第209話
魔道外骨格『聖骸シリーズ』。
フェアリーファンタジーにおいて、シリーズ毎に何度も出てくる定番防具らしい。
この世界の防具には色々あるけれど、魔道外骨格はその中でも最上位の物だ。
魔力によって防御力を上げるのに加え、身体能力も上げるのが特徴。
ファンタジーな世界なのに、デザインは完全にメカだ。
今更だな?
そして聖骸シリーズは、魔道外骨格の中の更に最上位クラスだ。
シリーズとは言っても、「最高性能の奴は全部このシリーズってことにしておこうZE!」という考えでまとめられているとしか思えないほどに統一感が無く、個性的なものばかりとなっている。
聖羅が今装備しているのは、『黒聖の聖骸』。
聖骸シリーズの中でも特に異色の性能を誇っているけれど、全シリーズで実装されている物だ。
その特徴は、装着者は、あらゆる聖属性の力を外部に放出する事を禁止するという絶対のルールを強制される事。
例えば、聖羅が使う身体強化や、自分自身への回復魔法以外の全ての魔法は全部アウトだ。
仮に使おうとすれば、全ての聖属性の力を純粋な魔力に変換されてしまい、魔道外骨格の燃料にされてしまう。
なので、聖女や、聖女からの祝福によって聖なる力が使えるようになっているような主人公たちが着ると、本来の力を発揮できなくなってしまう。
じゃあ何でそんなもんが毎シリーズ実装されているかといえば、便利な使い道があるからだ。
魔族にとって、聖属性の力は、かなり不愉快に感じてしまう物らしい。
ファムと聖羅が初めて会ったときにめちゃくちゃ敵対心持たれていたのも、聖羅から漏れ出る聖属性の力がヤバ過ぎたのが最大の理由らしい。
もっとも、今では慣れてしまったらしく、聖羅の隣で煎餅食べながらテレビ見てたりするけど。
本人曰く、「寝起きに耳元でデスメタルを下手くそなラップ付きで演奏されたくらい不快ニャ」とのことだ。
そりゃ嫌われる。
しかし、黒聖の聖骸を装備しておけば、どんなに聖女パワーが強くても関係なく外部からはわからない。
聖女や主人公である勇者たちがデタラメにどれだけ力を高めたとしても、漏れ出ることなく黒聖の聖骸が固くて強くなるだけだ。
だから、魔族から聖属性の力を持っている事がバレないので、ゲームの中だと魔族エンカウントすることが無くなるらしい。
ただ、ゲームをモデルにしただけのこの世界だと、聖属性の力とか関係なく「目があった!」と喧嘩をふっかけられることはあるらしいけど……。
というか、魔族の間では割とメジャーなコミュニケーションらしいけど……。
もちろん俺はそんな物を知らなかった。
リンゼ情報だ。
「リンゼ、なんか聖等を留守番させる方法か、もしくは聖等を魔族の領域に連れて行ってもバレない方法はないか?」
『……ちょっと待って。アンタ今、魔族の領域にいるの?』
「そうだぞ。びっくりだろ?」
『いや……うん……大変ね……』
なんで引いてるんだい?
キミが作った世界だぞう?
つまり俺はお前の被害者だ!
『魔物の領域からスマホで連絡できるのね』
「魔王城にはwi-fi飛んでるからな。SIMを魔族の業者の奴に変えたら、外でも使えるらしいぞ」
『へぇ……』
「それで、何かいい案あるか?」
『そうね……。まず、聖羅は最近アンタと一緒に居られないことが多くてイライラしているから、怒らせずに留守番させるのは無理ね』
ですよねー。
『だから、もし怒らせたくないなら連れて行くしか無いわ』
「でも連れて行ったらバレるだろ?しかも、バレたら下手したら即戦争だろ?」
『安心なさい。ゲームの中でも出てきた防具を装備させてあげればバレないわ』
「ホントか!?そんな便利なもんがあるのか!?」
『ええ。ただまあ、入手するのが大変かもしれないけど』
「大変なだけなら大丈夫だ!聖羅を怒らせずに留守番させるという不可能に比べればな!」
『アンタ、最近色々毒されてきてるわね』
もっかい言うぞ?俺は被害者だ!
そして俺は、リンゼから黒聖の聖骸が取得できるダンジョンの場所を教えてもらった。
リンゼ曰く、魔族の領域編の中盤頃に挑戦するダンジョンらしいけど、まあなんとかなるだろう。
だって、オンラインゲームの基準で強化されてしまった俺は、多分据え置きゲームのほうにあったダンジョンくらいなら1人で行けると思うんだよな。
……オンラインゲーム基準のダンジョンになってたら、全力で離脱するか……。
「じゃあ早速ダンジョン攻略してくるわ。リンゼは、よければたまに俺の家の様子見ておいてくれないか?アイが好き勝手してたらいつの間にかSFの世界になってそうだし」
『別にいいわよ?その代わり、夏休み中は裏庭の池でいっぱい釣りをさせてもらうわよ?』
「存分にどうぞ」
『……ところで、アンタがこの前一緒にいたリリアって娘なんだけど、アンタ、あの娘が何者か知ってるの?』
「亡国の姫らしいぞ。京都自治区の外を見せてくれって頼まれて預かることにした」
『そう……。まあ知らないならその方が良いわ』
「え?ちょっと待て。何か気になる言い方だな?」
『気にしなくていいわよ。それじゃあ頑張りなさい。またね』
そんなこんなで、魔王様に頼んでダンジョンまで運んでもらい、そこからは全力でダンジョンを攻略していった。
敵もそこまで強くなかったけれど、とにかく長い。
罠も何もかも踏み越えて突破したのに、結局出てこれたのは2日目の昼だった。
魔王様に更に酷使し、家に返してもらって、そして聖羅を連れて魔族の領域に戻ってきて、多少性能を試して休憩したと思ったらもう学校ですよ。
因みに、黒聖の聖骸を装備した聖羅は、スーツと聖獣のバフだけの俺と全力の組手ができるくらいの戦闘力があった。
それも、聖女パワーを開放しての使用ではなく、あくまで普段から漏れ出ている分だけでやっていたらしい。
にも関わらず、どこの少年漫画だよってくらいの戦闘を繰り広げて、聖羅が満足することでやっと終えられたんだ。
こうして、黒いバトルスーツを着用した肉弾戦専門の聖女様が出来上がったわけ。
―――――――――――――――――――――――――
「弟子にしてください聖羅様!貴方のその無慈悲な拳は、正に魔王に相応しい!」
「こんな!こんな残虐で冷酷な攻撃をクラスメイトにできるなんて!?」
「あのあの!聖羅様は女性同士はどうなのでしょうか!?もし問題ないのであれば、愛人にしてください!」
「弟子にはしない。残虐だったのは謝る。回復魔法前提の戦い方だったのを忘れてた。女性同士は興味ない」
朝のホームルーム中だというのに、我も我もと聖羅に挑み始めた魔族の学生たち。
先生も特に止めないから、これは普通の光景なんだろう。
そして、全員を聖羅はねじ伏せた。
「じゃあ、夏休みの間よろしく」
「「「はい!聖羅様!」」」
聖職者が女神を見るような目で、魔族が聖女を見ていた。
どうしてこうなった?
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