聞いてきた。
「これは、どこの技術なのかね?」
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