第210話

「聖羅様!よろしくお願いします!」

「わかった。ふぅぅぅぅ……せい!!!」

「負けません!エクスカリバー完全開放!とおおおおまあああああれええええええええ!!!!」

「2人ともガンバー♪」


 突然ですが、現在校庭でドッヂボール中です。

 午前中の授業は、国語、社会、理科、算数だった。

 数学じゃないぞ?

 しかもこれ、赤点取ったり授業サボったりした奴らに指示されている補習なんだよなぁ。

 1クラス全員が参加してるけれど……。


 魔族は、種族によって学力に差がありすぎるため、共通で行う授業に関してはかなりレベルが低いらしい。

 もっと高度な勉強がしたい奴らは、家庭教師とか塾に通うらしい。

 立場的には、魔族のお姫様のようなエリザなんて、中学までは魔王様によって全教科家庭教師を雇っていたらしい。


 だけど、魔族の学校において数少ないハイレベルを要求される授業が、この体育だ。

 学校内の売店や食堂で提供されている食品はクソ不味いとのエリザとファムのアドバイスから、昼食に自分たちで用意した弁当を皆で食べたところまでは良かった。

 しかし、昼休み後の体育の時間になった途端に、クラスメイト達の目の色が変わった。

 そもそも、この体育だけは補習ではなく、補習に参加させられている生徒たちのモチベーション維持のためのお楽しみ要素として設定されているんだとか。


 なんだそりゃと思わないでもなかったけれど、実際にこうしてエンジョイしている奴らをみると、どうやら上手く機能しているらしい。

 ただ、使ってるボールの素材は、何らかの金属だ。

 魔族基準のスポーツなので、人間の常識では考えられないもんを使ってらっしゃる。

 まあ、それを人間の身でエンジョイしている聖羅と有栖は中々の人外っぷりだけども……。


 因みに、有栖のエクスカリバーも聖属性の力を発しているらしいけど、武器から発せられている分には、魔族もそこまで気にならないのかあまり問題になっていない。

 むしろ、聖羅の全力投球を止める有栖に歓声が上がっているほどだ。

 女子側は大盛りあがり。

 今休憩しているエリザも先程まで相当な活躍をしていた。


 対して、こっちの男子チームはお通夜状態だ。

 何故かって?

 歓声が上がるような人気のある人材が女子の方にばかり行っているので、男子としては納得がいかないらしい。

 だからって、これはないと思うんだ。


「犀果大試!お前は1人チームでいいよなぁ!?」

「ドッヂボールで1人チームとか初めて聞いたわ。こっちの外野に飛んだらどうなるんだ?」

「そりゃ相手ボールになるに決まってんだろ!」

「てめぇとなんて同チームになりたいやついねーんだからしかたねーだろ!」


 ワニみたいな頭の奴と、亀みたいな顔と甲羅を背負った魔族が仁王立ちして言い放つ。

 うむ、前世だったらそんな敵意あるセリフすら吐かれなかっただろうから、こちらとしては大してショックも受けていない。

 むしろ、魔族が相手だって言うから、試合前に魔術ぶち込まれるくらいは覚悟してたんだけどな。


「おいおい!どうしてこんな毛も角も翼も外骨格ない奴が聖羅様の婚約者なんだ?」

「どうせ権力にで無理やりとかそんなんだろ?田舎あるあるだよなー」

「なぁ!コイツが聖羅様の婚約者に相応しいか俺達で確かめてやろうぜ!」

「「「おー!」」」


 一体感がすごい。

 だけど、何様だお前ら?

 唐揚げにするぞ!


「なぁ、早く始めないか?人数なんてどうでもいいから、俺もドッヂボールをやりたい」

「いい度胸だ!」

「ボコボコにしてやるよぉ!」

「全治3日は覚悟するんだなぁ!」


 魔族は、体の回復能力がとても高いため、人間だと致命傷クラスのダメージでも数日で治るらしい。

 その基準で全治3日となったら、人間である俺は死ぬかもしれん。

 まあ、大人しく怪我させられる気もないが。


「死ねよや!」


 相手のモグラみたいな見た目の魔族が、筋肉を盛り上げながら鉄球を投げてくる。

 掛け声に死ねはどうかと思う。

 スポーツによってはそれだけで退場処分だぞ?


「でも単純なコースで助かるわ」

「なにぃ!?」


 両手を使って鉄球の回転を敢えて一気に殺さず、手の上で滑らせるようにしながら、勢いを滑らかに抑えるようにして受け止める。

 手触りがボールとして扱うには不向きだけれど、これなら多少力を入れて扱っても多少は持ちそうだ。

 魔王様から、この学校での生活で荒っぽいことを行う事が多いだろうということで、多少施設を破壊したり相手に怪我をさせてしまう事に関して許可を得ている。

 そのくらいは魔族の間では当然の出来事らしいので。

 施設に関しては、魔族の魔術師がサクッと直せるらしいから、気にしなくて良いと言われている。

 だから、例えこの鉄球を俺が思いっきり投げることで、大砲が直撃したような被害が出たとしても俺は無罪だ……と思う。


 流石に相手を死なせたらヤバいかもしれないから手加減するか……。

 投げる力は5割……念の為2割くらいにしておくか!


「よっと」


 あっ。

 変な回転かかって下に折れるように落ちちゃった。



 ドゴンッ!!!!



「「「うおお!?」」」


 誰もいない所に落ちた鉄球は、コートの中にクレーターを作ってしまった。

 よく考えたら、鉄球を球技で扱うくらいの速度で投げるだけでも相当な破壊力なのに、バフもりまくりの俺の力で投げたら大変なことになるな。

 しかも、俺は対人の球技には不慣れなんだよなぁ。

 だって相手が居なかったから学校の授業位でしか……。

 悲しくなるからやめよう。


 鉄球の破壊力を目の当たりにした魔族たちが戦慄している。

 そこからいち早く立ち直ったクマみたいな奴が、コートに埋まった鉄球を抜き取って、こちらに転がしてきた。


「も……もう一本こい!いや、投げてくれ!受け止めてみたい!」

「お……俺もだ!!」

「ここで引いたら漢じゃねぇ!!!」


 何故か、どいつもこいつも決死の覚悟で俺の鉄球を止めたがっている。

 なんだコイツら、マウントとロマンだけで生きてるのか?

 でも、そのノリ嫌いじゃない!


「いいだろう!順番に並べ!喰らえ、剛鉄球!!」

「おっおおおおおおおおお!!!」


 1人めのクマが、パツンパツンになっていたジャージをビリビリに引きちぎられながら受け止める。

 パワーは先程と同じくらいの2割り程度に抑えたけど、今度は変な回転無しで真っすぐ飛んでくれた。

 その分威力は上だったと思うけど、満身創痍ながらも止めたのは流石クマといった所か?


「くっ……!よっしゃああああ!」

「次は俺だ!」


 そんな調子で、気がつけば男子全員が戦闘後のようにボロボロになっていた。

 鉄球投げていた俺だけが無事。

 ボロ雑巾のように倒れ伏す男子たちを前に満足げな俺を見て、女子たちが変な勘違いをしているのを俺はまだ知らない。



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